突っ込む首
「へぇ~、あの後クルックさんが助けに来てくれたのか」
カリヤがショートとの交戦で気を失った後、少年の身柄を保護したのはどうやらクルックさんだったようだ。
道理でファラデー支部の方には何も情報がなかったわけだ。
「うん、これくれたの」
「なんだい? その袋は…?」
つとむは、ズボンのポケットに入れていた袋をカリヤとルーカスに見せる。
つとむの手のひらに乗っている袋を持ち上げ様々な方向から見ていると、カリヤはある異変に気づいた。パラボネラ特有のツン、とした香りが鼻につく。
「パラボネラ植物が入ってる袋か。あれっ、ここの所に穴が空いてるじゃねぇか! 中身も少し溢れてるぞ?」
「ほんとだ……」
道理でショートに襲われるわけだ。獰猛で常に獲物を狙っている奴らからすれば、その小さな綻びは標的を襲うチャンスになりえてしまう。
「また今度来る時にでも新しい袋やるからな。」
「うん! ありがとう!」
前といい、今回といい、どうにもつとむはショートに遭遇しやすいらしい。
常に監視する訳にもいかないから、こうしてお守りを渡すことしか新入隊員に出来ることはない。
袋の中身がさらにこぼれないように穴を塞いでからつとむに返すと、三人は再び歩き出す。
「でも、この森と住んでる場所が近いなんて、危険じゃなかろうか…?」
「それは俺も思った。けど、なにか事情があるなら俺の出る幕はねぇし、余計になにかしたら話が拗れるだろ?」
「ふむ……」
なにか事情がある。
なら、首を突っ込まない方がいいのだ。
と、世間話をしつつ歩く一行の前に、人工的な柵と、入口のような門が見え始めた。
「これが入口か?」
「うん、これみせてとおるの!」
そう言ってつとむは自分の腕につけてある腕輪をカリヤとルーカスに見せる。
白く細い腕輪は新品同然のようにも見えた。
「ああ、【リンク】だね…!」
「リンク? リングじゃなくてか?」
「リンクさ…! いわゆる身分証明書みたいなものだよ…っ!」
「身分ねぇ……」
俺の住む田舎じゃそんな制度はなかったし、住む人なんて数えられる程しかいなかったから導入されなかったのだろう。
よくよく見れば、柵や門の近くには独特の香りを放つパラボネラが生えている。
見送りはここの辺りで充分か。
「じゃあ、俺たちは支部に帰るわ。あんまり森の奥に行ったりするなよ。最近、ショートが出没してるらしいからな。」
「え? かえっちゃうの…?」
「お、おう……」
つとむのことは嫌いじゃないが、どうにも子供の泣きそうな顔や悲しそうな顔は心に堪える。どうにかつとむに言って、慰められないものか。
おろおろとカリヤが対応に困っていると、門の向こう側から誰かが走ってくるのが見えた。その人影はカリヤとルーカスを見た途端、歓迎するかように手を振りながら話しかけてくる。
「あの! 依頼の応援に来てくれた人ですね!? 待ってました! 早くこっちに来てください!」
「え?」
その人は、どういうことかと聞こうとしたカリヤの腕を引っ張り、門の中へと引きずっていく。
「え? ちょ、ちょちょっと!?」
あれ? よく見たらこの人ショート対策軍の人だ。
背の小さなカリヤの腕を、ほぼ持ち上げるようにして連れていく彼女は、ショート対策軍から支給されている制服に身を包んでいた。
さらに反対の手には短剣のプラグが握られており、まさに戦闘中といった感じだ。
「か、カリヤ君…!?」
「お前も来い!」
「え、ええ…!?」
巻き込まれるなら、ルーカスを道ずれにしてやる。
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「これは……」
「なんと……っ!」
カリヤが連れ込まれたのは小都市の一区画。だったはずの場所だ。
家は崩壊し、地面にはひび割れの跡と瓦礫が多数あり、まるでこの場所だけが荒野になってしまったかのようだった。
「……どういうことだ?」
カリヤは思わず金色のピアスを指で触る。昔からの癖で、何かわからないことがあったりするとこうして自身のピアスをいじってしまう。
──おかしい。
この小都市の周りにはパラボネラが多く植えられていた。もちろんどれも立派に成長し、ショートの嫌う独特な香りもあったはずだ。
襲われる可能性は限りなく少ないにもかかわらずこの被害。明らかに一匹二匹ではないだろう。なら──
「もしかして、誰かショートを匿ってた人とかいました?」
「! ええ、そうです。よく分かりましたね」
その程度なら俺でも、なんならアズキでも直ぐに分かるだろう。
だが、本当に疑問なのは。
「どうやってショートを匿うというんだね、カリヤ君…!」
そこだ。
ショートは善悪、貧富で人を襲うか襲わないかを判断するわけじゃない。人であり、うなじにコンセントがあれば皆例外なく襲う対象なのだ。
「俺だって分からねぇよ。匿い方を誰かが知ってたら乱用されるに決まってるだろ?」
けれど、俺の疑問はあっているとこの隊員は言った。きっと証拠や根拠があってのことだろう。
「えーと、君は………」
「私はトオル班所属近接担当、下位戦闘員のロウと申します!」
トオル班。三大班ではないようだ。俺たち三人の他にも近くで聞き込みや片付けを行っているのは同じ班の仲間ということか。
「ロウさん、どうして誰かがショートを匿っていたと判明したんだ?」
新入隊員である自分が、先輩である下位戦闘員に向かってこの態度なのは実に失礼だが、逆に下からものを言っては色々と怪しまれてしまう。
ロウは自らの後方にて縄で縛られている男性を指さした。
「あの者がショートを引き連れながら街を徘徊する姿を見た、という証言があったのです。それだけでなく、今回の事件について自白もしているのですが、その、自分がやったことは分かるが記憶が無い。としきりに言っていて……」
「自白しているのなら事件は解決じゃないか…!」
「ルーカス黙ってろ」
と、カリヤがルーカスの名前を出すとピクリとロウが反応した。
「ルーカス…? すみませんが、あなたがたの所属する班はどこでしょうか。確かに私たちはファラデー支部に応援を頼んだのですが、未だに連絡が来ないのです。まさか……」
ギクリ。
という音がした。自分とルーカスから。
ここでバレるのは少々まずい。色々と内密な話を聞いてしまったし、なにより俺は失礼な態度をとっていた。
カリヤは固まっているルーカスを肘で小突くと、笑顔を貼り付けてロウへと向き直る。
「俺たち、ケンジ班に配属されたばかりの下位戦闘員なんですよ! だからまだ公に発表されてないっていうか! な! ルーキャス!」
「そ、そうなのさ…! この事件も、腕試しの一環で僕達に任されたわけなのだよ…! ですよな、キャリア!」
下手くそながらも俺の演技に乗ってくれてありがとな、ルーキャス。
「あら、あのケンジ班の…! お名前を間違えてしまい、すみませんでした!」
「いえいえ、いいのさ…!」
まぁ、ルーカスはケンジ班に入る予定だからあながち間違いではないのだが。
カリヤ達がケンジ班だと知ったロウは先程までの堅苦しい話し方ではなく、まるで有名人を見るかのような目で接するようになった。
やめてくれ、罪悪感が胸に刺さる。
ロウが事件の詳細を話している間、ルーカスもといルーキャスは誰にも聞こえない声量でカリヤに話しかける。
「(カリヤ君…! 嘘までついて何をするつもりなんだい…!?)」
「(ばっか、困ってる人がいるなら助けてやるのがショート対策軍の仕事だろうが)」
「(た、確かにそうだけども…!)」
なにか事情がある。
それで困ってる人がいるなら、首を突っ込むべきなのだ。




