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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
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三大班

 だが、そう上手くいくはずもなく。

 


「これで三十二戦中、三十二敗よ。カリヤ。」

「はぁ…………はぁ……おぇ……」



 地面に体を投げ出し、空を仰ぐカリヤを上から覗き込むようにしてアズキがくすくすと笑う。

 当のカリヤは荒い呼吸を繰り返すばかりで、反応する元気も無かった。



「あらやだ。こんな所で吐かれてもしょうがないわ。」


 そう言って彼女は薙刀を横に倒し地面に置くと、手のひらをカリヤの肩にあてて集中力を高める。


「ヒール」



 途端、カリヤの体にあった傷や痛みが塞がり、治まっていく。しかし体力や気力は如何せん回復しないままだ。

 一対一のこの戦いで、カリヤがこうしてへばっているとアズキは決まってヒールを唱え、カリヤを回復させてから痛みつけていた。



「ちょ、俺もう動けねぇよ……」

「そのくらい分かってるわ。こうして治していくことで、ヒールの使い方を体に教えこんでいるのよ。」

「へいへい、ありがたいことですねー」



 なんとも生意気な女だ。

 いくら戦っても、どんなに攻めても、全く隙一つ見せやしねぇ。

 化け物よりも化け物じみてるっていうかなんというか。


 


 ため息を一つ。

 顔を横に向ければ太陽がもう沈みかかってるのが見えた。



「なぁ、これで、プラグとか資質とか分かったんだから、そろそろ実戦に移ってもいいんじゃねぇのか? 弱いやつくらいなら俺でもぶっ飛ばせるだろ?」

「そうね……今なら新入隊員用の依頼程度は達成できると、私は思ってるわ。明日辺りにでも、掲示板を見てきたらどうかしら?」

「おっ、いいのか?」



 この辺り、本当にこの女に毒されてきたと感じる。

 俺はこの女の許可なしではいろいろ動くことも出来ないんだなぁ。としみじみとカリヤは思い知らされた。



「じゃあ、初任務の助けになるような物を渡しておかなくちゃね?」

「? なんだよ、助けって」



 体の痛みが止んだおかげで少しだけなら体が動かせるようになったカリヤは体を起こし、アズキと向かいあう。



「お守りよ」



 アズキは懐に用意してあった小さな袋を取り出し、カリヤの首に提げる。



「お守り?」

「中に、パラボネラが入ってるわ。これで噛み殺されることは多分ないでしょうね」

「パラボネラ……っていうとあれか。ショートが嫌いな草。」

「草………まぁ、確かに草ね。ちなみに、この袋が破れた時私に連絡が来るようになってるから、覚えておきなさい。」



 破れた時って俺の命無くなってない?



 カリヤは首からぶら下がる小さな袋を手に取ると、鼻に近づけてその香りを嗅ぐ。

 人間にとって希望となり、ショートにとっては害悪なそれを。しかしカリヤの第一印象はおそらくほかの一般市民とは異なる。鼻孔の奥にツン、とくるような香り。気づかぬうちにカリヤの眉間には皺が寄る。






 ────なんだか、嫌な匂いだ。











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 掲示板の前では大勢の人間が行き来していた。中には大柄な男や、小柄な女性。男か女かよく分からないような人もいる。誰も彼も依頼を求めているらしく掲示板の前で吟味している様子が見て取れる。



「って、見てるだけじゃなくて俺もなんか探さねぇと!」



 大きな掲示板には新入隊員用の依頼はないようだ。代わりにその隣に二回りほど小さな電子掲示板があり、そこには比較的危険度が低い依頼が漂っていた。


 しかし、カリヤにとっての問題はどちらもカリヤから高い場所にあるということだ。



「と、届かねぇ………」


 依頼を受注するためには実際にその依頼のアイコンを押さなければならないのだが、カリヤは手一個分、液晶に届かないでいた。


 周りは電子掲示板を見上げていて、カリヤなど視界に入っていないようだった。

 仕方なく台かなにかを借りようかと思っていた時、下から持ち上げられる感覚がした。



「うおっ!?」


 実際、持ち上げられたカリヤは驚きつつも電子掲示板に手を伸ばす。


「た、助かる! えーと……Fランクショートの討伐……っと。」



 カリヤは目当ての依頼を受注すると、自分を持ち上げてくれた人物を見て驚いた。



「ありがとな………って、ルーカス!?」

「おや…! カリヤ君だったのかい…!? 依頼は受注できたかね…?」

「ああ、できたけど……下ろしてくれねぇか?」



 カリヤがそう言うと、ルーカスはカリヤをゆっくりと地面に下ろし、手を頭の後ろに回しポーズを決める。



「ははは……相変わらずだな……」

「当然さ…っ! 僕はいつでも輝くために努力を惜しまないとも…! 見てくれこの姿を…っ!」

「はいはい見てる見てる」

「なんと雑な…っ」



 なんてとりとめのない会話をしつつ、カリヤはルーカスを連れて案内所へ向かう。

 案内所では受注した依頼について詳しい内容を聞けたり、プラグを通して達成した依頼を確認してくれる。



「それにしても、模擬テスト以来か。ルーカスはなにか依頼とかこなしたりしたか?」


 なんだかんだ変人だが、ルーカスは情報を入手するのにちょうどいい人物だ。有効活用しねぇ手はねぇだろ。と内心でほくそ笑む。



「うむ…! 実は僕、ケンジ班に勧誘されてね…! 元々は別の人から推薦を受けていたけれど、ケンジ班ならば良い、と許可を得たのさっ…!」

「へぇ~……そういうこともあるのか」



 きっと、ルーカスを推薦した人は彼に刃物を向けて脅したりはしなかったのだろう。羨ましい限りだ。

 頭の中でアズキが、うちはうち。よそはよそ。と言っているがここはスルーしよう。本人もいないことだし。



「それで、肝心の依頼は?」

「う…ああ、実はこれが初めてなのさ…! 昨日はケンジ班の仲間と交流を深めるために歓迎会があったものだからね…!」

「ほ~」


 そうこうしているうちに二人は案内所へと到着した。案内所の窓口には女性が五人ほど駐在しており、それぞれが対応をしている中、真ん中の女性の所へ向かう。

 


「すみません、さっき受注したカリヤですけど。依頼の内容詳しく教えてください。」

「はい、分かりました。カリヤ様、ですね。」



 彼女は事務的な口調で笑みを浮かべると、タブレットを操作し、カリヤの目の前に差し出す。



「内容は、グリッド森林に徘徊するFランクショート、サーベージドッグ五匹を討伐することです。報酬は百ポイントです」

「分かりました。地図とかは貰えたりするんすか?」

「はいこちらをどうぞ。視界に目的地が表示されます。無料で配布しているので是非お使いください。」



 女性がカリヤとルーカスにHUDチップをそれぞれ手渡す。

 正直、方向音痴なカリヤにとっては有難かった。


 案内所の女性にお礼を告げ、カリヤとルーカスはその場から離れた。



「グリッド森林なら、僕も同じところなのさ…! 共に行こうじゃあないか…!」

「ああ、別にいいけど。なぁ、百ポイントってなんのポイントだ?」

「おやカリヤ君知らないのかい…? ショート対策軍ではポイントがお金代わりなのさ…っ! プラグの改良や、飲み物食べ物、別のタイプの制服だってここで全部買えてしまうのだよ…っ!」



 やばい、初めて知ったぞそのシステム。なんでアズキとかクルックさんとか、教えてくれなかったんだよ。

 ああ、そうかあの人たち俺に戦闘部分しか教えてくれないもんな!



 ショート対策軍の支部から出ると、視界にグリッド森林への道のりが表示された。確かにこれなら迷うことはないだろう。


 ふと、歩きながら聞き流していたことが気になった。



「そういえば、さっきルーカスが言ってたケンジ班のことなんだけどよー」

「うん…? ケンジ班がどうしたんだい…?」

「ケンジ班って、どういう班なんだ?」



 その言葉を聞いた瞬間、ルーカスは驚愕の表情を顕にする。


「ええっ…!? カリヤ君、ケンジ班知らないのかい…!?」

「え、ああ、うん。なんで?」

「ケンジ班といえば、ファラデー支部でも上位の成績を修める、三大班のなかの一つじゃないか…!!」

「三大班??」


 なんだか凄そうな肩書きだ。三大ってことは他に二つあるのか?



「三大班も知らないのか…! よし、僕が教えてあげよう…!! 三大班は、僕の所属する予定のケンジ班と、遊撃を主とするミナト班…! そして、最も功績を上げつつファラデー地域で人気を集めるサエカ班がその一つなのさ…!!」

「さ、サエカ班~~~!?」



 さ、サエカさん!? サエカさんが所属してる班が一番すごい所ってことなのか!?

 うわ~~~~~!

 勧誘の話断らなければよかった~~~!


 カリヤはサエカからの勧誘を断ってしまったことに大して酷く後悔し、頭を抱える。と同時にふとあることに気づいた。



 おや、俺のよく知る人物の名前が出てこない。



「えっとー、アズキ班…ってのはないのか?」

「………アズキ班…?」



 隣を歩くルーカスの表情が少しだけ暗く、重くなったような気がした。




「アズキ班なんて、ファラデー支部にない方が良いと僕は思っている…っ」


「…………え…?」









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