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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
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属性と資質

 空は青く澄み渡っていて、遠くには悠々と飛ぶ鳥の姿も見える。周りにはビルなどの建築物はなく、独特な香りのする植物が生い茂っているだけだ。


 おかしい。

 俺はただ東京に出てきて、新しい生活に戸惑いつつも優しい先輩とかに手ほどきを受けながら立派なショート対策隊員になっていくつもりだったのに。




「あぁ、ここでいいかしら」



 カリヤの前を歩いていたアズキは桃色のツインテールを靡かせ立ち止まった。


 その手には薙刀のプラグが握られ、緑色に発光するコードが風もないのに揺らめいている。



「……なぁ、なんでこんな遠くまで移動したんだ?」

「それはもちろん、外部に秘密の特訓をするからよ」



 昨日の折檻から一転して甲斐甲斐しくカリヤの世話をするあたり、本当にこの女はなにを考えているのか分からない。


 先程までスカーレット監督官から新入隊員への説明会が開かれ、カリヤもそれに出席していたのだったが、なぜか勧誘を受けた者だけ早めに帰され、アズキに引きずられてしまったわけで。



「スカーレット監督官いわく、俺ら新入隊員はまずソロで実績をあげないといけないんだろ?なら特訓も何も、依頼とやらをこなさないと始まらねぇんじゃねぇのか?」

「確かに、勧誘を受けていない者は、今頃必死で依頼を受注して森の中を走っているといったところね」

「なら……」



 反論しかけたカリヤの口を、アズキの指が遮る。微妙に爪がくい込んでますよ、お嬢さん。



「焦ってもなにも始まらないわ。大体あなた、誰かの助けなしに功績をあげられると思ってるのかしら?」

「ぐ……」


 言い返せない分、ここは引き下がるしかない。


 そんな俺を見て、アズキは一つ微笑むと薙刀の柄を地面に突き立て氷柱を傍に出現させた。



「わっ、なんだそれ」

「【エフェクト】と呼ばれているわ。私の資質は”水”と”理”が飛び抜けて優れているの。だからこうやって氷を作り出すことができるわけ。」



 確か、クルックさんが言っていた資質は全部で8つ。

 火、水、土、風、明、暗、無、理。



「って、言われても正直どの資質がどうなってれば何が使えるとか分からねぇんだけど…」

「だから、それを説明するんじゃない。理解が遅いわね。」


 へいへい。



 アズキは作った氷柱に薙刀を振り落とし、一部を削り落とすとその窪みに腰掛けた。



「簡単なものから説明していくわ。あなた、火や水、土、風なんかは身近に居て、見たり感じたりすることは出来るわよね?」



 カリヤはふと目を閉じてみた。

 太陽の熱で少し体が汗ばんでいて、しかもその体は水で出来ている。その体を地面の上に立たせているし、今も風が吹いていると感じることができる。


「そりゃ、まぁ。」

「つまりその四属性が基礎となっているのよ。身近なものが基礎となり、残りの四属性が基礎を操る応用として働く。だから、本来どの人間も基礎の四属性から一つ、応用の四属性から一つ。得意なものが選ばれる。」



 そう言って、左手を持ち上げると手の平上に水を浮遊させた状態で出現させる。


「私の場合は基礎として水。」


 そして右手を左手の上に覆いかぶせるように乗せると、浮遊していた水が凍り始め、手のひらに氷が転がる。


「そして応用として理を操るの。どう?分かりやすいでしょう?」

「あ、ああ」



 まるで魔法使いかのように水や氷を出現させるアズキはその美貌も相まって魔性の女、魔女に見えた。

 ショート対策軍は普通の人間には出来ないことができるとは聞いたが、まさかこんなファンタジックなものだとは知らなかった。



 俺でもこんなふうに水とか火とか出せたり出来るんだろうか……



 カリヤは自分の両手を閉じたり開いたりしてみる。


「あ、言っておくけど、これは資質が高いからできる芸当よ。多分カリヤには一生無理ね。」

「なんで簡単に夢壊すかな!?」



 ちょっとでも夢見た俺の純粋な気持ち返せ!



「まぁ、たとえ資質が高くとも無理でしょうね。」

「は?なんでだよ」

「じゃあ自分の資質見てみる?」



 そう言うとその場に落ちていた木の棒で地面に絵を描き始めた。

 覗き込んでみると、なんだか八芒星を描いているように見える。しかも点と点を繋いで八芒星の中にさらに図を継ぎ足している。



「これが私の資質ね。」



 すっと、描きあげたものを木の棒で指す。一見すると、八芒星の中の八角形と言うのだろうか、かなり大きいサイズだとカリヤは感じた。



「大きいな。」

「でしょう?」


 誇らしげに胸を張るアズキ。いや、別に褒めてねぇよ?


「それでこっちがあなたのね。」

「………なんか、小さくねぇ…?八角形っつーより、七角形ぐらいになってねぇ…?」

「だから言ったじゃない。」


 なんとも歪な八角形だ。値が小さすぎてほぼ線になっている。だが、それでも値が大きいものもちらほら窺える。



「なら、これはなんの属性だ?他のよりちょっとおっきいけど。」

「それよ。」

「?」


 それと言われても。つまり、これこそが原因ってことか?


 アズキは暫し、憐れむような瞳をカリヤに向けると渋々答えた。



「それは”無”の属性。つまり、消滅させることができる属性なのよ。」


 例えば、とアズキは右手を空中に向け力を込めるように唸った後、右手を下ろした。


「ほら、風が無くなったでしょう?」

「……確かに」


 言われてみれば確かに。といった程度だった。なるほど、この属性ではアズキのやったように、何かを出現させることが困難だということだと分かる。いや、むしろ……



「これ、あんまり役に立たなくね…?」

「間抜けね。消滅させることはつまり自分に影響がないということよ。」

「というのは?」

「火の属性と無の属性を持っている者は焼死することはないし、水の属性と無の属性を持っている者は溺死しない。とかかしら。」


 い、意外につえー!

 無属性結構すごい!



「俺が無属性なのは分かったけど、肝心の基礎の属性はなんなんだ!?早く知りたい!」

「……いきなり素直になったわね。でも、あまり期待しない方がいいわ。」

「いいから!早く教えてくれって!」



 もしかして火とかだったら火傷とかしない体になれんのかなー!それだったらめっちゃカッコイイだろ!


 アズキはまたも地面の八芒星を木の棒で指す。指された値は大きいとは言えずともそこそこの値である。



「土属性よ。」

「…?土属性…??」

「私からしたら、一番無属性との相性が悪い属性ね」



 土で、無属性ってことは?ダメだ、全く想像出来ない。


「えーっと、つまり何ができるわけ?」

「そうね………転んでも擦り傷が出来ない程度…かしら」

「えぇ……」



 圧倒的に想像してたのと違うし、なんか違う気がする。


「……俺ってもしかして弱い?」

「だから言ったじゃない。」



 だー!なんだよそれー!結局なんにも出来ねぇじゃねーかよ!



 カリヤがあまりのショックに地面にへたりこむと、アズキはそんなカリヤを見かねて肩に手を置いた。



「大丈夫よ、これから強くなりましょ」

「アズキ……」


 あ、やばい。なんか涙出てきそう。



「さ、コネクトして」

「うん」

「スカーレットから新しいプラグ貰ったのよね」

「うん」



 今にも泣きそうな子供をあやすかのようにアズキはカリヤを立たせ、優しく言葉をかける。

 カリヤはカリヤでその言葉に準じ、親切なアズキに違和感を感じつつもプラグを展開する。


 今度のプラグもやはりハンマーだが、前と違ってそこまで大きくない。細く、軽いハンマーだった。見た目も少しカッコイイ。



「展開したわね?」

「うん」

「じゃあ……」



 すると一変、朗らかな雰囲気が鋭く変化し、アズキは手元の薙刀を軽く握り直すと、にっこりと微笑んだ。



「私と一体一で戦いなさい」

「うん………うん!?」



 音を立てて刃を回転させ微笑みを浮かべるアズキ。咄嗟に距離を取ったものの、未だ近づいてくる彼女はまるで悪魔だった。



「ちょ、た、たんま…!いやまじで…!!」

「さぁ楽しみましょう?」



 いや、楽しいのあんただけだろ!!








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ひぃっ」

「ほら!隙だらけよ!」



 後ろから氷槍が飛んでくる。一つだけではなく、カリヤが右に避ければ右に、左に避ければ左に。つまり、瀕死の状態だ。



「逃げてばかりじゃいつか死ぬわよ!」

「まさに!今!死にそうだよ!!」


 しかし、アズキもただ逃げられるだけでは済まないのかカリヤの目の前に氷の壁を出現させる。



「うげ!?」

「さぁ、逃げ場はないわよ!」



 壁を前に立ち止まったカリヤの後方からジリジリと距離を詰め、アズキは薙刀を振るう。これには堪らずカリヤもハンマーで刃を防ごうとするが、何故か弾き飛ばされ氷の壁に衝突する。

 あの華奢な腕にどれほどの筋力があるのか全く想像がつかない。



「ただ防げばいいわけじゃないわ。力の力点と、作用点を見極め、逸らすことが重要よ。」



 カリヤは衝突した痛みを耐え、壁から一旦離脱すると、アズキのアドバイス通り力点の作用点を見定める。



 ──この方向、速さ、ならこっちの方向に流す!



 カリヤは斜め上から振り下ろされる薙刀を、ハンマーの柄を利用して斜め後方へといなす。そして、反撃と言わんばかりに足を一歩前に踏み出すと、力をのせてハンマーを振り上げる。



「いいわ」



 しかし、ハンマーがアズキの顔に当たるか当たらないかの距離でアズキの顔の前に氷が出現し、ハンマーではそれを砕くことが出来ずカリヤはその場でぎこちなくハンマーを持ち直す。

 アズキはその隙を見逃さず体を捻って、硬直したカリヤの脇腹に蹴りを入れる。



「ぐっ…!」

「プラグに気をとられすぎよ」


 体勢を整えようとするも、意外と深いところに蹴りが入ったのか上手く力が入らず、カリヤはその場で崩れ落ちた。

 それを見たアズキは薙刀を下ろし、ため息をついた。



「全く……弱いだろうとは思っていたけど、ここまでとは思わなかったわ」

「げほっ……悪かったな…!」

「おかげで扱き甲斐があるというものよ?」



 少し手合わせして、やはり確信した。アズキは圧倒的に強い。

 今反撃したのだって、アズキがわざと受けたに違いない。まだ余裕の笑みを浮かべていたのに隙をわかりやすく用意したのだ。




 ──決めた。絶対こいつ負かしてやる。








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