順位
「……は?」
「その、なんだ。あれはトーナメント戦だと言っただろう? だが、本来は順位付けるものなのだ。正確には戦闘時間と勝敗で順位を決める。と言った方が正しいのだろうが……」
「いやいやいや、え? じゃあ、つまり、負けた上に瞬殺で終わった俺はその……最下位ってこと……ですか?」
スカーレット監督官はカリヤの問いにぎこちなく頷いた。
───やばい。これは、アズキに怒られるどころか殺されてしまうんじゃ……?
「本当にすまないと思っている!!」
「え? いや…別に監督官が謝る必要は無くないですか? 俺の実力とか、そういうのが悪かったっていうか……」
「実は……君のプラグは訓練用ではなく、実戦用であって……非常に言い難いのだが、脳震盪で倒れたのはそれが原因なのだ……」
……道理で皆は痛みも衝撃も受けないのに、俺だけこうして医務室にお世話になってるわけだ。
でも、やっぱりそれとこれとは話が違う。
カリヤは真剣な眼差しでスカーレット監督官を見た。
「監督官。負けは負けです。実際、あの時俺はすごく油断してました。しょぼいと思ってたプラグがいきなり大きくなったから俺にも戦えると思って、相手のこともよく見ていませんでした。」
「しょぼいと思っていたんだな……」
「実際、あいつは強かった。無駄な動きなんてなかった。だから、謝らないでください。そうじゃないとあいつの頑張りも否定することになるんすから。」
その言葉を言った瞬間、スカーレット監督官の目が輝いたように見えた。
「そ、そうか! そうだな! うむ! それは悪いことをした! 私はお前にもタイガにも賞賛を送ろう! いやぁ、友情とは良いものだな!」
「……友情…?」
「ん? タイガと君の間には友情が生まれたのではなかったのか? こう、男と男のぶつかり合いでという……」
その瞬間カリヤは痛みも忘れ、やにわに起き上がると怒りの表情を露わにした。
「あいつと、俺が友達だなんてとんでもない!!! 無愛想だし、全然人の事気にしないし、あれ絶対俺を殺す気でしたよ!!」
「た、確かにそうだが……」
「大体見舞いにすら来てねぇじゃないですか! 俺は倒れて当たり前の弱っちい男だと思ってるんすか!?」
「私に言われても困るのだが……」
「あいつなんて、だいだい大っ嫌いです!」
言い切ったのか、カリヤは荒い呼吸を数回した後、やっと痛みを思い出してベッドの上で呻吟する。
その様子を見ていたスカーレット監督官はカリヤの肩を優しく叩く。
「まぁ、あんまり気に病むな。お詫びと言ってはなんだがカリヤには良い上位戦闘員を付けてあげよう!」
「ん……? "上位戦闘員をつける"?」
「うん? 言っていなかったか? この模擬テストにて良い順位だった者、もしくは著しい活躍を見せた者には上位戦闘員からの勧誘があるのが通例なのだが……」
いや、それ初耳です。
あ、でも俺はアズキの所で教わるから結局順位悪くても……良くはないよな。
いい成績を納めろとは言っていたけど一から教えてやるとは言ってなかったもんな……
「初耳です。」
「そ、そうか。その件も含め本当に悪いとは思っている。だが、上が煩くてな……私はこれから説教を受けねばならないのだ。ここで失礼するが、あまり体は動かさないように、出来れば今日一日はしっかりと体を休めてくれ。」
ベッドの脇の椅子から立ち上がり、スカーレット監督官は急ぎ足で背中を向けるとひらひらと手のひらを振りながらまたな。と言って医務室を去っていった。
カリヤはゆっくりと上半身を起こし、窓の外を見た。もう空はオレンジ色に染まり、夕日が雲の切れ間から覗いている。朝から模擬テストをやっていたから、ざっと七時間程寝ていたということだろう。
「………何やってんだ俺」
無様な試合だった。傍から見ても、自分ですらそう思う。
ただえさえ周りの人に遅れているのに、さらに後れを取るようでは上位戦闘員どころか真っ当な戦闘員にすらなれない。
カリヤは自分のうなじに手を置く。そこには無機物的なコンセントが存在を主張している。だが、その手を心臓のある位置に移動させるとそこにも無機物的なコンセントがあり、カリヤは感傷的な気分に陥った。
「これじゃ、フタミに顔合わせできねぇ」
だが、いつまでもその感傷に浸っていられるような状態ではないことを改めて思い返し、顔を横に振ると、自分で自分の頬を叩く。
────痛い。痛い。生きてる。
「大丈夫? それすると痛くない?」
「へ」
──この声を、知ってる。俺を、助けてくれた。
頬を叩くのを止め、うっすらと目を開ける。ちょうど開いている窓から風が入り込み、カリヤの気持ちを逸らせる。
──そこには、"女神"がいた。
「っあ」
「?」
「あばばばばばばばばばばばばばばばば」
「わ、全然大丈夫じゃないですね?」
勢いで鼻血が大量に出てしまったカリヤだったが、当の女神は一切動じることなくティッシュをカリヤに手渡し、汚れた布団や枕なども笑顔で処理していた。
ちなみにその間、カリヤは起きたまま気絶していた。
「あの、はじめまして」
「……っは!? えっ? あ、ああ……はじめまして?」
話しかけられてやっと意識を取り戻したカリヤは声を上ずらせながらも、返事をした。
はじめまして……はじめましてで良いのか…? いや、でもあなたに助けられた人です! なんて言ったって、格好がつかないしなぁ……
その彼女は、先程までスカーレット監督官の座っていた椅子に座ると、じっとカリヤを見つめる。
「なっ、なにか用が、あって、きたんです…か?」
くぅぅう~~~!!! もっと頑張れ俺!!! せっかく目標の一つである、"女神に俺のことを見てもらう"が叶ってんだから~~!! あ~~めっちゃこっち見てくる~~! やだ~~見ないで~~!
「そうだね、気になるよね。でも、言えないことになってるの。ごめんね。」
そう言って顔を傾けながら微笑む。
ぐあ~~! 可愛い~~~!!!
「言えない、こと、ですか」
「そう。でもね、君の試合見てて一つ伝えたいことがあったから来たの。」
そうして、カリヤの視界には黄金色の瞳がいっぱいに広がった。つまり、距離が近いわけで。
「あなたは、死んでる」




