剣士の吟志
「ん?」
初めに声を上げたのはスカーレット監督官だった。普段から相手の運び、視線を観察しているが故に、違和感を覚えた。
「おや……?」
次に声を上げたのはルーカスだった。彼もまた他人の動向を逐一見たがる性質を持っているが故に、違和感を覚えた。
「……?」
「え、あれって」
つられるように周りの者も、部屋の中心に立っていたカリヤを見て遅ればせながら、違和感を覚えた。
「はぁー………」
従って当の本人は誰よりも違和感を醸し出し、そして一番注目されていた。
心中は穏やかではない。むしろ諦念でいっぱいである。
なんでこんなことになったかなぁ……
心の中で溜息をつくカリヤの手元には確かにカリヤ自身のプラグがある。あるにはあるが、全く見えない。いやむしろ見せていないという方が正しい言い方である。
カリヤがこの部屋に来る前から着用していた制服は女性用のそれであっても、カリヤの小さな体にとってはそれでも尚、大きすぎた。
当然の事ながら袖が長いせいで手のひらさえ布から出てこないといった始末である。
プラグは持っているのだ。だが、プラグを持っていても尚、実物が相手に見える程大きな物ではなかったため、カリヤの姿は何も持っていないように映るだろう。
今までの対戦者達は違った。自らの手に入れた新しい武器であるプラグを、ある人は掲げ、またある人は大切な物とでもいうかのようにしっかりと胸に抱えていた。
「……なんの真似だ、プラグはどうした」
最後に反応を示したのは赤髪の剣士だった。その声には棘があり、まるで素人を寄せ付けない気迫があった。
彼は違和感どころかカリヤの、剣士を舐めたような姿に怒りすら覚えたのだ。
「ん? 持ってるけど……ああ、そういうこと」
カリヤは長く垂れる自分の袖を片手でまくり上げ、右手で持っているプラグを相手に見せた。
「そんなに警戒しなくてもいいぜ、俺のプラグはそんなに強かねぇって。」
「……な」
そこに過剰に反応したのはルーカスだ。
「なんだい、カリヤ君…! その、そそその、プラグは……っ!」
「―――――何もクソも、ただのピコピコハンマーだよ」
絶句。
この部屋全てのプラグの種類を知っているはずのスカーレット監督官でさえ、口が開いたまま塞がらなかった。
一方、新入隊員達は先程までの殺伐とした試合の雰囲気から、ピコピコハンマーというトンチキなプラグを武器とするカリヤのせいで、その場は笑いに包まれた。
「あははは! ピコピコハンマーだってよ!」
「かわいー!」
「ネタ要員かよ!」
しかし、スカーレット監督官の顔は蒼白だった。もしかして、もしかすると、やばい物を持ってきてしまったのではないか、自分の不手際なのではないか。と。
「あ、あのプラグは……」
しかし、自分の記憶にはあんなプラグは存在しない。過去にも、資料にも。
ルーカスは唖然としていた。まさか推薦であるカリヤがこんな笑い者になるような真似をしでかすとは思っていなかったのだ。
ルーカスの中で理想の友人像が音を立てて崩れていた。
そして、笑いと困惑が混じりあった会場に一際大きな破壊音が弾けた。
「………黙れ」
鋭い目つきで、低い声でそう言われれば、笑いをこられきれなかった者でさえその息を詰まらせた。
「試合をするんだろう、監督官」
「あっ…? あ、ああ、そうだな! し、試合だ試合! 両者とも構え!」
「はぁ……」
カリヤはそこまで柄の長くない、軽いピコピコハンマーを両手で握り中段に構える。
正直、笑われた時点で、いやむしろ対戦相手が赤髪の、体格も良くプラグも上質な物を手に入れていた彼だと分かった時点でカリヤの反骨心は折れていた。
負けてもいい。そんな風に感じていた。
ふと、前を見るとそこには一切油断なく大剣を構え、静かにこちらを睨みつける恐ろしい獣のような剣士がいた。
その目に軽蔑や嘲笑といった感情は感じとれない。まっすぐ、カリヤを見据え獲物を狩るような目を向けていた。
その目を見て、カリヤはどの雑音も耳に入ってこなくなっていた。
単純に、俺を狙ってる。
手足か、胴体か、どこを切り伏せようか考えている。
いや実際は空振りをしてしまうのだから軽い攻撃の方が良いのかと熟考している。
あまりにも単純すぎて、カリヤにすらその意図が伝わってしまう。しかし、同時に赤髪の剣士は戦うことだけにひたむきであることも伝わってきた。
───そんな目で見られたら、俺も応えるしかねぇじゃん
「「コネクト!」」
二人の声は重なり合い、そしてカリヤは本能で感じ取っていた。いかにこのプラグの見た目がトンチキなものでも、本質は、中身は自分と"繋がった"のだと。
「うっ、わ!」
『コネクト』と言った瞬間、自分のうなじからハンマーにかけて緑色に発光するコードがカリヤの目には映り、そしてプラグ自体の境界線にも緑色の発光が見られた。
しかし、それよりも顕著だったのはカリヤの腕にかかる圧力だ。
「は、ハンマーがでっかくなった!!」
そう、カリヤの持っていた小さなピコピコハンマーは、カリヤの身長程もある、巨大なハンマーへと変貌を遂げていたのだ。
「やはり、あれは!」
スカーレット監督官は今、確信を持って、カリヤのプラグの正体へと行き着いた。あれは試合用ではなく、実戦用のプラグだと。
「……!」
それを見た赤髪の剣士は内心驚きつつも、一歩前へと足を運んだ。今のカリヤは隙だらけである。
「す、すげぇ! 俺の、俺のプラグってでっかくなれるんだ!」
ただの玩具だとか言ってごめんな、ピコピコハンマー!
全然使えないプラグだとか言ってごめんな、ピコピコハンマー!
むしろ俺以外のやつじゃ持てないくらいちいせえなとか言ってごめんな、ピコピコハンマー!
でも、これなら戦える! 重いし、なんかピコピコしてないし、なんか強そう!
カリヤはハンマーを強く握りしめると赤髪の剣士がいるであろう方向へ顔を上げた。
「……お?」
そこには誰もいなかった。
つまり確実にカリヤはミスを犯した。しかし、本人はまだ気づいていなかった。
試合中はよそ見をしてはならぬのだ。
「……終わりだ。」
カリヤの顎下、そこには大剣を肩に担いで低い体勢のまま下から上へと大きく凪払う動作に入りかけている赤髪の剣士がすでにいた。
「へっ?」
そして、カリヤの意識はここで暗転する。
意識失いがち主人公、爆誕




