合格の知らせ
「一次試験、合格!」
カリヤは合格通知を抱きしめ、歓喜した。
朝、ポストに見知らぬ書類がちらついていた時から予感はしていたのだ。
さすが運だけは強い男。いや、普段の行いが良いからだろうか。
これは素直に喜ぶべきだろう。
カリヤは現在二十二歳。就活中の身である。
と、言いたいところだが就活とは一味違う。志望しているのは会社ではなく軍隊だ。
通称、ショート対策軍。
カリヤの祖父の祖父の祖父の頃から、出没し始めた未確認の化け物──ショートと呼ばれる生き物。
その化け物が悪さをするのを解決もしくは退治するための組織だ。
そんな昔の化け物が、今でも世界中に蔓延っているのが不思議だが、実際この化け物達によって世界は崩壊寸前だったらしい。
「これで、約束を守ることができるかな……」
抱えていた書類を机に置き、まじまじと文面を見返して緩む頬をそのままに、ある人物を思い浮かべる。
───困っている人を助けてあげられる強いひとになってほしい。
彼が言った約束を守るために、最善の選択をしたとも思う。
実際、警察になるのもいいかと思ったが、生憎と頭に関しては自信がないのでこの案は却下された。
そこで、カリヤはショート対策軍に目をつけた。
両親や妹にも、軍に入隊するのを勧められたこともあり、大学生の頃からいろいろと準備をしておいたのだ。
実はショート対策軍に入隊するとその家族に給付金が与えられる。
もちろん本人にも給付金や補償金といったものが与えられるため、この仕事は実にいい働き口として有名だった。
だが、このショート対策軍。採用条件が謎なのである。
どれだけ学歴が高くとも落ちた人だっているし、体力に自信があっても落ちた人もいる。
平凡であればいいのかと思えば、これまた落ちる。採用された人達には全くの共通点はなく、老若男女様々である。
しかしここであきらめるわけにはいかない。
その一心でカリヤは一次試験を受験した。
そしてその結果、合格、と通知が渡された。
とはいっても書類審査のために個人情報を記入した紙一枚を送っただけだ。
カリヤ自身、自分のどこが良くて合格したのか分からない。
カリヤには少しばかり心当たりがあるが、書類だけでは分かるはずもないため、ただの幸運だと思うことにした。
「むしろ知られてたらビビるっつーの……」
邪推な考えが頭をよぎるが、ここはひとまず合格を喜ぼう。
そうだ。
妹と、合格の記念に何か食べようと約束をしていた。
早速二階にいる妹を呼んでみるか。
「リン、ちょっといいか?」
カリヤが階段下から声をかけると、はーい、という返事が聞こえてきた。
そしてその声の主は駆け足で颯爽とカリヤの前に現れた。
「なんか用? カリヤ」
「こら、兄ちゃんって呼べよ」
「えー、いいじゃーん」
不満げな顔でカリヤの妹――リンは口をとがらせる。
カリヤと同じ茶色の髪は短く、服は男物。オマケにカリヤよりも背が十センチばかり高い。いわゆる、男装女子というものだ。
「今日は大事な報告があります」
咳払いを一つ。
ここは兄として威厳を見せなくては。
「……彼女?」
「違う」
「結婚?」
「違うって」
「もしかして、妊娠……?」
「違うって言ってんだろうが!!」
――なんでそこで妊娠なんだよ、俺は男だぞ!
声を荒げれば、リンは冗談だと言わんばかりにお腹を抱え笑い出す。
「分かってるって分かってるって」
「嘘つけ」
「ちゃんと聞きますからどうぞどうぞ、一から私めに説明のほどをよろしくお願い致しますお兄さま」
そう言って、リンは背筋を伸ばした。兄をからかうのがそんなに楽しいのか、口元のにやけが隠せていない。
カリヤはいつも通りのやり取りに、軽くため息をつく。
こうしたやり取りは子供の頃から変わらない。冗談を真に受けてしまうカリヤに、いつもこうやって明るく冗談をかますリンは、いつだって最後にはちゃんと話を聞くし、真面目に答える。
ただ、このやり取りにはどうにも慣れない。
「ん」
「ん?」
意趣返しと言わんばかりにカリヤは手元にある書類をリンに突き出す。
彼女は一瞬戸惑ったが、書類を受け取りその内容を一瞥した途端、表情が明るくなった。
「こ、これって……!」
「ああ、そうだ」
カリヤを尊敬の眼差しで見つめる妹。
うん、なんだか照れくさいがこれはこれで兄としての威厳を見せることが出来たようだ。
気分が良くなったカリヤは腕を組み、ドヤ顔を決めてみせる。
「バイト受かったんだね!!」
「軍隊だよ!!」
―――これじゃドヤ顔が台無しだ。