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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
2章 敵だらけの劇場
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トーナメント

「ふむ……! 彼も推薦仲間といったところかな…!」



「……へぇー、っていうかまだいたのお前?」



「失敬な…! 君と僕は友達じゃないか…!」



 友達になった覚えはないし、こいつと友達だなんて真っ平御免だ。

そういえば、こいつの名前すら聞いてない。さっきからずっと頭ん中で変態とは呼んではいるが、さすがにそれじゃ不便だろう。この世界にこいつ以外の変態だっているわけだし。



「聞いてなかったけど、あんた名前はなんていうの?」


「おっと…! すまない、僕としていたことがすっかり忘れていたよ…!」




 彼は一回転回って、再びキメポーズをとると、機嫌の良さそうな顔をカリヤに向ける。



「僕の名前はルーカスさ…! 是非とも親愛の証に、呼び捨てで呼んでくれたまえ…!」


「ああ、はいはいルーカスね、ルーカス」

「なんと雑な…っ」



 ここは、俺も一応自分の名前を言うべきなのか? 友達とかそういうのは関係なしに、お互いに名前も知らない仲じゃあ流石にな。

 心なしか、ルーカスと喋ってると周りの人が離れていっているような気がする、が、気にしないでおこう! うん!



「俺の名前はカリヤだ。田舎生まれ田舎育ち。」



 これはちょっとした確認だ。俺が田舎者だと知って奴はどんな反応を示すのか、それ次第では今後一切関わり合いを断つ可能性もある。


 カリヤはルーカスの顔色をじっと窺うが、ルーカスはカリヤの言葉を聞いても眉一つ動かさずむしろ喜んだような表情を見せた。



「カリヤ君か…! なるほど、いい名前だ…!」



「お、おお。ありがと。」



 んん? もしかしてこいつ言動はところどころおかしいけど、実は案外常識人だったりするのか?


 カリヤがいままでこういった自己紹介をした相手の反応は二つだった。

 一つは見下すタイプ。こういう反応をする人は大抵金を持っていたり、権力をもっていたり、地位が高い人が多かった。

 もう一つが同情するタイプ。こういう反応をする人は珍しく、しかも時折物をくれる。


 だが、ルーカスはそのどれでもなく、田舎者と知っていながらも前向きに話してくる辺り、人を見た目や経歴で判断しない人なのだろう。こういった人はカリヤの人生の中で二人程しか知らない。


 友達になるってのも悪くないかもな。




「諸君!!! 準備はいいか!!」



 と、いきなり音を立てて開いた扉から凛々しい女性の声が放たれた。

 カリヤは音と声に驚いてそちらを見れば、そこにはショート対策軍の制服ではなく、ミリタリー系の制服を着た長髪の女性が立っていた。



「うむ、揃っているようだな。では、これから新入隊員には模擬テストを受けてもらう!」



 彼女は靴音を鳴らしながら部屋の真ん中まで歩いてくると、その手元にもっていたスイッチのようなものを押した。


 その瞬間、壁の方に大量にあったクローゼットのような物が一気に開き、その中身が押されるように外界へと出現した。




「私の名はスカーレット! お前達の監督官である! しっかりと名を覚えろ!」



 突拍子に言われたせいか、誰も返事など出来ず困ったようにきょろきょろと周りの様子を窺っていた。



「返事は!!」



「は、はい!」



 カリヤはあまりのスカーレット監督官の迫力に気圧され、躊躇しながらも返事をした。その姿を見たスカーレット監督官は、カリヤを見ると上機嫌で声をかけた。



「受験番号201カリヤ! いい返事だ! 皆も見習うように!」

「すごいじゃないか、カリヤ君…!」

「お、おお……」



 なにがなんだかわからんが、なんか褒められた! ような気がする! やった!



「では、その隣の者! こちらに来てほしい!」


「僕のことですね…!」



 スカーレット監督官はカリヤの隣にいたルーカスを指さし、自分の所に来いと告げた。もちろん、ルーカスは緊迫した空気もいざしれず嬉々として監督官の元へ駆け寄る。




「早速、模擬テストの内容を説明する! 内容はシンプルだ! 今からここにいる全員にトーナメント形式での対戦を行ってもらう! 武器となるプラグはこの部屋にあるものならばどれを使ってもいいものとする!」


「武器っ……て、でも対戦したら怪我しちゃいますよね…?」




 カリヤの後方から弱々しいが、質問をする人がいた。確かに、怪我の有無に関してはカリヤも気にはなっていた。もし大怪我を負わせてしまったら、新入隊員としてショート対策軍に入ったのに本末転倒になってしまう。


 しかし、その質問を予想していたのか、スカーレット監督官はにやりと頬を歪ませる。





「ああ、そうだ。普通の武器であれば。な。だが、ここにある武器はプラグといい、ショートには害だが、人間に害はない武器なのだ!」




 そう言い切るも早く、スカーレット監督官はいつの間にか手に握っていた大剣をルーカスの頭上で振りかぶり、そのまま振り下ろす動作をした。





「な、なななななっ……!?」




 しかし、大剣はルーカスの体をすり抜け地面へと刺さっていた。当のルーカスもなぜ切られたのに出血も痛みもないのか不思議に思っているようだ。



 ………ん?プラグは人間に害をなさない…?

ってことは、牢屋に居た時にアズキに脅されて、刃先を突きつけられたあれは、なんの脅しにもなってなかったってことか…!?


 カリヤは改めてあの時の自分の行動を思い出して、全てが空回りだったのだと今更ながら気づいた。

しかし、肩を落としてばかりもいられない。今はこのテストに神経を注がなければ。




「ちなみに、この部屋にある武器ならどれでも。と言ったが、正確には違う。人にはそれぞれ資質というものがあり、その資質にあった武器は人それぞれに異なる。

つまり、己が身につけられる武器は一つのみ! さぁ、存分に資質と向き合うのだ!」




 スカーレット監督官がそう言い放った瞬間、我先にと、他の新入隊員が武器庫へと走っていく。

 カリヤは唖然とその光景を見ていたが、トーナメント形式のテストということで少なくとも順位がつけられることに思いあたり、アズキからの条件を満たすためにと、奮い立たせ、武器庫へと走る。





「武器武器武器武器武器武器……!!! なんか上位に生き残れるような武器とかねぇのか…!?」




 カリヤは長剣、短剣、槍、鞭、弓、銃……と様々な武器に手を伸ばすが、どうにもカリヤの資質と合わないらしく重すぎて持てなかった。


 しかし、周りの人は次々と自分の資質に合った武器を手にとると、武器庫から少し離れた場所で試し打ちや試し斬りをしていた。




「鎌もダメだ……ナイフも……薙刀……は無理だな」



 何度も何度も持ち上げようとして、腕が疲れたカリヤは棚に背中をもたれた。

このままだと、武器どころかテストさえ受けることができないと焦るカリヤの横を、先程ぶつかった男性が横切った。その背中には彼の身長ほどの大きな大剣があり、いかにも優秀な資質を持っていることが明らかだった。



 同じ推薦組とは思えねぇ……あんなの反則だろ……


 どうかトーナメントで当たりませんように。と祈ってから、再びプラグ探しへと赴こうとした矢先、もたれかかっていた棚の上から何かが落ちてきた。





「おわっと!?」




 それが地面に落ちる前になんとか空中でキャッチしたカリヤは、なんだ、ただの飾りか。とそのまま棚に戻そうとしたが、あることに気づいた。



 それが重くなく、しかも自分の手にしっくりとくる質感をしていたのだ。




「まさか……これが、俺のプラグ…!?」

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