賭け
「賭け……って、何を。」
カリヤは真剣な眼差しで、ショート対策軍の女性を見つめた。対する彼女もカリヤを見据え、一枚のカードを取り出した。
「あなたの人生を賭けて。」
「人生って、そんな大袈裟な。」
「いえ、あなたにとっては人生といっても過言ではないわ。」
彼女が取り出したカードは身分証明書のようなもので、そこには彼女の写真と個人情報が載っていた。
[アズキ]
カリヤは見ずらいながらも、彼女の名前らしきものを読み取った。
「私の名前はアズキ。ショート対策軍に所属している者よ。規則により、ショート出没地域に立ち入ったあなたを処罰しなければならないのよ。どんな理由があろうとも。」
「それで俺はこんな牢屋に閉じ込められてんのか!?」
「いや、これは単にお嬢の趣味ですよぉ。」
「えぇ……」
さっきまでSMに興味なさそうなフリしておいて、人を牢屋に詰め込むのは趣味なのかよ……嫌な趣味だな……
すると、クルックに横槍を入れられたアズキは不機嫌そうな顔でクルックを睨む。睨まれたクルックは肩を上げ、情けない顔で笑った。
「処罰は簡単よ。あなたの記憶を消して日常生活に戻すだけでいいもの。……でも、ここで問題なのはあなたがショート対策軍への受験者であり、実際にショートを倒したという事実が残っているということ。」
「…なんでそれが問題なんだ?」
「なんでですって? そんなことも分からないの?」
「む。」
アズキは自らのツインテールを手で靡かせる。いちいち行動に棘が感じられてカリヤは不愉快だった。
「あなたが受験者であることを忘れてしまったら、せっかく私が見つけた戦力を失うってことになるじゃない。」
「えーーっと、つまり……」
このお嬢様、規則だなんだって言っておいて結局は自分のわがままを貫きたいだけなのかよ。
あれ? でも、待てよ……
「ショートを倒した……って俺が?」
「そうよ。」
「凄かったですよぉ! 人間の動きとは思えませんでしたぁ……!」
全く、身に覚えがない。
だけど嘘を言っているようにも思えない。
カリヤは疑問に思いつつも、アズキに質問を続ける。
「なら、これは俺が賭けをするんじゃなくてアズキ、あんたが俺の人生を賭けとして俺に選択肢を与えてるってことか。」
「やっと気づいたのね。そうよ、私はあなたという戦力を失いたくはない。なんならあなたを私の権力でショート対策軍に入れたっていいわ。」
彼女はカードをひらひらと揺らした後、スっとカードを自分の懐にしまった。
「けれど、もしも私の元へ来るのを拒むのなら規則通り記憶をすっぱりと無くした後、路地裏にでも放り投げるわ。」
これは脅しだ。口では笑っているが、目が笑っていない。ここで断れば、この人は本当に俺の記憶を消すだろう。
「もし俺がOKだって言ったらショート対策軍に俺は入ることができるのか…?」
「そうよ。それはもうあの手この手を使ってあなたをショート対策軍に入れてあげるわ。」
その言葉にカリヤは喉を鳴らした。
「つまり……食堂で食事をとれる……?」
カリヤがそう呟いた瞬間、その場が沈黙に包まれた。次にその場で声を出したのは、クルックだった。
「ぷっ、あ、はっはははっ、あはぁ!!」
「な、なんだよ、大事だろ食堂!」
「はぁ……本当にあなた、ショートを倒した強者なのよね……?」
と、笑い声が木霊する中でカリヤは気持ちを新たに、自分の頬を手で叩いた。
「決めた。………俺、あんたの元で働いてやるよ。」
元からショート対策軍に入る気だったんだ。今更誰の下だって関係ない!むしろ、記憶がないまま見知らない場所で徘徊したい訳じゃないしな!
どうやら俺の脳内実況者もグーサインを出してるらしいしな!
そんなカリヤを見たアズキは、鍵を取り出し牢屋を開ける。
「ようこそ、ショート対策軍へ。あなたを歓迎するわ。」
「面白くなってきましたねぇ!」
カリヤは牢屋から一歩でると、背伸びをした。窮屈な牢屋から解放されたカリヤは取り敢えず自分の身の回りを確認して、無くしたものはないことを確認すると、改めて二人を見た。
「あ、そうだわ。」
「ん?」
「さっきから気になっていたのだけれど、あなた女の子なら女の子らしい服を着たほうがいいわよ。」
────しばしの沈黙。
「俺は女じゃねぇーーーーーーー!!!!!」




