プラグ
「いや、誰だよ!!」
カリヤは女性を指さし叫んだ。
いきなり私のコマになりなさいとか何とか言われても困るんですけど!?
すると、彼女は物憂げな顔でため息をついた。
「はぁ……クルックが面白いって言うから捕まえたのに、とんだ阿呆を連れてきてしまったようね……」
これはあれか? 馬鹿にされてんのか?
いきなり初対面の人に阿呆とか、こいつめっちゃ腹立つな!
あと、クルックって誰だよ! 鳩か!?
カリヤは頭の中で今の状況を把握しようとするが、謎の疲労感でふらつき、檻にしがみつくようにその場にへたりこんだ。
「あら、あんまり大きな声ではしゃぐと体に毒よ。」
「……はしゃいでねぇし、なんでそんなの知ってんだよ」
俺を連れてきた。そう言ったよな、この人。一体何のために? 田舎から上京してきたばっかの俺に都会での知り合いなんていないし、牢屋にぶち込まれるような恨みを買った覚えもない。
それにどうもさっきから記憶が曖昧だ。頭に靄がかかってるような気がする。
記憶の混濁……謎の疲れ……牢屋………
「もしかして、荒手の誘拐?」
「違うわよ。」
彼女は物憂げな表情から一転、怒気を孕んだ声で応える。
牢屋からの景色は割と見づらく、暗さに慣れた頃やっと辺りがよく見えるようになった。
すると、彼女の奥にもう一人居るのが分かった。
が、カリヤはその姿を見ると一気に青い顔になった。
「お嬢……っ、もっと罵ってくれてもいいんですよぉ…!!」
なんと、縄で縛られて床に転がされているのだ。そんなきついお仕置きのような光景なのに、当の本人は恍惚な表情を浮かべ荒い息を繰り返している。
「ひぃ………」
これにはさすがのカリヤも引くしかなかった。今まで田舎にはこんなタイプの人間はいなかったから見慣れていないというのもあるが、単純にキモイ。気持ち悪い。
「クルック、いつからそんな趣味持っていたのかしら。私にはそういう属性はないから却下よ。出直してきなさい。」
「あれぇ、そうなんですかぁー? てっきりお嬢、得意げにやりそうなものだと思ったんですけどねぇー?」
あっけらかんと、クルックと呼ばれる彼はそう言うと、縄を解きニヤニヤとした笑みを浮かべる。
いや、自分で縛ってたんかい!
「俺は何を見せられてんだよ……」
「さて、戯言はここまでにしておいて。クルック、説明しなさい。」
「はいお嬢。仰せのままに。」
すると、クルックは華麗にお辞儀をした後、数枚の資料を取り出す。カリヤはやっと本題なのかと檻からじっと、クルックを見つめた。
「受験番号201カリヤ、出身は長野。年齢22歳。身長は150cmで体重は45Kg。誕生日四月十三日、O型、志望動機は困っている人を助けられる強い人になるため。………ふむふむなるほどぉ。」
「……なんだよ、なんか文句でもあんのかよ。」
ついまた喧嘩腰になってしまうが、関係ない。それよりもどうして俺の個人情報がこの人達にバレているのかが謎だ。
「文句はないわ。ただ……」
「ただ?」
「小さいわね。」
その時、堪忍袋の緒が切れた。カリヤは、力いっぱいにその檻を叩いた。
「うるせぇーー!!!! チビって言うんじゃねぇーーー!!!!」
「あら、随分と乱暴。」
ガンガンと檻を叩くカリヤは既に頭に血が上り、どうしたらこの檻を破壊出来るかしか頭になかった。
「ぶっ殺してやる!!」
しかし、彼女は一切動揺することもなく立ち上がって檻から距離を取ると、カリヤに背を向けた。
「コネクト」
彼女がそう呟くと、手に薙刀のような物が現れた。そしてその薙刀からなにか線のようなものが彼女の首元まで伸びると、薙刀全体が緑色に発光し始めた。
「なっ!?」
これにはカリヤも驚き、暴れていた手を止める。
「落ち着いてもらわなきゃ、話が出来ないじゃない。これ以上暴れるなら、これであなたを刺して動けなくさせることだって出来るのよ?」
そう言うと、薙刀の切っ先をカリヤの眼前へと突き出す。が、カリヤには暴れる気概はもう無く、意識はその薙刀に持っていかれた。
「そ、それって……」
カリヤはこの光を前にも見たことがある。そう、駅前でのあの事件。あの時、自分の恩人が両手に持っていた銃。あれも緑色に発光していた。
カリヤが落ち着いたのを見ると、彼女は薙刀を眼前から下ろし、涼しい顔で告げた。
「そう。ショート対策軍でのみ扱われている、ショート戦対応専用武器【プラグ】。その一端よ。」
つまり、この人はショート対策軍でしか利用出来ない武器を使用している───ショート対策軍の一員ってことか!?
「か、かっけぇ………」
「あと、私は別にあなたの身長のことを言ったのではなく、あなたの資質について『小さい』と言ったのよ。」
「し、資質……?」
カリヤは聞きなれない言葉に首を傾げる。すると、なりを潜めていたクルックが突然檻に顔を近づけてきた。
「資質! それはショート対策軍において、才能とも言えるパラメーター! 人間はもともと自然界との共存において様々な恩恵が与えられているんですよぉ! そのうちの一つがこの資質なんですねぇ! 火、水、土、風、明、暗、無、理。この八つの要素にどれだけ愛され、どれだけ馴染みやすいか……それがこの資質なんですよぉー!」
「ち、近い近い」
つまり、相性ってこと? なにに使うのそんなもん?
一通り言い切ったクルックは彼女に褒めて欲しそうに頭を低く下げるが、彼女はクルックの頭を軽くはたき、そして再びこちらを向いた。
「私は見た人の資質を見ることが出来るのよ。正直、あなたみたいな資質の小さい人はあんまり見ないわね。」
「はぁ……?」
「でもお嬢!僕見たんですよぉー!カリヤ君が壊れてから生き返ったのをぉー!」
「だから不思議に思ったのよ。何故資質が小さいのか。」
そう言った彼女はその綺麗な足を折り、カリヤと同じ視線までしゃがむと、その口を歪め意地悪く笑った。
「そうねぇ、まずは賭けといきましょうか。」




