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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
1章 空回り就職
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牢屋の感触

 クルックはその光景を見て心踊らせた。

 体中から血を吹き出し、あらぬ方向に骨が曲がっているのにも関わらず地を蹴り、空を舞う姿はまるで獣のようだった。



「どういう理屈なんでしょうねぇ……」



 しかしその傷も、時間が経つほどに修復していった。飛び出した内蔵は引き付けられるように体内へと戻り、骨は盛大な音を出しながら元の方向へと戻っていく。

 それも相まってさらに化け物じみた風貌を醸し出している。



「──────」



 とうの少年は叫びとも、声ともとれない音を発している。クルックはそれを聞いていると不思議と懐かしい感覚があった。


 逃げ惑うショートを視界に捉えた少年は、自らの手から金色の物体を出現させ、その形状を操りナイフ状のものへと変化させた後ショートへとそのナイフを投げた。


 ナイフは綺麗な軌跡を描きながらショートの足に突き刺さった。



「GAAAAAAA!!!!!」



 ショートはその痛みに悲鳴を上げる。が、少年は不快そうな表情を浮かべる。コントロールが上手くいかなかったのか、手のひらを何度も開いたり閉じたりする。



「いやぁー、双眼鏡持ってきといて良かったですよぉ。」



 ──あんなの間近で見れるわけがないですからねぇ




 ショートに突き刺さったナイフはそのまま液状に変化し、持ち主の元へと戻っていく。



「時間制限とかがあるんですかねぇ……」



 熊型のショートは勘が鋭い。もしも投影具で戦うのならば、あの大きな体躯相手ではさほどのダメージを与えることは出来ない。

 なおさら、時間制限付きの武器であれば持久戦向きではない。


 すると、捜索対象者は自らの周りに浮遊している金色の物体を自らの手に纏わせる。




 そして次の瞬間、目で追えないほどの速度で駆け出すと、跳躍し一回転した後、交差させた手でショートの頭に衝撃を与えた。




「な、るほどぉ……!」



 クルックはその動作に感銘を受けた。しかし、それ以前に今の動きはどことなくサエカを連想させる。

 まぁ、そのサエカの動きも噂でしかないのだが。



「U,GIII…………」



 と、クルックが少年の戦いぶりに感心しているとショートは呻きだし、その体を塵へと変えていく。


 これで一件落着だな。と、クルックが気を抜いた瞬間、クルックの方へと脅威的な視線が刺さった。



「………い"」



 ──なるほど。今度は僕が獲物ってことですかぁ。



「──────」



 クルックは体を強ばらせその場から逃げる算段を立て始めるが、自らの脅威となるその生き物は、その場で倒れ伏した。



「──────こ、こで───か」




 倒れる寸前何か喋っていたようだが、クルックには届かなかった。




「………えーっ、と………大丈夫ぅ?」



 クルックは自らの居た建物から飛び降り、捜索対象者カリヤの元へとおそるおそる近づき声をかけてみる。

 どうやら完璧に意識を失っているらしい。体も、元のぐちゃぐちゃなものへと変わっている。



「ていうかこれほっといたら死にますよねぇ!? え!? これ僕担いでいくんですかぁー!?」



 クルックは上司の不機嫌な顔を想像し、深くため息をついた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ん………」



 頬に冷たい感触。いや、それ以前に呼吸が苦しい。俺の体はうつ伏せになっているらしい。

 カリヤはうっすらと目を開けると、まずその暗さを感じた。



 ──ここはどこだ?



 匂いも何だか鉄臭い。こんな所に来た記憶はないと、カリヤは自分がなぜこんな暗い場所に居るか思い出す。



 ──確か、俺は道に迷って……それでショートに襲われたはず……あの後、どうなっちまったんだ……?



 体をゆっくりと腕で起こす。が、腕に鈍い痛みが走る。



「いっ………」



 見ると、暗いがどうやら怪我をしているらしい。


 ──そうだ。たしか俺はショートに追い詰められて、その後逃げようとしたらショートに……



 その時の衝撃を思い出して、カリヤはその残酷さに気分が悪くなり、手で口を覆った。





 ──なんで俺死んでないんだ……?




 骨が折られ、血も出て、ありえないほどの怪我を負ったはずなのに今自分は生きている。もっと言えば自分のコンセントに触れられたはずなのに、生きている。



 ──あの時何か変な声が聞こえた気がしたが、なんなのか結局わからねぇ。




「起きたかしら?」




 ふと、自分ではない声が聞こえた。高い声、女性の声だ。

 カリヤは暗い空間の中で首を回して声の主を探す。カリヤのいる暗い空間に唯一光がさしてくる場所。どうやらそこから聞こえてくる。


 カリヤは拙いながらも、這ってそこへと近づく。近づいていくうちにここがどういった場所なのか鮮明に分かるようになってきた。



 格子状の影。コンクリートの床。そして周囲にはベッドと簡素な机。そう、ここは──




「牢屋の中はどうかしら、受験番号201カリヤ。」


「………ろ、ろうや……?」


「ええ、そうよ。起きたなら返事をしなさい。この私がここであなたが起きるのを待っていたというのに。」



 その人物は、二つ縛りにした髪を持ち、凛とした佇まいで椅子に座っていた。



 ───もしかして、俺の、女神……?





「単刀直入に言うわ。あなた、私のコマになりなさい。」




 だがそこに居たのは、カリヤの恩人ではなく、高飛車な態度でカリヤを見下す生意気な女だった。











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