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コンセント·コンセプト  作者: なつミカン
1章 空回り就職
10/75

死亡後開始

「まったく、お嬢は人使いが荒いですねぇー……」



 クルックは、家の屋根から屋根へと駆け巡る最中、愚痴をこぼしていた。


 現在、不在になっている受験者を捜索する旨を受付科に伝えた後、ファラデー支部を発ったまでは二人だったのだが、アズキは調べたいものがあると告げると早々に支部へと戻っていってしまったのだ。



『クルック、調べたいことができたわ。』

『え、今ですかぁー……?』

『そう、だからあなた一人で行きなさい。もしも、面白そうならいつもの通りにね。』

『またあれですかぁー……』


 含みのある笑みを浮かべた彼女はそう言って戻っていった。



「僕あれ、そんなに乗り気じゃないのになぁー」



 風を切るスピードで街を駆けるクルックの頭には嫌なイメージしか湧かない。

 もしも、本当に土地勘のない人間が迷ってしまっただけならば良かったのだが、生憎そうはいかないらしい。



「ここに迷い込むのは、ショートってお決まりなんですけどねぇー……」



 クルックは屋根から降り立ちフェンスの前へと着地する。そのフェンスにはとある看板がかけられているが、その看板にはこの街に住んでいるものならば当然知っている内容が書かれており、しかも厳重にロックがかかっているため誰も入ることはない。


 しかし、どう情報を集めようともここにしか可能性が見いだせないのだ。



「【ショート出没地域】……いないと良いですねぇー」



 そう呟くと、クルックは地を蹴りフェンスを飛び越える。





 ファラデー支部を含むこの街や、他の十二の支部が管理している土地の周囲には【パラボネラ】という、ショートの害になる植物が植えられているため、外部からの襲撃は少ない。

 が、ごく稀に内部からショートが出現することがある。

 この土地は研究の結果、出現率が高いことから出没地域と認定され、広範囲に渡って閉鎖されている。


 この土地に住んでいる者はおず、住居は捨てられた状態で残っている。



「……コネクト」



 クルックは万が一のために自らの武器を展開する。武器から伸びたコードが空中へと漂い、クルックのうなじへと向かうと、接続され武器が緑色に発光する。


 クルックの手元には警棒が握られているが、彼自身はこの警棒を使い慣れている訳ではない。



「わざわざ引っ張り出してこの武器ですかぁー……心元ないなぁ」



 数回手のひらで警棒を叩く。攻撃力から言えば下の方だが速さならば上位である警棒は、クルックの戦闘スタイルとマッチしていた。


 しばらく歩いた後、クルックが改めて辺りを見回していると小さな声が耳に入った。咳き込むような声だ。



「……いた」



 クルックが声の元へ音を立てずに近づいてみると、そこには土ぼこりだらけになっている男の子が咳き込んでいた。


「げほ、げほ……っ」


「君、こんな所でどうしたのぉ……?」


 クルックはすぐさま男の子の背中をさすり、呼吸を楽にさせようとパラボネラ薬を差し出す。それを受け取ると、男の子はゆっくりとそれを飲み込んだ。


「ふぅ……」

「落ち着いたぁ? 苦しいところあれなんだけど、君以外にもここに居た人っているかなぁー?」

「え、と……」


 彼は頭が痛いらしく、眉間に皺を寄せ頭を抑える。クルックが無理をしなくてもいいよ。と告げたが、首を振って、一つ一つ確認するかのように呟いた。



「お、おにいちゃん……ぼくとやくそくした、おにいちゃん……」


「へぇ…そのおにいちゃんとやらは今どこにいるのかなぁ」


「わ、わかんない……」



 ──どうやら、何かあったみたいだねぇ…



「そっかぁ、君は危ないからここにいてくれるかなぁ。出来ればこれを持ってて欲しいなぁ」



 クルックは男の子の小さな手に収まる位の袋を持たせた。



「これを持ってれば安心だからねぇ」



 袋の中にはパラボネラの植物が入っている。もしもショートに遭遇したとしても、ショートに襲われることはない。



「ありがとう、おじさん」


「おじ………っ」



 クルックが反論しようとして口を噤んだ瞬間、遠くから爆発音がした。


「…あっちか」


「!? ね、ねぇ、おにいちゃんはだいじょうぶだよね!?」



 この子も僅かながら察知してしまったのだろう。あの爆発が起きた所に例の人物がいるのだと。



「だぁーいじょうぶ。僕がなんとかしてくるからねぇ」



 クルックがそう言って男の子の頭を撫でると、男の子は安心したように笑みを浮かべた後徐々に薄目になっていきその場で眠りに落ちた。



「……おやすみ」



 クルックは優しく呟くと、足に力を込め一気に跳躍し屋根から屋根へと飛び回る。








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 ショートの姿を、クルックは捉えた。いや捉えたはずだった。


 本来ならば人間を襲い、周到に追いかけまわすランクCの熊型ショート。それがどうだろう、汗を流し人から逃げ回っている。

 クルックはこの光景を少し前から見ていた。



 始まりは死からだった。



 ショートの大きな体躯に潰されている捜索対象者を見た瞬間、手遅れだと思ったが、突如死んだはずのその塊が蠢き生き返ったかのように動き出したのだ。

 しかも、どうやらクルックの持っている警棒のような雰囲気を持った武器を手にしている。


 ──流線型を描いたような、金色の浮遊物。





「………これは、面白いことになってますねぇ」














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