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転移・沈着

ああ……。


いや……?


んー…………。


前に、そう、前に進む……感覚……。


留まっていてはダメだ。


なぜだろう、俺は、その意識だけが、とにかく何でもいいから動かないと、と。


動かなければダメだ。


意識を、前に進めろ。


クソ、だめだ、前に進めるということだけしか、考えられてない。


何だ。何がいけないんだ。


思考が前に進まない?同じことを常に考え続ける?


極端に狭い範囲をぐるぐると回ってる感覚。


駄目だな、ここを何とか抜け出さないと。


もっと根底に戻ろう。


俺はなんだ。


ん、っていうか、今のこの状況はなんだ。


なんか、考えてるのは考えてるけど、これ……。


意識以外の存在が、もしかして、ないんじゃないか?


直感というか、明晰にわかることが、それだ。


端的に言えば、手足が無い、いや、ある感覚が無い。


そもそも俺は、どうやって手足を認識していたんだ?


脳が手足を認識して、って話を常識として飲み込んでいたはず……。


で、その、脳ってのは、どこにある……?


……いや、だめだ。脳がそもそも認識できない。


認識する、ということが、存在する、ということとあまりに一致してたんだろう。


手を認識できるのは、手があるから認識できていたんだ。


目に見えるもの、手で触れられるもの、音で聞こえるもの。


簡単に言えば、五感を通じて感じられるものでしか世界を認識してなかったんだ。


この世界は、五感で感じるものではない。


もっと奥のほうにある何かで。


ありていに言えば直感でもってして、感じ取るしかない。


意識は、ある。ここまで長々語ってきたんだ。


そして、前に進むという当初の目的は、この時点で達成できている。


意識ははっきりしている。そしてその行動範囲も広がったろう。


疑問を持つことだ。現状に疑問を。


さあ、もっと疑問を持とう。なんだこれは、なんだこの世界は。


少なくとも俺がこの前までいた世界ではない。


あぁ、わかってる。いや、ん?


おっと、今度はなんだ。


俺は今何をわかった?


意識に何かが差し込まれた。


違う、いや、違わない。異物ではない。言うならば、自分の身体に、自分の血液が戻ってきたような感覚だった。


今の意識は俺の意識だ。


俺の意識が、俺に戻ってきた?


いや、戻ってきたというよりは、混線した、というのが正しいだろうか。


アテンド、って名前はどうだろう。


なるほどね、案内人ってか。


……まただ。


何だ、この世界は。


前に進まないと、行けないんだ……。


いや……違う、混線が酷い。


過去、現在、そしておそらくは未来の思考が、意識が混じり始めた。


ああくそ、面倒だ。自分の意識の整理がつかない。


つかない、がそれも仕方がないんだろう。


状況を肯定することからすべては始まる。


肯定したうえで疑問を持つこと。


疑問、疑問……。


そう、疑問がある。


いつだったか。今だったか。それとも、ずーっと未来の話か。


俺の目の前に、誰かがいる。


といっても俺今、目、ないと思うんだけど。


「やあ」

「……ああ。存在が、認識できる」

「おや、ずいぶん変わった挨拶だねぇ」

「挨拶……。俺の意識がわかるか」

「わかるわかる。ここに人が来るのは久しぶりだねぇ」

「ヒト……俺は、今、人なのか?」

「ごめんごめん、正しく伝えるよ。元ヒトだ」

「元、ね。そうかなーと思ったけど、やっぱりここは意識の世界か」

「意識の世界!面白い言い方をするねぇ。君は精神が肉体から解放されるとか、そう思ってたタイプ?」

「あー、そういう宗教染みた何かを信奉するほど真面目ではなかったからなぁ」

「ほう。じゃあ、君は、その意識だけの状態をどうやって認識するに至ったんだい?」

「えーっとね、なんだっけな。現状の肯定と、疑問の羅列かなぁ」

「あっはっは、何それ。君は生きた世界に満足するだけじゃなく、この世界でもまだそれを続ける気なんだねぇ」

「それっていうと、探求のこと?」

「よくわかってる。いいねぇいいねぇ。僕の暇が少しはつぶせそうなやつが、やっときてくれた」

「あー、まあそれはいいんだけどさ。俺は、アンタに興味があってね」

「……ほう!それはそうか、探求を続ける君のことだ。僕に興味が出ても、何らおかしくないってことか」

「いやー、この世界で、存在を明確に認識できたのは、アンタだけなんだよ。俺は自分ですらその存在に疑問を抱いてる」

「はっはっは、そうかそうか」

「この、声を出している風な今の現状だって、正しく解釈出来てない。ただ、ここにアンタが現れたときから、これができるようになった」

「ふむ」

「ってことはだぜ、アンタは、この世界にとっちゃイレギュラーなんだよ。いや、逆もありうるけどさ」

「君だけがイレギュラーってことかい?」

「ああ。いずれにせよ、アンタを知ることは、この世界を知ることにつながると直感がそう訴えてるんで」

「なるほどなぁ。いや、実に面白いよ」

「面白いかね」

「ああ、最高さ。僕はね、この世界にとっては、概念として存在しているものなんだ」

「概念として存在する……?つまり、俺には概念を把握する能力が備わってるってことか」

「いやいや、君たちは概念でしか物事を把握できてなかったよ。今までもずーっとね」

「あー……。いやちょっと待ってくれ」


つまりあれか、存在の把握は、存在の自己解釈は、概念としてしか受け取れていなかったと。


だからこそ、概念として存在するこの目の前の存在と、そして自分の意識を、俺は認識できているわけだな。


「そのとおり」

「おぉ、意識の内部すら君とつながってるのか」

「意識が内部的なものだというのが、君たちの限度だろうさ」

「はーーーーーすっげーーーーー」

「あっはは、そこまで感動されると逆にうれしくなるなぁ」

「ほんっとすげーわ。こういう世界があったか」

「ふふふ……」

「ああ、ところでさ」

「うん?」

「君の名前を教えてくれよ」

「名前……名前か」

「君、だとか、彼、だとか、彼女だとか、面倒だろ」

「それもそうだねぇ。概念を言葉に沈着させるのも、君たちのよくやってきたことだろうしなぁ」

「んー……。察するに、名前が無いってことか」

「ほう。うん、そうなんだ」

「そっかー……。んじゃ、俺がつけてやるよ。せっかくだからな。その沈着とやらがどうしてもいやなら、遠慮するけど」

「あはは、そう思ってる時点で君の中には僕の概念を名付ける作業が始まっているだろう?なら同じことさ」

「それもそうか。んじゃ、アテンド、って名前はどうだろう」

「なるほどね、案内人ってか」

「いいだろう。これ、たぶん未来の俺からの指示なんだよ」

「あはは、そうか。さて、鶏が先やら卵が先やら」

「ふふ。アテンドと話してるときは、時間が入れ替わらないな」

「気づいたか」

「ああ。時間移動が自由なんだな、この世界は。そうか、俺のいた世界は時間は一方向的だったけど」

「君が身体を動かしていたのと同じように、ここでは時間が前後する」

「そしてむき出しの意識は互いに相互作用をしあって、高めあう」

「まあ、端的に言えばそういうものさ。君の、いや、未来の君の、といったらいいか。判断は正しいよ」

「名前を付けることで、概念としての差別化を図るってことか」

「よくできました。いやいや、この名前、気に入ったよ。皮肉なところが、実にいい」

「はっは、そりゃどうも。ま、どっちでもいいんだけどさ」

「ああ」

「俺は、ここから零れ落ちるわけだなぁ」

「僕をよく知ってしまってるね。固着した時間から解き放たれた魂よ」


魂。


アテンドはそういうと、ふっと、その存在を消した。


概念が世界から消える瞬間。


と同時。俺の存在も、揺らぎ始める。


俺はきっと、呼び起こされたのだろう。あの未知に。


いや、そんな個人的なものじゃないか。


広域電波をたれ流したら、たまたま反応があったのが俺だった、ってところか。


ずるずると、意識に泥濘がまとわりつくのがわかる。


細くなった意識の糸が、最後の思考を象る。


楽しい世界だった。できる事ならまた来たい。アテンドにもう一度、会って話を。


そこにアテンドは存在しなかったけど。


俺の心に、もう一度未知に対する興味が湧きあがった。


あぁ、わかってる。この願いはきっと敵わないだろうこともさ。








意識が沈着する。


眼が覚めた。


眼が、覚めた?


なんだろう、ここはどこだ。


後頭部に何かが当たる感覚がある。


懐かしくも、新鮮な感覚。いや、そもそも感覚というもの自体、どれほど久しぶりだったか。


いや、つい先ほど味わったもののような気がしなくもないけど。


起き上がる。


起き上がるには腹筋が必要であり、手が、脚があればなお容易い。


それらが、ある。


ついさっきまで、俺は何か……。


変な世界にいたような……。


あれは、夢?


周りを確認する。


頭の上には布。雨露をしのぐように張られたものか。


手元、いや、自分の身体の下には、これは布団?ベッドと呼ぶにはあまりに薄い布が。


となると、俺は寝ていた、のだろうか。


枕も確認できる。やはり、ここは寝床。


というより、テントか。俺は、テントで今、眼が覚めたらしい。


瞬間、ふと、鼻腔をくすぐる何かを感じ取る。


クツクツと、外で何かを煮込む音も聞こえる。


手を何度か握り、脚をさすり、それぞれに感覚があることを確認したうえで、俺はテントの外に出た。




見渡す限りの草原。


今自分が見おろせる範囲すべてが、草原であることがわかる。


ということは、ここは少しばかり小高い位置にあるということか。


太陽がまぶしい。日は鋭角に俺の目を抉る。朝か、夕方か。


傍らには、大きな剣。なんだか、ファンタジー染みた装飾が施してある。


すっげー……。めちゃくちゃきれいなところだなぁ……。


「お目覚めですか、勇者様」

「ん?ああ、ん?なに、勇者?」


勇者、と呼ばれて振り向く。なんだそりゃ、どんなオベッカ使って……。


「……うおっ!?」

「きゃっ……!」


そこにいたのは金髪の美少女。


甲冑を着込んではいるものの、その容貌がとんでもなくハイレベルなのが見て取れる。


いやー……世の中にこんな美人がいるもんかね。


「美しい……」

「は、はい?あの、何を……」

「えっと、貴女お名前は?」

「名前?もう、忘れてしまったのですか?ユージェニーと、何度も呼んでくれたではないですか」

「ユージェニーか。いい名前だなぁ」

「あの、勇者様、そこまで褒められると照れてしまいますので、このあたりで……」

「あ、ああ……」


照れた様子もとんでもなく可愛いな。


まるで逃げるように、杖をもって料理に向かい始める彼女を見て、ほほえましく思う。


いや、ん!?


「な、なんだそりゃ!」

「えっ、こ、今度はなんですか!?」

「いや、これ!!」


てっきりかまどか何かで料理をしているのかと思ったら。


鍋は浮いてるわ、火は小さな石ころから出てるわ、杖からサラサラと流れ出る水やら調味料やら。


「え、う、浮いてる、なんだこれ。火は、んん??どうなってんだこりゃ……!?」

「ゆ、勇者様?えっと、これが不思議なのですか?」


そういいながら彼女は何のためらいもなく火の中に手を突っ込んだ。


「どわっ、あ、あぶねぇって!!」

「え、っと……その、だ、大丈夫ですので……手を放していただけませんか?」

「い、いやでもアンタ、ああごめん、ユージェニー、そんなところに手を突っ込んだら危ないって」

「その……勇者様、これは魔法炎ですよ?」

「マホウエン……?」


なんだそのマホウエンってのは。


え、あれか、なんかマジックみたいなものか?


マジック……マホウエン……マホウ……ああ、魔法か!!


でも、鍋はクツクツ湧いてるぞ。


「だってこれ……お、おかしいって」

「大丈夫ですので。ほら」

「うおっ」


そういうや否や、彼女は抑えてないもう一方の手で、さっとその炎の中から石と炎を取り出した。


手のひらにのる石から、炎が出てる。明確に、出てるようにしか見えない。


けど、彼女はけろりとしてる。まるでリンゴでも差し出すかのように、俺にそれを見せてくる。


「炎は青色。確か、酸素濃度が色に関係してたな……」

「ゆ、勇者様?」

「ああ、その……。ちょっと、手に取ってみても?」

「ええ、もちろん」


恐る恐る手を伸ばす。確か、外炎が一番温度が高かったはずだ。


もっとも、そこには彼女も触れてるわけだけど。


でも……明らかに、何か少し暖かいものに触れた程度の感触しかない。


「いや、いやいやいや……」

「……?」


心底不思議そうな顔でこっちを見てくるユージェニー。


いや、そんな可愛い顔されてもな……。


思い切って石を手に取る。確かに、熱くない。少し暖かいかな、くらいの。


「魔法炎、つったか」

「ええ、その石に込められた魔力を通じて、炎を具現化する魔法です」

「…………それで、人間の皮膚には影響が出ないように調整がされている、と」

「皮膚……というか、人には危害が及ばないように作られていると聞いていますけど……」

「はぁ……。こりゃ、超高度な科学だともいえるんだろうなぁ……」

「カガク……?」

「ああいや……。と、ところでさ、さっきから俺のこと、勇者って呼んでるよね?」


石を彼女に手渡す。と、彼女はそそくさとそれをまた鍋の下に放り投げた。


うん、やっぱり鍋も浮いてる。鍋の上方を手で横切るが、どこかにつるされてるとかでもなさそうだ。


彼女は料理の工程に戻ると、俺の質問に答え始める。


「はい。その、勇者様は勇者様ですので、そうとしか」

「えーっと、それは何、俺が勇者ってこと?」

「そう、ですよ。あの、勇者様、頭を打ったりしましたか?」

「頭……う、打ってないと思うけど」

「そうですか……。その、今日は様子が変ですよ。まるで、別人にでもなったようです」

「う……そ、そうか」


いや、なんというか。


まあ、ありていに言えば記憶がない。


俺がここにいる理由も、自分が何者なのかも。


この世界をファンタジー染みたものだと思ってるあたり、きっと俺の常識はここからずれてるんだろうけども。


でも、その常識を定義する何かが、俺の記憶の中には存在していない。


わかりやすくいえば、ここは俺が居た世界とは別世界だと思うんだけど、俺が元いたはずの世界のことをなんら思いだせないのだ。


いやー……。そうか。


で、勇者か。


んー……少なくとも、俺の常識が訴えるのは、勇者なんてのはフィクションだってことだけで。


つまり俺は、空想上の世界に落とされたってところだろうか。


「ご、ごめんなユージェニー。その、記憶がない。俺が今まで何をやってたのか、とか」

「そ、それは……」

「えっと、俺は今、何をしてるんだ?」

「その……ど、どこから説明すればよろしいですか?」

「んー……時間があるなら、全部説明してくれると嬉しい」

「そう、ですか。わかりました。これも勇者様としての特異性なのでしょう。大丈夫です、このユージェニーにお任せください!」


そういうと彼女は意気揚々と俺の、いや、この身体が今までめぐってきた歴史を教えてくれた。


平和な村で生まれ、魔王の誕生とともに勇者として覚醒し、ただ勇者の能力がそこまで芽生えず、負け続けた。


人類は魔王軍に追い詰められつつ、なお勇者の活躍を望んでいる。


ただ、勇者としての功績は、ついこの前王国軍を救出した、程度のものでしかなく。


王様は、そんな勇者に経験を積ませる意味で、辺境地区の偵察を命じた。ユージェニーを随伴させて。


そして今、カサゴ丘を登りきったところで一夜を明かして、今日にいたる、とのこと。


「あー……そりゃ、さぞ悔しかったろうなぁ……」

「そう、ですね。その、いつも申し訳なさそうに街を歩いていたと、聞いています」

「あはは、そうだよねぇ。じゃあこれは、ちょっと失敗できないような任務になるわけだ」

「あ、あの、そこまで気負わなくてもよろしいかと思いますよ」

「ありがとう。ユージェニーは優しいね。王家の人間かな?」

「そう、ですね。はい。父が、今の国王であらせらります、フィリップ三世でございます」

「すっげーな。じゃあ、本物の御姫様だ。道理で美人なわけだな」

「あの、その……。今日の勇者様は、その……苦手です」

「おっと、ごめんごめん。あまり褒めるのはだめだった?」

「駄目というわけでもないのですが……て、照れますので」


またも彼女はそっぽを向いてしまう。


料理の様子をみて、はっとしたように皿へそれを。


そっとこちらに差し出すと、おいしそうな香りが。


「とかく、お食べください。何よりも、おなかがすいては」

「あ、ああ、ありがとう。じゃあ、いただきます」


薄味の雑炊。いや、もしかしたらこの世界ではこれは結構な贅沢かもしれない。


さっきの話を聞く限りじゃ、人類は割とピンチだ。


米が食えるだけ、まだましってやつだろう。


っていうか、このファンタジー世界に雑炊ってのもまた、似合わないというかなんというか……。


「いや、でもうまいよ。ありがとう、ユージェニー」

「…………」

「ど、どうしたの、そんな驚いて」

「い、いえ。おいしいという言葉はよく言っていらっしゃいましたが、ありがとう、と言われたのは初めてで」

「ま、マジか。そんな余裕すらなかったんだろうなぁ……」

「そ、そうですね。あの、勇者様?」

「ん?」

「よ、よろしければ、なのですが……。勇者様のお名前をうかがってもよろしいですか?」

「名前……」

「あっ、そ、そういえば記憶がなかったんでしたね。す、すみません……」

「ああいや……」


名前、か。


そういや、俺ってどんな名前なんだろうか。


漠然と、人格のようなものが、意識があり。


それがあるってことは、たぶんこの世界に引きずり込まれる前にも、意識があったってことで。


突如としてこの身に意識が宿るってこともなさそうだし……。


「こ、この身体の、って言うと変だけど、勇者のそもそもの名前は無かったのか?」

「あった、とは聞いていますが、偽名を名乗っていたという話もあったので、できれば本当のお名前を知りたくて」

「あー……なるほど」


流石に勇者が本名さらして、王都に堂々とかくまわれるわけにもいかなかったってところかな?


まあ、あまり意味がない対策のようにも思えるけど。


さて、名前か。


俺が前の世界の記憶を持っていたりしたら、そこでの名前をこういう場合名乗るんだろうけど。


引き継げたのは、前の世界の常識、くらいみたいだし。


「悪い、俺名前わかんないんだよね。だから、ユージェニーがつけてよ」

「えっ!?」

「ん?そんなに驚くこと?」

「い、いえ……。その、名前を付けるなどという大そうな仕事、私初めてでして……」

「あー……。いや、適当にさ、ほら、あだ名付ける感じで、付けてくれていいよ」

「あだな、ですか……」


ユージェニーは少し考えると、はっと思いついたような顔をする。


「ケイ、というのはどうでしょうか?」

「ケイ、か。いいんじゃない?じゃあ、俺は今から、ケイって名乗ることにするよ」

「は、はい!」

「ありがとう、ユージェニー。それと、たぶん俺いろいろ迷惑かけるけど、よろしくね」

「ええ!頑張って二人で偵察を成功させましょうね、ケイ様!」

「あ、はは、様、要らないよ」

「そ、そうですか?では、ケイ!」

「おう!」


二人で握手をする。





さて。やることがたくさんだ。


もちろん偵察とやらも成功させなきゃいけないだろうし。


勇者だとか言われてたそのゆえんやら何やらも探らなきゃだし。


勇者としてすべき仕事もあるみたいだし。魔王とか倒したりするのかね。


それと、一番気になってるのが、魔法。


あんな超科学見せつけられたら、心が躍る。


理屈がまったくわからないけど、でも……。


きっと何かそこにはルールがあるはずで。


それさえわかれば、再現性が取れるはず。


もっとたくさんの魔法を知りたくなる。


どうしようもなく知的探求がしたくなる。


どうやら俺は、この世界でも。


アテンドが言ってたように、探求をし続けるんだろう。


とにもかくにも、まずはユージェニーと一緒に、この任務を終わらせよう。


無能な勇者の汚名を適当に返上しながら。


魔法についていろいろと研究出来たら嬉しいなぁ、なんてね。

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