凸凹殺人迷路騒動
「バーク、俺がこのメガネのチビスケを始末する。東域人の小娘を頼んだぜ!」
「誰がチビスケよっ! この豚マスク!!」
クララが憤慨して、怒髪天を衝く勢いだ。それに構わず、豚仮面のヘアはチェーンソーを作動させて、クララに迫る。
「おうよ、ヘア……バークにまかせろっ!」
牛仮面のバークが斧を持ってみぞれに狙いを定めた。みぞれとクララは背中合わせにピタリとくっつく。
「人造人間ならまだしも、ただの小悪党なら怖くないわ……みぞれ、そっちをまかせていい?」
「もちろんよ……扶桑女子の剣術を見せてやるわっ!」
チェーンソーのモーター音を響かせ、豚仮面ヘアが凶器をクララ目がけて斬りつける。
「ここは地獄の下宿屋だ……生きて出ることはできないんじゃね!?」
「魔力『魔風刃』!」
クララの呪文詠唱で大気中に三日月の真空が生じ、豚仮面ヘアに飛来する。さきほど笑気ガス責めをした遊戯室の扉を破壊した風元素の魔法である。
「そうは、いかないんじゃね!」
チェーンソーが三日月型の真空刃を跳ね返し、壁に激突して破壊孔が生じる。
「なっ……跳ね返した……」
「このチェーンソーは万が一のために、クビーン先生に魔法攻撃防御の護符をいただいたシロモノよ……次はこっちからいくぜ」
豚仮面ヘアが下品に笑いながら、クララ目がけてチェーンソーの乱撃をおくる。だが、クララがハンバーホ市で復讐のために鍛えた体術と動体視力が電動式ノコギリの刃をかわし、壁が無為に破壊されていった。
「おのれ、チョコマカと……」
そのとき、クララが破壊された壁の木片に足元を取られて屈みこんだ。
「チャンス到来じゃね? 覚悟しやがれ!」
豚仮面男がチェーンソーを横薙ぎに金髪少女の首を切断すべく迫る。ヒュンと、風音。ヘアは右手に急激な痛みを感じて動きを止めた。
「痛てえええええええええっ!!」
クララが屈みこんだのはフェイクで、ブーツに仕込んだ短剣を手裡剣打ちにしたのだ。魔法攻撃防御の護符は物理攻撃には無力であった。派手に転んで尻と背中を打つ。
「くそぉぉぉっ! もう、許さねえ……」
ヘアが立ち上がり、チェーンソーを拾い上げようとする。が、その前にクララが立っていた。彼女が喪服の長袖を下ろし、垂直にすると小型拳銃が現れた。右手上腕部に仕掛けられた金属アームと発条仕掛けにより、小型拳銃がクララの右の掌に落ち、グリップを握り、素早く持ち上げたのだ。
デリンジャーは成人男性や防寒手袋をした女性の手の平にスッポリと収まるサイズの小型拳銃だが、上下二つの銃身かつ薬室にセットされた弾丸は、小型だが近くから撃てば充分に凶器となる。小型ゆえ、賭博師や女性の護身用、暗殺用にも使われた。
「げっ! デリンジャー!!! お前はメルドキアの賭博師かよ……そんな技をどこで……」
「以前、カラミティ・ジェニーに教えてもらったことがあるのよ」
「あの悪名高い女賞金稼ぎか……何者だてめえ……」
「それより、魔道士クビーンの部屋へ案内しなさい!」
「けっ、誰が……悪党にだって仁義があらあな……誰がいうかよ……」
クララは黙って、銃口をヘアの心臓に向けた。
「ぎゃああっ! デリンジャーはデンジャラスだから、こっちに向けんなよ……わかった言う、言うからやめてくれ……そこのドアだ……」
クララがヘアの示す方向をチラリと見た。その瞬間、ヘアがクララの右手を蹴り上げる。デリンジャーが宙に飛んだ。
「痛っ!」
「間抜けめっ!」
その間に豚仮面ヘアがチェーンソーを拾い上げ、クララに刃先を向けた。




