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眠り男レザーチェ 魔城兵団  作者: 辻風一
青髪の殺人鬼
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復讐者

「なにを莫迦ばかな……ありゃ、化物ではない。中世時代のペストマスクをした殺人鬼の仲間にすぎん!」


 ペストマスクとは、中世に猛威をふるった黒死病ペスト専門の医師がつけていた防護マスクである。くちばしに見えるのは、黒死病の感染源と思われていた悪性の空気から身を守るために、わらと大量のハーブや香辛料をつめてフィルターにしたマスクであった。


 なお、ペスト医師は悪性の空気を肌に触れさせないように、鍔広帽子、ペストマスク、革製のガウンか表面に蝋をひいた重布の保護衣ロングコートを着て、手袋、ブーツ、木の杖を持つのが一般的であった。


「……とにかく逮捕だ!! 抵抗を続けるなら射殺しても構わん!!!」


「手を貸そう……」


 クルーグハルト警部の背後から声がした。振り返ると、青い三角帽トリコーンに青い革コート、そして青髪の美貌の男が立っていた。


「うぐっ……貴様は……死んでいたはずでは……」


「我はレザーチェ……賞金稼ぎだ……あちらの賞金首を頂きにきた……」


「むむむむむ……駄目だ……とにかく、あとで、署で事情聴取するからそこに大人しくしていろっ!」


 レザーチェを叱り飛ばすクルーグハルト警部。


「ええいっ! これを喰らえっ!」


 クルーグハルト警部が眼前のペストマスク男に左手上腕部を垂直に伸ばし、右手でレバーを引く。すると、義手の掌に穴が開き、ガス噴射で投網が漏斗ろうと状に展開し、怪人を網で包み込んだ。


「やったっ! 捕まえたぞ!」


 だが、青髪の通り魔が右手を上げると、背後から、別のペストマスクの怪人が二人出現し、投網を斬り裂いた。そして、計三体の鳥怪人が夜霧にまぎれて警官隊に鉤爪で襲撃し、古着屋通りは大混乱となった。


 その間に、霧の中に潜りこんだレザーチェは本物の通り魔と対峙した。


「ようやく会えたな……レザーチェ!!」


「貴様は……魔道士ズィーガーだな……」


「会いたかったぜぇぇ……レザーチェ……高架下での戦いの決着をつけようじゃアねえか。このまえの深傷ふかでも癒えたことだしな……」


 ズィーガーが黒い三角帽と青髪のカツラを投げ捨てた。短く刈り込んだ金髪の、武骨な男は左手を前に出して、指を互い違いに動かす。膨大な魔力を使って完全復活したのだ。


「そんなカツラを被ってまで、我をおとしめようとはご苦労なことだな……さすがに青く染めた帽子とコートは手に入らなかったか……」


「抜かせっ……目的のためなら手段は問わん主義でな……いくぞっ……魔力『鉄の甲冑アイゼン・リュストゥング』!」


 魔道士ズィーガーの黒い革コートが破れちぎれ、ズィーガーの鍛え抜かれた体躯が銀色に輝きだし、表皮が金属板に覆われた板金鎧プレートアーマーに変化。そして、頭部が銀色の兜に変形していく。


 葬儀馬車の棺――キャビネットから立ち上がったレザーチェは魔法の指輪から愛用のグレイブを召喚して、変身途中のズィーガーに上段から斬りこんだ。魔道士の長剣が防ぐ。重い金属音が夜霧の町に響いた。長剣がへし折れて路面に飛ぶ。


「あいかわらず、やるな……だが、今のは小手調べよ……」


 魔道士の右腕が円錐形の馬上槍ランスに変形した。そして、5メートルの長さに伸びて、レザーチェの腹部を串刺しにせん、と伸びた。レザーチェは軽やかなステップを踏んで死の馬上槍をかわす。そこへさらに別の槍が足を狙って薙ぎ払ってきた。ズィーガーの左腕も槍となって伸びたのだ。これをレザーチェは跳躍して回避し、飛鳥のごとき曲線を描き、ズィーガーの首にグレイブを突き刺さんと迫った。


 鋼鉄の甲冑にも弱点はある、つなぎ目だ――アイサイト、首周り、わき、股間などが狙い目である。だが、ズィーガーは両手を瞬時に元に戻し、左腕を鉄の盾に変形させた。グレイブの刃先を折るなどという愚をおかさず、レザーチェは盾を蹴り上げ、反転して着地。


 ズィーガーは右手を戦鎚ウォーハンマーに変化させた。片方が直方体、片方が爪状のこの打撃武器は、もとは軍の陣地作成で杭を打つために使われた工具である。が、中世の金属鎧の発達と重武装化にともない、槍や剣では歯が立たないようになると、ウォーハンマーのような打撃系武器が見直された。刃を弾く金属兜や甲冑も戦鎚によって破壊が可能なのだ。


 そのウォーハンマーがレザーチェの背骨に叩きつけられた。鎧もない状態の人間がこれを喰らえば、背骨は砕け散ってしまう!


「やったっ!」 


 鉄の魔道士が歓喜の表情を浮かべる。が、手応えが妙だ。戦鎚は空振りして、よろけてしまった。


「体技『迅速通フリュー・ヴィント』!」


 レザーチェンの高速移動術で、置き去りとなった残像に攻撃してしまったのだ。


「また、あの忌々(いまいま)しい術か……だが、今度も見切ってやるぜ……」


「今度は通じぬ!」


「だが、地の利はこっちにあるぜ!」


 その時、レザーチェの視覚に異常が起こった。周囲の建物がぼやけ、建物が斜めに倒れ、ガス灯がねじれ曲がっていったのだ……夜の古着屋通りの建物群が、すべて輪郭が歪んで、ねじくれていた。煉瓦の建物がいびつな四辺形や台形となり、窓が三角形や楕円形に、三角の屋根が幼児の書いた絵のように、ギザギザで不規則に伸びていた。世界は一瞬にして狂気と幻想の悪夢世界に変貌してしまったのだ。


「これは……一体…………!」


 さすがのレザーチェも変貌した世界の影響で眩暈めまいを覚え、三半規管と体幹神経に異常が生じ、体がふらついた。


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