トモダチ
以前もクララとレザーチェは魂について話していた。『魂』とは脳髄、もしくは心の中にしめる一割の部分を占める、『理性』、『良心』のことではないかと……
「そのために、小学校教師の真似をしているの?」
「うむ……イミルは呑みこみが早い……おそらく、優秀な人間の脳髄がつかわれているのだろう……」
「……アィインスゥゥ……ツヴァァァイ……」
顔は強面だが、必死に勉強している姿は大きな子供のような人造人間イミルであった。みぞれはイミルとレザーチェが、初めて微笑ましく見える。
「アゥゥゥ……レザーチェ……女ノ子……二人……カワイイ……ナデル……」
イミルが立ち上がり、みぞれとクララを大きな手で撫でようとした。
「ちょっと……何するのよ……」
クララが慌てて後ろに下がる。身長2.7メートルの人造人間の巨躯に、本能的に怯えが生じるのは、止むをえまい。みぞれも怖気づいたが、頭を差し出す。
「いいわよ、イミル……撫でるくらいなら……」
「アゥゥゥ……」
「駄目だ、イミル! ……駄目! 座る!」
「アゥゥゥ……イミル……ダメ……スワル……」
人造人間はレザーチェの強めの言葉に随い、すごすごと悲しげな表情で元の樽に座った。
「どうして、やめさせたの? レザーチェさん……」
「……イミルはまだ力の加減がうまくできない……撫でるつもりでも、首の骨を折ってしまうだろう……」
「ええぇぇぇ…………」
黒髪少女は青くなって首をすくめた。
「彼女達はトモダチだ……大事にする……こちらは『みぞれ』……こちらは『クララ』……」
「トォモダチィ……ミィゾォーレ……クラァーラァ……」
「そうよ……あたしたち友達……よろしくね、イミル……」
「トォモダチィ……ミィゾォーレ……」
「教育も大事かもしれないけど、緊急事態よ……」
クララがレザーチェに朝刊を渡した。通読。いつも無表情なので分かりにくいが、衝撃を受けたように……見えた。
「どうやら……我の偽物を使っておびきだそうという魂胆のようだな……卑劣な奴らだ……」
「とりあえず、あんたは騒動が治まるまで風車小屋に隠れていて……その間になんとか犯人を捕まえておくから……」
「いや、それは駄目だ……我にまかせよ……危険な仕事は我の役目だ……」
主人と使用人の押し問答があった。その間も巨人イミルは数字を覚えるのに夢中になっていた――
「アィインスゥ……ツヴァァイ……ドゥラァァアイ……」




