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眠り男レザーチェ 魔城兵団  作者: 辻風一
怪物来たる
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眠り男復活

 みぞれとクララが葬儀馬車に乗り込み、葬儀馬車はカーブを描いて元来た道を進む。呆気にとられた人造巨人は、葬儀馬車を追いかけた。


「えッ! レザーチェさんの知り合いなの?」


「レザーチェはどこ?」


 馭者のイーヴォにまくし立てると、彼は親指を背後の荷台にある黒塗りの棺を指さした。彼女達は知るよしもないが、負け犬の目をしていた酔いどれ馭者は、別人のように活気にあふれている。これが本来の彼のパーソナリティーなのだろう。


「へへ……ここでさ」


 それは八角形船型の棺桶ではなく、飾り戸棚につかうキャビネットだった。クララはこの葬儀馬車が自分が購入したものだったと気がつく。


「あいつ、魔力切れで眠っているのね……みぞれ、戸棚を開いて!」


「わかったわっ!」


 キャビネットの中には青い髪を水底の海藻のように張りつけた死者の国の王子のごとき美丈夫が胸前に手を組み合わせて眠っていた。地底の大崩落で生き埋めになったはずのレザーチェが何故ここに? 


 ともかく、クララが呪文詠唱をして、双眸を金色こんじきに発光させ、言霊ことだまを耳に囁き、魔力を怪人眠り男に注ぎ込む。その間にも人造巨人は葬儀馬車を追ってきた。二頭の馬に匹敵する速度で駆けてくる。宮葉みぞれは巨人イミルに捕まったら、機械巨人ディオニュソスのようにバラバラにされるかもしれない、と総毛立つ。


 ガクンッ!


 葬儀馬車に大きな衝撃がして、立ち止まった。乗り手たちが転げ落ちそうになるが、咄嗟に手すりなどに捕まって怪我を防いだ。荷台の後方を見ると、巨人イミルの上半身が見える。巨腕が後部の木枠をつかみ、馬車を止めたのだ。巨人は馬より早く走り抜け、馬二頭を止める怪力を発揮したのだ。馬が怯えた鳴き声を上げ、歩みを止めた。


「グアアアアアアアアアアアアッ!!」


 宮葉みぞれは敵わぬまでも、木刀でイミルと応戦しようと、荷台の上で武器を構えた。その時、顔に黒影がかかった。キャビネットから青い闇が立ち上がっていた。トレードマークの三角帽トリコーンを被り、魔法の指輪から愛用のグレイブを召喚していた。


「レザーチェさんっ!!」


「宮葉みぞれよ……またも我が主を守ってくれてありがとう……」

 美声が自分の名を告げたとき、感動で扶桑女子の心臓が高鳴り、潤んだ瞳で青髪の賞金稼ぎを見上げた。緊張した肉体に安堵と恍惚が走り、ふにゃふにゃにへたり込んだ。


「あ……いいえ……どういたしまして……」


 一方、レザーチェはグレイブを聖眼の構えにし、切っ先を人造巨人に向けた。


「フランケンフェルド教授め……オルトロスやボルガンに続き、今度は巨人兵士を造りあげたか……」


 グレイブが怪物の胸前に突きかかろうとした、その時、巨人イミルが怯えたような声を張り上げた。


「ウアアアアアッ……グゥゥゥゥ……アウアウアゥゥゥ……」


 そして、腹を押さえ、手が赤黒く染まっていく。なにかを訴えているようだ。


「……………………」


 その様子にレザーチェはグレイブを下げた。じっと、巨人イミルの両目を凝視する。青玉サファイヤの双眸が青く輝いた。

「どうしたの、レザーチェ? 早く、怪物を倒しなさいよ!」

 クララが使用人である美しき賞金稼ぎをうながす。


「……マスター……こいつは敵ではないようだ……」


「なんですって!?」


「どういうこってす、レザーチェの旦那?」


 クララとイーヴォが驚いた様子で青髪青衣の青年に視線を向ける。荷台にへたり込んでいたみぞれは、レザーチェを見つめ、視線を巨人に移す。


「あ……もしかして、その巨人は……」


 宮葉みぞれが葬儀馬車から降り、人造巨人の方へふらふらと歩いて行く。


「みぞれ……危ないわよっ!」


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