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魔の館炎上

「私は魔道士スヴェンガルドに復讐するのが目的。国家転覆を目論む組織なんてどうでもいいわ」


「どうでもいいって……そんな……彼等をほっといていいの?」


「まず、第一に私たち少人数で国際陰謀組織を倒すのは不可能。第二に見解の違い。君主国家の転覆なんて、民主国家がたどった道筋の一つよ……全人口の5%しかいない王侯貴族のみが支配する国の9割以上の民衆の中の大部分は国家転覆に賛成かもしれない……」


「ううぅぅぅぅ……」


 宮葉みぞれは扶桑国の伊達幕府の上級旗本の家の出、つまりは君主国家の体制側の人間なのだ。彼女自身、身分制度の理不尽さを目の当たりにしている。中世から近代となり、民主主義国家化の波は止めることが出来ないのかもしれない……


「多くの民にとっては、自分たちを支配する独裁者の首がげ替わるだけ。新しい独裁者は前より良い政治をするかもしれないし、前より悪い政治をするかもしれない……それはわからないわ」


「難しい問題ねえ……でも、死人兵士で革命やテロを起こしたら、多くの人達に危害がおよぶわ……警察か軍に通報したほうがいいと思う……」


「それなら、すでに帝国の軍隊や秘密情報部が調べ回っているみたい……脱走した人造合成生命体が目撃され、軍が集めているから……」


「そんなことが……」


「とにかく、私は隙を見てフランケンフェルド教授に催眠術をかける予定だった。けど、クニッゲ男爵のほうが結社の情報を知ってそうね……男爵に催眠魔眼をかけるわ……でも、彼がみぞれみたいに催眠術にかからない体質だったときは、あなたの出番よ」


「出番って……」


「その木刀で男爵を脅すか、気絶させてね……」


 クララが瓶底眼鏡をずり下げ、首を傾け、ニコリと天使の笑みを浮かべた。みぞれは「はわわわわ……」と、妙な声を出して頬を紅潮させる。だが、言っている事は物騒なこと、このうえない。


「えええっ……あたしが?」


「なんのためにあなたを館に連れてきたと思っているの!」


「……そのためかぁぁ~~~…いや、私はクララを護衛するつもりで……」


 目をつぶって迷い顔のみぞれに呆れ顔のクララ。


「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 突然、巨人イミルが館全体を震わせるほど咆哮した。驚いた二人の学生探偵が振り向くと、イミルが頭を両手できむしり、狂乱状態である。そして、台から降りて、暴れ出した。机の上の試験管やビーカーが落下して床で割れる。


「どうしたイミル……大人しくしろっ!!!」


 暴走したイミルに慌てたフランケンフェルド教授が脳波操縦機を操作するが、大人しくならない。


「教授……これは一体?」


「しかたがない……イゴール、麻酔銃を撃て!」


「ははっ!」


 助手のイゴールが棚にある銃を構えて、巨人兵士に麻酔針を打ちこんだ。悲鳴をあげる怪物。だが、効かない……量が足りないのか。暴れ続ける巨人は発電機などの機械類を殴り、蹴る。鉄と真鍮でできた機械類が薄紙のように歪み、火花をあげ、書類やカーテンが燃え上がる。


「やめろ、イミル……やめるのだっ!」


 フランケンフェルド教授が叫び、クニッゲ男爵の悲鳴が木霊こだまする。だが、巨人は狂ったように暴れ続け、暴風雨のように実験室を破壊し続けた。館内部で火災が広がっていき、黒煙が濛々(もうもう)と湧き出す。息を飲んで見守るみぞれの袖がグイグイと引かれた。


「なんだか、やばそうね……今回はひとまず逃げるわよ、みぞれ!」


「賛成!」


 クララとみぞれは館の元きた廊下を走りだした。外の雨は小休止状態で雨脚がおさまっていた。だが、黒雲を見れば再び降り出すのは明白だ。煉瓦塀から出て、クララが魔法水晶式通信機でレザーチェに迎えの連絡をする。だが、返事はない。


「レザーチェ……応答して……くっ、肝心な時になにやってんのよ、あの木偶人形でくのぼう!」


「もしかして、レザーチェさんの身の上に何かあったんじゃあ……」


「あの眠り男はそこらの犯罪者や魔道士にかなう奴じゃないわ……」


 心配顔のみぞれに、クララが憎まれ口を叩く。だが、彼女たちはレザーチェが廃教会の地下通路からイルミナティのアジトへ潜入し、魔道士クヴェレと戦い、地下広間の爆破と崩落で生き埋めにあったことを知らなかった……


 ドゴォォォォォォォ~~ン!!!


 破壊音が二人の大学生探偵の背後で聞こえた。振り返った二人の前に、煉瓦塀を素手で破壊して、瓦礫が崩れ、粉末と黒煙がただよう向こうに巨影が見えた。薄れゆく煙の向こうに、青い肌の巨人が佇んでいた。


「ウガアアアアアアアアアァッ!!」


 巨人イミルの怖ろしい形相にクララとみぞれは背筋が凍る。


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