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陽気な死体調達人

 そうこうする内に、フランケンフェルドの館に到着した。館の手前500メートルあたりで辻馬車を返す。外に出る前にレインコートを着ていた。


「ちょっと、クララ……こんな雨のなか、帰りはどうするのよ……」


「教授に気づかれてはまずいのよ……あとで、水晶式通信機でレザーチェに迎えにこさせるわ……」


 レザーチェと聞いて、宮葉みぞれは頬を赤らめ、スンっと大人しくなった。ふと足元を見る。何か白いものがっている。


「ひゃああああん!!」


「なにっ、どうしたの! 敵の襲撃?」


「足元にでっかいナメクジが這ってるよぉぉ……」


「あなたねえ……ナメクジくらいで大声を出すんじゃないのっ!」


 ともかく二人は雨のなか、三階建ての館目指して進む。近くで見ると破損が目立つ。ところどころ崩れた煉瓦塀に囲まれた館。門の中に荷役馬車が一台止まっていた。さっきの強引な奴等である。


 クララとみぞれは灌木に身を隠しながら近づく。二人の男が馬車から木箱を館の玄関から運びこんでいた。応対していたのは猫背の男。頭頂が禿げ上がり、横の髪が長く乱れて、まるで扶桑国の落ち武者のようだ。ギョロ目で、鼻が上をむいている容貌魁偉な男であった。


「へへへ……イゴールの旦那、目玉に腕、足、成人男性のフルセット死体と……これで荷物は全部ですぜ」


「うむ、確かに注文の品通りだ……代金を確かめるだ……」


 イゴールが二人の男に金貨のつまった皮袋を渡す。山高帽を被った、のっぽのバークと太っちょのヘアが中身を確かめて歓喜する。


「うひょおぉぉぉ……こんなにたくさんの金貨だなんて、感謝感激!」


ちなみに真面目な公務員が一月に働くサラリーの二倍の金貨が支払われた。


「へへへへ、毎度ありい…………フランケンフェルド教授はいつもニコニコ現金払いで助かりまさあ……」


「わかっているだろうな……バーグとへア……過分な値段は口留料も入っているんだで……」


「そりゃあ、もちろん……お互い様でさあ。なんせ、あっしらも官憲には後ろ暗いことをしてますんで……きひひひ……」


「なんてったって、俺たち死体調達人したいちょうたつにんだもんな、うひひひひ……」


 バークとヘアは玄関に横に並んで山高帽を脱いでイゴールの前でタップダンスを踊り始め、歌いだした。


〽おいらはウィリアム・バーク  

 おいらはウィリアム・ヘア  

 二人のウィリアムでバーク&ヘア商会♫ 

 ルンタッタ ルンタッタ…… 

 死体のことなら 

 二人のウィリアムにまかせを 

 シャベルを持って墓荒らしだい 

 ルンタッタ ルンタッタ……


 最後にバークとヘアは山高帽をとってイゴールに挨拶した。まるで小劇場のタップダンサー気取りである。


「……おめえら死体調達人だなんて、陰気で薄暗い稼業をしている割には、やけに陽気だなや……」


「なにいってんですかい、イゴールの旦那! どんな仕事も楽しんでやらなきゃ損! 損! ですぜ!」


「そうそう……タップダンスと唄と酒がありゃ、どんなところでも極楽でさあ! さあ、陽気に酒場へくりだそうぜ、バーク!」


「おうともヘア!」


 呆れ顔のイゴールをよそに、陽気に口笛を吹く死体調達人たちが荷役馬車に乗り込んで、雨の中、館を後にする。


「やれやれ……ロドニア人てのはおかしな奴らだんべ……」


 台車で木箱を運びいれたイゴールが扉を閉めると灌木から二人の少女が顔をだした。


「ねえ……クララ、死体調達人って、もしかして……」


「名前の通り、死体を調達するやからのことよ……医学部には常時、解剖用の死体が不足している……ボルガンのような刑死者だけじゃ間に合わない。浮浪者や貧しい者から死体を買い取り、医学部などに売買する連中よ。なかには墓地から死んだばかりの死体を盗み出して売買する死体盗掘人というのもいるわね……」


「ええええっ……医学部の裏でそんな事が……」


「綺麗ごとだけじゃ、医学は発展しない……どこかの有名な医学者の言葉だったわね……それより、教授の館の中に入るわ……」


「クララ……それって、思いきり不法侵入じゃあ……」


「賞金稼ぎはそんな事、いちいち気にしないわ」


 クララはしれっと澄まして答えた。家に閉じこもりがちの、病弱で内気な少女はたくましく、したたかに育っていた。


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