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眠り男レザーチェ 魔城兵団  作者: 辻風一
クララ・カリガルチュア
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勇気ある追跡

「……さて…………どうだかは、分からぬ……我は『生』はあるが……『ゼーレ』なき人形に等しい……」


「ぐっ…………」


 クララは、この美しい男が実は催眠魔眼で操られていただけの犠牲者だったのではと脳裏に思い始めた。


 ――いや、違うわ……どんな理由があるにせよ、この男の手は血塗られている……私の父や……使用人たちの血で……許せない……どこかにいる、黒幕のスヴェンガルドをレザーチェに始末させて……最後は彼も……いえ、まずは調査が第一よ……


 彼女は魔力をレザーチェにこめ、長時間覚醒した状態にする実験を始めた。出生出自など昔の記憶はないようだ。国や世界の歴史も、だ。だが、ベルデンリンク語、大陸共通語などの言語能力、計算、一般常識などはあった。そして、黄金仮面の魔道士が剣技の腕を買ったというだけあって、卓越した体技、武術を修めた青年であった。


 半年に及ぶ地下での調査を終え、伯父の館に閉じこもっていたクララは、表に出るようになった。心配していた伯父のドロッセルマイヤー教授は愁眉しゅうびを開いた。


 そしてクララは苗字を母方のドロッセルマイヤーと替え、ハンバーホ市の学校に通い、魔法修行と研究に勤しんだ。街の武闘士道場にも通い、武術・剣術・馬術・射撃術などで体を鍛えた。すべては黄金仮面の魔道士スヴェンガルドを倒す復讐行へ出るための準備期間であった。


 クララはレザーチェを武闘士道場で知り合った青年と、伯父に紹介し、使用人として雇った。面倒を避けるため、黒眼鏡をかけさせて、美貌を封印した。口数が少ないが真面目で勤勉な仕事ぶりで、館の使用人たちにも受けいれられた。


 レザーチェの特技を生かし、復讐行の資金を稼ぐために、彼に変装させて、賞金稼ぎをやらせた。やがてハンバーホ市に犯罪者が壊滅状態となり、隣市へ出張するようになる。


 また、探偵や情報屋を雇い、スヴェンガルドについて調査した。また、魔道士ギルド・錬金術師ギルド・闇ギルドなどと接触して、スヴェンガルドの消息を探した。黄金の仮面をつけた凄腕のはぐれ魔道士の噂は現在進行形であった。


 つまり、いまだに生きていて、暗躍しているようだ。ド・バリーと名乗っていた。やはり、カリガルチュア家で死んだギルベルトは替玉だったようだ。黄金仮面の魔道士スヴェンガルドは仮面をつけ、素顔がわかない。また、目撃情報のたびに体格が一致しないことがあった。中肉中背、小柄、巨漢、のっぽ、痩せ、肥満漢など。だが、どれも同じ黄金の仮面をつけ、錆びついた歯車が軋むような声であったという。


「もしかして、複数の人間がスヴェンガルドを名乗っているのかしら? だけど、いずれも、『催眠魔眼ヒュプノス・アオゲ』の能力を使って、人を操り、犯罪や暗殺をこなしている悪人だった……しかし、そもそも、数の少ない『催眠魔眼ヒュプノス・アオゲ』の魔力者がそんなにたくさんいるとは思えない……」


 クララ・カリガルチュアは17歳になっていた。そして、自室で今まで調べた調査ノートや魔法の本を机に広げ、ブツブツと独り言を言いながら、スヴェンガルドの正体について考えていた。


「同一人物だとしたら、変装の達人、もしくは変身術者の可能性があるわね……」


 仮面の魔道士がいつの間にかギルベルトに代わっていたという謎がある。まず、催眠術で操っていたとしたら、簡単に説明がつく。だが、偽物が催眠魔眼を使えるはずはない。


 短時間のうちにスヴェンガルドがギルベルトとすり替わったのか? 博士の背中に隠れていたとはえ、そのようなトリックを行ってはいなかったようだ。


「空間移動魔法かしら?」


 空間移動魔法とは魔法陣を移動門トーアにして空間を移動する高度な魔法だ。瞬間的にこの魔法ですり替わったのかもしれない。だが、やはり、これも呪文詠唱は無かったし、魔法陣が現れたり、発光したりという現象もなかった。


「う~~~~ん……。すり替えのトリックがわかれば、仮面魔道士スヴェンガルドの正体も判明するかもしれない……でも、方法がわからない……」


「マスター……紅茶だ……」


「ん、ありがと……」


 クララは紅茶をすすって、顔をしかめた。ぬるい……武技では超常的な能力を持つレザーチェだが、執事としてはまだまだのようだ……


「マスター……」


「ん、なに? まだ用があるの?」


「スヴェンガルドは『催眠魔眼』の他にも独自魔法を使えたのではないか?」


「えっ? 独自魔法は名前通り、自分ひとりだけが持つ特有の魔法よ……独自魔法を二つも使える人間なんて……」


 そこで、クララは机から立ち上がった。魔法史には――ごくまれに……大陸の歴史でも数えるほどだが、独自魔法を二つ使えるものが存在した。スヴェンガルドは催眠魔眼以外のもう一つの魔力を使ってすり替わったのではないか。


「ナイスな発想よ……レザーチェ……」

「そうか……」


 あれから五年の月日が流れ……レザーチェにも自我が生まれ、主人に優れた助言やアドバイスを行えるようになっていた。だが、過去の記憶はいまだに戻っていない――


 クララは司法の手を潜り抜け、犯罪や陰謀を続ける魔道士スヴェンガルドを自らの手で倒す事を決意する。そして、魔術事件専門の探偵から、黄金仮面の魔道士がインゴルシュミッツ市にある秘密結社に雇われた情報を得た。そして、この大学町インゴルシュミッツへ、レザーチェと共にやってきたのであった。




 宮葉みぞれは、クララの壮絶な過去の話を聞いて、言葉が出なかった。この小さく可憐な少女の身の上に起こった不幸に深く同情し、力になりたいと思った。そして、まだ聞きたいことがあったが、口にすることは、はばかられた。


 ――クララは……仮に、魔道士スヴェンガルドに復讐したあと、レザーチェさんをどうするつもりなのかしら……そして、レザーチェさんはどう思って協力しているのかしら……



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