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眠り男レザーチェ 魔城兵団  作者: 辻風一
クララ・カリガルチュア
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仮面の素顔は

 大剣で刺しぬかれ、血の花を咲かせた黄金仮面の魔道士が床にドウと倒れた。そして、黄金の仮面が吹っ飛び、素顔がさらけ出された。


「そんな……まさか……あなたが? そんなことは、信じられないわ……」


 その素顔の人物は、クララがよく知っている人物だった。だが、この倒れた人物が事件の黒幕とはとうてい思えない。


 なぜなら、その倒れた男は以前、カリガルチュアの屋敷で働いていた使用人のギルベルトであった。無精髭を生やし、目ヤニのついた双眸、酒焼けした赤ら顔、粗暴で単純な男が実は『催眠魔眼』の魔力を持つ魔道士だった……とは、とても思えない。


 ギルベルトは賭博と喧嘩などの騒動を起こし、街の飲み屋で酒によって傷害事件を起こして首になった男だ。魔力者でもない。そんな男が催眠魔眼を使う黒幕とは、違和感がある。方法は不明だが、なんらかのトリックを使って替玉にしたとしか思えない。もっと、ずる賢く悪魔の知能を持った黒幕がいるはずだ。


「レザーチェ……剣を捨てなさい!」


 自決の暗示命令が、新しい暗示命令により打ち消され、黒仮面の男は大剣を床に投げ捨てた。その首筋にはうっすらと血の痕がついている。頸動脈はぶあつい筋肉繊維におおわれているので、3センチ以上斬り込まないと死ぬことはない。が、危ういところだ。


「レザーチェ……道士様とかいう、あなたの主人は何者なの?」


「……知らぬ……」


「知らないって、そんな事あるはずないわ……」


 黒仮面の感情のない答えに、ヒステリックに13歳の少女が叫んだ。同じ質問を何度も繰り返したが、同じであった。そこで、質問を変えてみる。


「レザーチェ……まず、その不気味な仮面をとって……話しにくいわ……」


「了解した……」


 黒仮面の男が両手をあてがい、仮面を外す。黒いフードが下がり、長い髪が乱れ飛んだ。その色は髪の毛にしては、あり得ない色である。凍てつく冬の海より深い海碧コバルトブルーの髪であった。


 そして、おぞましい悪相を想像していたクララの予想は外れる。黒仮面の素顔を見て、激情にかられたクララの心が沈静化した。


 ――今まで、見たことのない美しい顔だわ……


 仮面男の素顔ははっと、息を飲むものであった。年齢は意外と若い、二十代の青年のようだった。意外に陽を遠ざけて暮らしてきたような青白い肌、整った鼻梁、一文字に結んだ口元、そして、夢に微睡みつづける伝説の姫のごとき、半眼に閉じた双眸。瞳の色も髪の毛と同じ海碧色をしていた。


 美貌で知られた光の神バルドルとの生まれ変わりではないだろうか……そう思わせるかんばせであった。しかし、青い髪の人間など、ラドラシア大陸にはいないはず。いや、伝説にはあった。青髪と訊いて、中域の人間ならば民話の『青髪鬼』を連想するはずだ。残酷な連続殺人をおかした金持ちの男の話だ。




「そんな……嘘でしょ……レザーチェさんが……クララのお父さんを……」


 辻馬車の外は篠つく雨が降る曇天の世界だ。稲光りがきらめき、キャビンの中にいる二人の少女を照らす。沈黙ののち、轟音が響き渡った。


「……嘘ではないわ……私は父を殺した男と賞金稼ぎをしているのよ……」


 宮葉みぞれは冷たい表情をした美貌の少女を見つめた。




 カリガルチュア家で父の血を被ったままの凄惨な姿の13歳の少女はじっと、青髪の男を見つめ上げた。憎悪をこめて……そうしないと、精神がおかしくなってしまいそうだ。


「青い髪……あなたはきっと、残虐な青髪鬼の子孫に違いないわ……」


「……知らぬ……」


「あなたはどこで生まれたの?」


「知らぬ……」


「知らぬ、知らぬって……あなたはそれしか言えないの?」


「……………………」


 ヒステリックになる少女だが、相手のレザーチェは自動人形のように感情がない、厄介な存在だった。だが、顔を睨みつければ、魔性のごとき美貌に憎しみの感情に惑乱しそうだ。


「あなたはいつ、黄金仮面の男の手下になったの?」


「気がついたときは……すでに……」


「やっと、『知らぬ』以外を話したわね……あなたの主人はなんと呼ばれていたの?」


「……スヴェンガルド……または、ド・バリー……または、グレーフェンベルク……または……」


「……名前がたくさんあるのね……いいわ、仮にスヴェンガルドとしておきましょう……」


 レザーチェは十以上の名前を告げた。偽名をたくさん持っているのは詐欺師などの犯罪者によくあることだ。途方もない時間をかけて、クララの尋問から知り得た情報がいくつかあった。


 まず、レザーチェの素性はよくわからないが、いつの間にか黄金仮面の魔道士スヴェンガルド(仮称)の部下になっていた。白仮面の男は部下でドーフラインという名前で、二人ともはぐれ魔道士のようだった。レザーチェは魔道士スヴェンガルドの持つ独自魔法『催眠魔眼』で操られて護衛や暗殺を行っていたようだった。やがて、レザーチェは膝をついてふらつき、倒れかけた。


「どうしたのよ?」


「……魔力が切れる……我は『催眠魔眼』によって覚醒され、魔力を与えられて起きている。が、魔力が切れれば、死の眠りにつく……と、道士がいっていた……」


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