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眠り男レザーチェ 魔城兵団  作者: 辻風一
青髪の賞金稼ぎ
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序章

 鉛色のまだら雲が夜風でわたり歩き、雲の合間から白い月が見え隠れする、そんな夜空。


 針葉樹の木立ちの影が、冥界の串差し槍の乱立を想起させる森の中。空中から望めば森を分断するように石畳の街道が見え、ある地点で大蛇が獲物を呑みこんだように見える空隙の地所が見えた。


 その地所は、村と村の境界によくある場所――墓地であった。ところどころ破損した古びた煉瓦塀にかこまれ、屋根瓦に草のはえた石造りの納骨堂がある。そして、巨人の歯が抜け落ちたような方形の墓石と、光神教団の象徴である十文字型の墓標があちこちに林立している。


 納骨堂の前に複数の男達の影が見えた。それは野暮ったいが豪奢な服を着た村長と助役、粗末な服をきた墓守二名、そして、武装した男たち五名だ。


「日も暮れたし、そろそろ、怪物がでる時刻だな……」

墓暴はかあばきをする屍肉喰らいか……腕が鳴るぜ……」

「待ってください……もう二人ほど、怪物退治人が来る予定でしてな……」


 腹の突き出た村長がチョッキから金の懐中時計を出して時刻を確認する。集合時間の8時まであと10分。


「どうせ、夜中になって怖気づいたんだろ……俺たち五人でなんとかならあな……」

「そうそう……こない奴の報奨金を、俺たちに回してくれや」


 五人の男たちが下卑た嘲笑をする。彼らは武闘士ぶとうしといって、剣術・槍術・弓術・斧術・馬術などの武芸を極めた者のことだ。手練てだれともなると、王侯貴族に騎士や軍人として雇われ、家臣となる者もいる。また、武術師範として雇われる者、民間で道場をひらく者もいる。


 もっとも、彼らは二年前の南北戦争時には傭兵部隊に所属して戦地を巡っていたが、正規の軍隊にも所属せず、気ままな武闘士の生活を送り、路銀稼ぎのため時々賞金稼ぎの真似事をする。


 今回は墓地に埋葬した死者をむさぼるという魔獣退治の仕事だ。本来は専門の怪物討伐人モンスタースレイヤーの仕事であるが、正式なギルド支局は都市部にあり、民間怪物討伐人も片田舎では探しにくい。そこで、懸賞金をかけて、腕利きの者たちを雇うのだ。


「あっ、あれを見てください……」


 細身に眼鏡をかけた助役が示す方角には、土煙をあげて馬車がやってくるのが見えた。最後の募集者であろう。


「やっ、あれは……」


 馬車は只の馬車では無かった、二頭立ての黒塗りの葬儀馬車だった。二頭の黒馬の背中には黒塗りの垂れ布がかかり、十文字の紋章が染め抜かれていた。そして、御者は喪服のドレスを着て、黒帽子に黒い網目のベールをつけた小柄な女のようだ。荷台は剥き出しで、長方形の木箱が置いてある。


「村長、もしかして、町の方でまた犠牲者がでたのでは……」

「いや、偶然かもしれん。聞いてみよう……」


 沈黙して見つめる一堂の前に、葬儀馬車は停止した。村長と助役、墓守たちは帽子をとって挨拶した。


「このたびはご愁傷さまです、御婦人……私はトレランツ村の村長です。どなたか亡くなったのですかな……」

「これは村長さん……皆さん……ご丁寧にありがとう」 


 喪服とベールでわからなかったが、女の声は案に相違して、若い声であった。十代の女であろう。


「いえ、まぎらわしい姿で誤解させてしまいましたが、私は怪物退治の参加者で、カリガルチュアと申します」

「ええっ!! すると、あなたが残り二名の賞金稼ぎですか……もう御一方は……亡くなられたのですか?」

「いえ、複雑な事情で休息中でして……コホン……そろそろ起こさないとね……」


 カリガルチュアと名乗ったベールの女は荷台に移動した。よく見れば八角形船型の棺桶ではなく、飾り戸棚につかうキャビネットだったのだ……葬儀馬車にキャビネットを乗せるというブラックジョークに一同は唖然として声が出ない。


 喪服の女が足元のペダルを踏むと、油圧式打重機ジャッキがキャビネットを70度に起こした。喪服の女は観音開きの蓋を両手で開く。中には墓場の闇より深い、青い闇が存在していた。


 箱の中にはシルクの布が敷き詰められ、その中心に青い服を着た男が横たわっていた。その男はベルトと鉄輪が過剰なまでについた、まるで拘束具を連想させるレザーコートを着ていた。そして、その顔を見た村長たちと武闘士たちは目を見張り、息を呑みこんだ。その男は青白い肌に、海碧コバルトブルーの髪が長く伸びて顔に海藻のように絡みついていた。その閉じた睫毛も海碧色だ。大陸広しといえど、こんな髪色の人間は存在しないはずだ。まるで民話の青髪鬼のような幻想の住人なのかもしれない。


 だが、それよりも村長や武闘士たちが刮目したのは、その青髪の二十代ほどの若者は白皙の額、整った鼻筋、引き締まった口元、それは数億年の天工の妙が創り出した美の結晶であった。


 荒くれの武闘士たちは、笑えないブラックジョークに対する怒りも、これからの怪物退治のことも忘れ果て、その青髪の若者を凝視し、頬が赤らむのを感じた。村長、助役、墓守たちも背景と化して硬直している。


「さあ、出番よ……レザーチェ……三百年の呪いから解放され……闇の国から目覚めるのよ……」


 圧倒的な美に無条件に礼賛する男たちを尻目に、黒いベールの女・カリガルチュアがキャビネットの青衣の男に呼びかける。すると、男の閉じた目蓋がピクリと動いた――


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