ガの三部作
(壱)
蛾は蛾で良いと謂われても
我は蝶に憧れて
蝶と成れぬ我などは
愛す可きとも思われず
唯此の首に掛ける両の手が
頸る事さえ能わずに
唯温かで在る事が
憎らしき、憎らしき
蛾は蛾で良いと謂われても
我は蝶が眩しくて
彼の美しき姿を見る度に
我が身の醜きを痛感す
幾ら望めど手に入らぬと
知りつつ足掻く悲しさよ
幾ら慰めの言葉を受けようと
諦め切れぬ愚かさに
辟易す、辟易す
蛾は蛾で良いと謂われても
我は蝶が羨ましい
数多の好意を集めるその色が
姿が全てが妬ましい
蛾は蛾で良いと謂われても
蛾は蛾で良いと謂われても
我は蝶に憧れて、憧れて
蛾は蛾で良いと謂われても
蛾は蛾で良いと謂われても
我は我を愛せずに
蛾は蛾で良いと謂われても
我は蝶に成りたくて
///
(弐)
優しい、優しい言の葉が
我の頭上に降り注ぐ
蛾は蛾の良さが有るのだと
我に優しく語り懸く
或る者は謂う
己を認める事が大事だと
或る者は謂う
己を愛する事が大事だと
然らば其の思いが他者を呼び
君を優しく包むだろう、と
而れども我は我が憎い
優しい、優しい言の葉が
我を慰めんと降り注ぐ
蛾は蛾の良さが有るのだと
其れに気付けと語り懸く
或る者は謂う
小さな事から始めよと
或る者は謂う
君の良さを見つけよと
然らば自ずと愛芽生え
己を優しく包むだろう、と
而れども我は知っている
蚕は蝶に成れぬ事
優しき慰みの言の葉が
真に優しき事は知っている
我に降り注ぐ言の葉が
有難き他者からの好意である事も
此の優しい、優しい幸せを
集めればきっと幸せに
成れるだろうと知っている
而れども蛾は蛾でしかない
蛾は蛾の良さが有るのだと
優しい言葉が降り注ぐ
而れども我は蛾でしかない
///
(参)
蛾には蛾の
蝶には蝶の美しさ
個の尊きは命に区別なく
我の身も
きっと命は尊かろう
蛾には蛾の
蝶には蝶の美しさ
個の尊きは命に卑賤なく
我の身も
きっと命は気高かろう
蛾には蛾の
蝶には蝶の美しさ
個の長短はそれぞれに
我の身も
きっと良い所が有るのだろう
然れど、然れど、我が身は蛾
蝶に想い焦がれる醜き蛾
個の尊さを知ろうとも
蛾は蛾で良いと謂われても
蝶には成れず失望す
蛾には蛾の
美しさが有ろうとも
此の妄執が我を焼く