序章
沙依と隆生は甘味処でお茶をしながら他愛もない話をしていた。
「シュンちゃんが最近以前にも増して愁也が鬱陶しいって言ってたんだけどさ。愁也はいったい何がしたいんだろ?」
そう言う沙依に隆生は面倒臭そうに、春李と付き合いたいんだろ?と言った。それを聞いた沙依が疑問符を浮かべる。
「昔からあれだけ自分のことは棚に上げてシュンちゃんのことチビだって馬鹿にしてからかってたのに?シュンちゃん、愁也のこと本当に嫌いだよ?シュンちゃんの話を聞く限りどんどん嫌われてってる一方だし、付き合えるわけがないじゃん。さすがにわたしでもあれは無理だって解るよ。」
「愁也のあれは好きな子についつい意地悪しちゃうってやつをこじらせた結果だろ。普通そんなのガキのうちに卒業すんのにあいつ成長しないからな。」
沙依の疑問に答えるように声がして、成得が二人の座っている席に着いた。
「お前も似たようなもんだろ。」
そう言う隆生に、俺をあれと一緒にしないでくれる、と成得が不機嫌そうに答えて、そのやりとりを見ていた沙依が首を傾げた。
「どうでもいいけどさ、今度引っ越しするから手伝ってよ。荷物は大してないけど、ずっと使ってなかった実家を住めるようにしなきゃいけないから、一人で掃除とかすんの大変なんだよ。無駄に広いし。」
そう言う成得に二人が了承し、作業をするために非番を合わせる算段をする。
「お前ようやく寄宿舎出るのか。住む場所がないからあそこにずっと居座ってたのかと思ってたけど、住む家があったんだな。」
そう言う隆生に成得は色々事情があったんだよと返し、品書きを見ながら沙依にお勧めを聞いて注文をした。
「お前、注文決めるときいつも沙依にきくよな。俺にはきかないのか?」
ニヤニヤしながらそう言ってくる隆生に成得は嫌そうな顔をした。
「お前の勧めるもんなんてくそ甘いもんしかないだろ。そんなもん俺食えないから。あと、その顔止めて。本当に腹が立つ。お前、甘いもんの食い過ぎで脳味噌溶けちまってんじゃないのか?」
そんな悪態をつく成得に沙依が、甘いもの食べ過ぎると脳味噌溶けるの?なんて本当に疑問そうに訊いてきて、成得は溜め息を吐いた。
「そういや、沙依は好きな奴となんか進展あったのか?」
ニヤニヤした顔のままそう訊いてきた隆生に沙依も、何もないけど、とりあえずその顔嫌だと言って顔を顰めた。
「結局、お前の好きな奴って誰なの?」
「隆生には絶対教えないって言ったじゃん。」
「じゃあ、どんな奴がお前好きなの?」
そう言われて沙依は固まった。
「どんな奴が好みかくらい教えてくれたっていいだろ?それで誰か解るわけでもあるまいし。なぁ?」
そう言って同意を求めてくる隆生に、成得は呆れたように本人が教えないつってんだから掘り下げるなよと言った。
「そんなこと言って、お前だって興味あるだろ?こいつガキの頃から男所帯で育って、あの第二部特殊部隊で男に混じって同じように訓練して、完全に女捨ててるような奴だぞ?普通に男共と雑魚寝とかできるような、ってか、裸見られようが男の裸見ようが平然としてるような色気も恥じらいも何もないこいつが、好きな奴できたとか言って普通に男のこと考えて頭悩ますとか・・・。」
そう言いながら途中で吹き出して声を立てて笑う隆生を沙依が睨み付けた。
「なんかすごくバカにされてる気がするんだけど。本当さ、本当、隆生ってさ。こうだから絶対に教えたくないんだよ。どうせわたしは色気もなにもないですよだ。どうせ女らしさのかけらもないけどさ、好きな人の一人ぐらいできたっていいじゃん。そんなに笑わなくったっていいじゃん。隆生のバカ。」
「本当、お前、女として終わってるもんな。家事も全部、高英にやらせてて全くできないみたいだし。そんなんじゃ恋人できてもすぐフラれんじゃないのか?ってか、引っ越しの手伝いだって、お前邪魔にしかならないんじゃないか?」
「うわっ、酷い。わたしだってちゃんと家事できるもん。そんなにダメじゃない。」
「そうか?くそまずい軍隊飯作るって噂のお前よか、俺の方が家事能力高そうだけどな。」
「だから、その噂間違いだから。ちゃんとわたし料理できるから。わたしにだってちゃんとおいしく料理作れるって信じてる。」
「信じてるってなんだよ。やっぱ、お前できないんじゃないのか?お前になら俺、料理の腕勝てる気がするわ。」
「なら、勝負しようよ。隆生とわたしで調理対決。」
「負けた方が一つ相手の言うこと聞くってことでどうよ?」
「のった。じゃあ、それで決まりね。」
そんな二人のやりとりを見ながら成得は溜め息を吐いた。
「お前ら本当仲いいな。」
その呆れたような成得の呟きを聞いて隆生が、お前もやるか?と笑いながら訊いてきて、俺はいいと成得は答えた。