第一章 マナリスでの異世界生活 2話
朝食が終わると、使った食器等はミューラが引き受けてくれるので、私はその間に各部屋のベッドメイクや洗濯物を回収する。
ただ、未だにシャナルとリゼルは私がやるのに抵抗があるらしく、そこだけはミューラさんが朝食前に集めているらしい。
洗濯場は屋敷の中庭の隅、水路が敷かれているので、そこの水を使う。
洗濯する時は、私の魔法練習時間でもある。
まず桶に洗濯を集めて、洗剤を入れておく。
ちなみに洗剤はマナリスで使われてるもので、自然に残らず環境に優しいものらしい。
水路から水を汲み上げるのだが、私はここで精霊魔法を使うのだ。
「ラ・ウィスラ・フューラ」
習いたての精霊魔法は、やっぱり半月じゃ慣れない。
最初は"ウィスラ"の発音を、"ウスラ"と言ってため、全く精霊が答えてくれなかった。
リゼルも異世界人相手に講師する際に、会話ができている為、発音は気にしてなかったのだ。
リゼルだけでなく、ザイアスとも話し合ってみたところ、その問題に行き当たった。
きっかけは、ザイアスの一言。
「日本人に日本語じゃないような喋り方があって、理解するまで時間がかかった。」と。
方言のことだろう、と私達は思い当たった際に、もしかしたら、私は発音間違いをしてるのでは?と解ったのだ。
それ以来、魔導レコーダーに精霊魔法の正しい発音集を吹き込んでもらい、慣れていく形になった。
ちなみに私達が住む地域には、標準語が当たり前だが一部の田舎に行くと、手がつけられないほど訛りまくった方言で話す地域があったりした。
発音が治り、見事に精霊魔法を唱えられたら、次は精霊との仲良し度上げに入る。
頻繁に呼んで仲良くする精霊もいれば、敬意を払い厳かに奉らないと気が済まない精霊もいる。
精霊も千差万別で、かなり複雑のようだ。
今のところ、仲良く出来ているのは、
「おはよう、ウィスラ。」
水の精霊ウィスラと風の精霊シルフィのみ。
目の前に現れたスライムのような水の塊が、徐々に形を形成、最後には小さな少女のような姿に変わった。
「(おはよう、アカネ。毎日洗濯ご苦労様。)」
私の耳元に囁くように響く水の流れる音が、脳内ではこういった会話に聞こえるのだ。
精霊と契約出来たものはこういう会話が出来るが、出来ない人達にはただの水の音にか聞こえないらしい。
ミューラがその一人で、私が洗濯する際に精霊と話してると不思議そうな顔をしていた。
「早速、練習を兼ねて始めていいかな?」
「(いいよ、今日は少ない方だね。)」
「うん、今日はミューラさんは自宅に帰るから自分でやる、って。その分ないかな?」
そう言いながら、私は水路の水を指差した。
次に水を持ち上げて、桶に入れるように手の仕草を変える。
すると水は独りでに動きだし、桶に流れ込む。
気分は指揮者で、水と洗濯と洗剤をかき混ぜるような仕草をして、動かしていくのだ。
洗濯場に小規模な水の竜巻が出来上がり、中にある洗濯物が洗われていくのだ。
この光景を最初に見たミューラは、腰を抜かしたなぁ。
何が起きたか説明するのが大変だったんだ。
キレイに汚れたが落ちたか確認したら、右手で何かを掴むように握り、左手で水の竜巻から水路へ水を戻す仕草をする。
すると、洗剤と汚れが混じった水だけが水路へ帰っていく。
残った洗濯物は、私が手を離すと静かに桶に戻るのだ。
これでまずすすぎや脱水が終わった状態だ。
「よし、ありがとう。ウィスラ。」
「(どういたしまして。またねー!)」
ウィスラがバイバイっと手を振ると、少女の水の像は水路に飛び込んでいなくなった。
後は、日本から持ち込んだ物干し台に洗濯物をかけていくだけ。
洗濯ばさみや、物干しハンガーに洗濯物をとめて、洗濯は完了する。