最終章 これが私が望んだ世界 3話
「パパ?パパ!返事して!」
ミズハの悲痛な声が聞こえて、私は慌ててミズハを抱き締める。
「向こうで戦ってたら、お返事できないよ。」
「違うよ!さっきまでちゃんと、何か喋ってたもん!」
私に泣きながらミズハは訴える。確かに私ですらアリスやオフェリアに話したりしてた。それすら一切聞こえてない。
「ミュートした?もしくは魔導インカムが壊れた?」
他に考えられないが、あえてやってる可能性がある。が、やはり悪い方を考えて行動した方がいい。
「ミズハ、パパは多分、喋れないからミュートにしたのよ。」
私がそういうが、やはりミズハは不安で呼び掛けを続けた。
「パパぁ。」
「-----アカネ。」
至近距離から聞こえて、一瞬魔導インカムを掴む。が、そこからでないとわかった瞬間、顔を見上げる。
そこに、カズトの姿が見えた。
「アカネ、待たせたね。」
カズトは笑っていた。その予想外な行動に私は固まった。
「--------。」
何かを喋ろうと思った直後、無意識に左手でミズハを庇おうとしたら、その左手は空振りした。
思わず、左手を見たら、そこにいるはずのミズハがいない。
「アカネ?」
笑うカズトにまた視線を向けた。私は呆然とした後、ハッとした。
「----------の、」
「ん?」
「私の旦那に化けてんじゃねぇぇぇ!!!!」
怒りがマグマのように沸きだし、一気に爆発するかのように、私はその身に感じるままに、右手にある短杖を背中から振り上げて、叩きつける。
笑ったままのカズトは、左手であっさり受け止めた。
「酷いな、アカネは。」
「キモイッ!そんな甘ったるい声出さねぇし!」
捕まれたまま、短杖に魔力をこめる。察したのか、慌てて左手を離して後退する。
「何より、」
そのまま短杖を向けて、聖光魔法を込め続ける。
「そんな笑い方しない!ほくろの位置がちがう!髪の流れが逆!肩幅と腕の長さが足りない!立った姿勢が曲がりすぎ!」
立て続けにダメ出しをしながら、聖光魔法を唱え続ける。
「……………………、えー。」
余程ダメ出しが聞いたか、不満げな顔つきになって呟く偽者。頬を掻きながら、
「そんなに似てないの?」
と思わず私に問いかける。
「あぁ?」
私は怒りが収まらないまま、睨み付けた。
「聞きたいの?悪いけど、正面見ただけで、あと10個あるだけどぉ?」
背後に般若のオーラが出てるかもしれないほど、私は殺気も怒りもマックス状態で、ゆらりと近づいた。偽者はあっ、と察して後ずさる。
「あ、あー、あの。」
「左手のほくろもないねぇ、右手の中指が長いなぁ?手首の骨も出すぎじゃないですかぁ。」
ゆらりゆらりと近づきながら、次々とダメ出しをする。それにようやく生命の危機を感じてくれたのか、偽者はアワアワして後ずさり続ける。
「最大のダメ出ししてやるよ。」
私は見下しながら、短杖を振り上げた。
「匂い自体がちげぇんだよぉぉぉぉぉ!!!!」
周囲がしぃーんと静まり返っていた。
この場の全員がどうやら幻覚を見せられて、ハッと現実を視認できたのだろう。
私は振り下ろした先を睨んだままでいる。
そこにはブルブルと震えながら、私を凝視して怯えている尻尾が9つある狐だった。
私と狐を見た他の全員は、ざっと身構えた。豊穣の女神がミズハを抱き締めてくれてるらしく、お礼をいっている声が聞こえた。
「良い度胸だよなぁ?きつねごときがぁ。」
ちなみに怒りはまだ収まっていない。むしろ、発散するにはまだまだ足りないほど、未だに沸き続けているのだ。
「見抜けない自信でもあったかぁ?なら、とんでもないバカかアホだな、獣ごときがぁ。」
「ヒッ。」
狐は逃げたいようだが、もうそこには大きな岩があり、背後にスペースはない。
「アカネ?」
オフェリアの声が聞こえたが、今はそっちに答える聞こえた気がない。
「他は上手く騙せたから、自信ついちゃったぁ?だとしても甘すぎるだろぉ?」
じゃり、と地面を踏み締めながら、ジリジリと狐を追い詰める。
「あ、あ、ご、ごめ。」
「ハァ?今更だ、無理だ。絶対に許さない。このタイミング、だってのが怒りのポイント爆上げなんだがぁ?」
狐の前足に短杖を向けて、火の精霊魔法を唱えて、わざわざ見せつける。
「アカネ、その辺に。」
豊穣の女神が困って声をかけたが、怒りが収まらない今は聞けない。
「良かったねぇ?周りは優しいから、幻覚位で怒らないなんて。」
「あ、ああああ、ありが。」
「私が許すと思ったかぁ?」
「うあああああごめんなざいいいいいい!!!!」
狐は心が折れたか、ぶわあっと泣き叫びだす。直後、背後からばふっと私を抱き締める感触。
「ママぁ、やめてあげて。」
「ミズハ?」
やはり抱きついたのはミズハで、振り返って極力笑顔で話しかける。
「この狐さんはね、ママが一番許さないことをしたんだよ?ママ、ちょっと無理かなぁ?」
「謝ったよ!狐さん!」
ミズハが必死にフォローしてくれてるので、狐も泣きながら謝罪を続ける。うるさいので、短杖で狐の頭をゴツっと殴る。
「ミズハは何もされてない?」
「うん、女神さんが守ってくれた。」
「女神様、ありがとうございます。」
淡白に礼を言う私に、ドン引き状態の豊穣の女神は、い、いいのよ?と返す。
「おい、狐。」
「はいぃ!?」
ゆらりと狐に向き直ると、狐はビクッと姿勢をただす。
「今すぐ死ぬ程の拷問を受けてから、毛皮を生きたまま剥がされて、マナリス中引きずり回されてるか、私に一生奉公するか選べ。」
「全力でお仕えします!!!!」
この後、あまりの私の怖さにミズハが泣き出したので、狐にあやさせて、ようやく溜飲は収まった。
なお、事態が動くまでこの場の全員が、私にしばらく話しかけてこなかった。
カズト「(トゥンク。)」
ザイアス「いや、アカネさん、怖いです。」
愛され過ぎて幸せだな。




