序章 今に至るまでの物語 6話
長々と語ったけど、マナリスに来てからも大変だったんだ。
現在の私達が住んでいるのは、エレナス公国内にあるジェルドという町だ。
エレナス公国魔導師協会の本部があり、そこそこ大きめの町になる。
日本でいう所の、横浜かな?
公国内での重要な組織やその関連施設があり、市場や学校、公国認定の資料館まである。
ジェルドの、ある意味高級住宅地の一角に、私達の住まいが用意されていた。
最初は3人家族にしてはかなり広い豪邸が用意された上に、メイドや執事まで付けられるかもしれない状況だった為、ザイアスにグレードを下げてもらい、今の住まいにしたのだ。
それでも、贅沢な住まいに私達は嬉しかった。
まず、外観は洋風のお屋敷で、門が高く塀もあり、玄関までちょっと歩く。
左手には中庭に通じる道があり、花壇がキレイに手入れされていた。
玄関ドアは重厚な作りで、ミズハ一人では恐らく開けられないだろう。
しかし、引っ越し荷物を運びいれる際に、住人登録をしたため、私達一家が命じるとドアがひとりでに開く仕組みになっている。
玄関ホールは広く、ちゃんと靴箱もあった。
マナリスの文化はかなり日本に近かった。
戸惑いなく生活が送れるのも、それがあるからだろう。
部屋数もかなりあったため、2部屋はカズトの趣味部屋と化している。
夫婦の寝室もあり、中には子供部屋らしき部屋もあった。
ザイアスに聞けば、ここには以前貴族の一家が使っていたそうだ。
その貴族はエレナス公国中央都市に引っ越した為、空き家だったところ、私達がもらったというわけだった。
持ち込んだ荷物はほとんど衣服や本が多く、一部日本で使ってた便利グッズも含めて生活用品等を合わせても、大した量でなかった為、屋敷内に空き部屋がいくつか出来た。
そこに、メイドや庭師、魔導師協会から私達の家庭教師として1名、合計3名が一緒に住むことになった。
移住してから半月。
私達は、毎日が目まぐるしい忙しさと異世界にいる実感と共に過ごしていた。
まず最初は文字の勉強だった。
会話は日本語が通じたが、言語類は全く別だった。
漢字やひらがな、カタカナは意味をなさなかった。
マナリスには共通言語の他に、魔法だけで使う魔導言語があり、私達はその両方を覚えなくてはならなかった。
言語と平行して覚えたのは、マナリスの歴史や一般常識、マナー等だ。
エレナス公国では7歳で初等学校へ、10歳で中等学校へ、15歳で成人だという。
その為、7歳のミズハが初等学校に通うには、7歳までに両親から教わる常識やマナー等を覚えなくてはならなかった。
そこまでは家族3人、仲良く勉強した。
家庭教師のリゼルは、異世界人である私達に分かりやすく説明してくれた。
日本の文化と比較したり、マナリス独特の文化を話したり、時には実践練習と称して、一緒に出掛けたりした。
今では私のもう一人の兄のように思える位には仲良くなったとおもう。
メイドのミューラは、メイドというよりはお手伝いさんが近かった。
亡くなった姑たちに近い年齢だったのもあり、近所のおばちゃんのような関係だった。
家事を私と折半で行っている。
これはカズトの要望もあった、食事の部分は譲れないことがあった為だ。
それでも嫌な顔せずに、むしろお節介に磨きがかかり、ミューラはマナリスでの私達の義母だ。
庭師のシャナルは寡黙な青年だったが、ある日カズトの見ていた本が気になったらしく、本を貸してもらって以降、カズトの唯一の本友になった。
元々、資料館で働いていたこともあり、文学にはかなりうるさい面があったらしい。
たまに、二人が庭で本を山積みにし、語り合ってるのを見かけていた。