第七章 辿り着く真実の先に 6話
カズトの家は、複雑な事情を抱えていた。
嫁ぐと決まった際に、義母さんたちからかなり念を押されて聞かされた。
先程の話に出た大叔母さんを本家の当主とする、神森神社に関わる一族は、辿れば鎌倉時代に遡るらしい。
神が下界する際に足を踏み入れる最初の地、と言われる神代山。それを守護し、奉ることを主とする神森神社。
代々神主となる本家の当主は、神森一族においては絶対的権力を持っている、なんて教わった。
無論、教わったのは義母さんたちからだけでなく、町内の歴史に詳しい人だったり、地理の勉強を教えてくれた先生たちにも、だ。
そんな歴史に名高い一族から、義父さんは嫌気が差して、分家に下ったのだと聞いた。
詳しく話してくれなかったが、借金返済の話の際にあの大叔父が傲慢な態度で聞かせてくれたのだが、「当主の恩赦だ。」と言うその内容は、まぁ、今回は関係ないので省略する。
とにかく、義父さんは義母さんと結婚した後も、粘着してくる大叔父をあしらいながら、生活していたそうだ。
カズトもそんな事情を知ってて、義父さん達同様に毛嫌いしているというわけだ。
もっとも、借金返済の話でさらに悪化したのは言うまでもない。
神代町に着いた時には昼過ぎで、私達はベンツの中に用意されていた、地元で有名なヒレカツサンドを昼食に食べることに。コレに喜んだのはザイアスで、一切れしか食べなかった私達の分を全部食べきった。
よほど気に入ったのか、帰りに買えますかね、と念写したメモを見せてきて、私は吹き出すのを我慢するのに必死だった。
神代町随一のパワースポットとしても有名な神森神社は、かなりの賑わいだった。平日の昼過ぎでも観光客は絶えず押し寄せている。そんな表の賑わいを横目に過ぎて、私達を乗せたベンツは、神森神社の裏側、親族しか知らない裏道に止まった。
運転手が再びドアをあけて、下りるように促す。私達をそのあとに続いて下りる。
「案内はここまでだ、後はわかるな?」
助手席から窓を開けて話す大叔父は視線を合わさずに、さっさと窓を閉めた。運転手に合図をすると、運転手は車を発進させて去っていった。
ようやく嫌みクソジジイ、もとい大叔父から解放されて安堵の息を吐きたいところだったが、
「ここは、神域ですか?」
ザイアスが圧倒されているのは無理もない、私達はおそらくその数倍の言い難い気配に顔をしかめてた。
「いるな。」
カズトはしかめた顔のまま、歩き出した。その後に続いて私とザイアスは歩く。
道は山道の中に取り残されたような、古びた石畳や階段を上がったり、舗装されてない道だ。
ザイアスは警戒しつつも、日本の原風景に少し興味深げに見回してる。
「日本の精霊は、人見知りなんですかね。」
先程から木々の間から、少女のような姿の精霊達がチラチラとこちらを伺っている。ザイアスが気になるが、近づけずにいるようだ。
「まぁ、どうしていいかわからないのかもね。」
「違う。」
私の会話に割り込むようにカズトが否定する。
「手を出すな、と言われてるんだよ。」
「えっ、誰に?」
カズトはそれ以上言わず、先導していた道は神社の社殿にたどり着いた。社殿は一般には非公開で、神社の奥の方にあるせいか、観光客の声が遠くの方から聞こえてくる。
「待っていましたよ。」
私達を迎えてくれたその姿は、これで4度目になる大叔母、神森神社の神主だ。
「カスミ叔母さん。」
カズトは今さっきの嫌そうな顔から一変、かすかに微笑みを浮かべて歩み寄った。私も笑みを浮かべて、ザイアスと共に近づく。
「カズト、アカネちゃん。久しぶりね。」
私達がカスミさんにこんなに友好的に接するのを見て、ザイアスは敵意を引っ込めてくれた。それに気づいたのか、カスミさんは苦笑いをする。
「ごめんなさいね、えるふさん。あのバカ亭主が失礼なことしなかったかしら?」
カスミさんから出たエルフという言葉に、ザイアスは少し驚いた顔に変わる。
「ああ、いえ。」
「末席の嫁風情が、と言われたよ。」
ザイアスが遠慮がちに答えたので、私は早速嫌みクソジジイに言われた言葉を伝えた。カスミさんはまぁ、と口許をおさえてしかめっ面をする。
「私の可愛い孫娘に、ヒドイわね!叔母さんがビシッと言っといてあげるわ!」
その言葉が聞けて、私達は笑みをこぼす。この人は私達にだけはこうして優しい叔母さんなのだ。
「さぁさ、社殿にいらっしゃい。えるふさんもご一緒に。用意したヒレカツサンドはどうでしたか?」
久しぶりに会う孫たちにはしゃぐカスミさんは、ザイアスにも気遣いを忘れない。あのヒレカツサンドはカスミさんが用意したものだったのか。
「とても美味しかったです。後でかまいませんので、どこの店の物か、教えて頂きたいものです。」
「あらあら、気に入ってくれたの?うふふ、勿論よ!」
気さくに優しく笑うカスミさんは、年齢よりも若く見える。軽く80歳には差し掛かるはずなのだが、白髪はまだキレイに整えられているし、身なりは神事用の神主の服装だが、身に付けている指輪は品のよいものだ。
そんなカスミさんに案内され、私達は厳かな雰囲気の社殿に入った。




