序章 今に至るまでの物語 5話
魔導師協会は、このまま魔導師が滅ぶのを恐れて対策に乗り出した。
まだ性交渉が可能な若い魔導師に、積極的に子孫を残させようと、策を講じた。
しかし、待っていたのは、
「生まれた子供は全て、素質がなかったのです。」
「ちなみに、普通だったら、生まれるの?」
「はい、両親共に魔導師だった場合、かなりの確率で。」
ザイアスは再び水を飲み、書類を広げた。
「この9年間、魔導師達が努力は全て、意味をなさなかったのです。」
だが、そんな中で、とある可能性を見つけた。
マナリス内で生まれないなら、異世界なら、ありえるのでは?と。
「魔法が存在しない日本で、素質があるものがはたしているのか、本当に不安でした。」
しかも、この提案は本当に奇跡に近い確率ではないか、とされた。
魔導師協会は藁をもすがる思いで、日本政府に交渉をした。
「日本政府からの回答はかなり時間がかかりましたが、許可をもらえました。」
日本政府もまさか、という部分があったようだが、そもそも魔法がないだから、ありえないだろうと、承認したんだろう。
だが、
「私達の検査により、素質を持っている数がかなり発見したのです。」
奇跡が起きた。
それからは魔導師協会と日本政府の壮絶な交渉が続いたそうだ。
「まぁ、何せ、異世界に移住させるわけですからね。色々な事情があります。」
ザイアスは目が笑ってない顔つきになり、私は少し引いた。
「さて、ようやく本題と参りますか。」
その言葉で、私達は気持ちを引き締める。ザイアスは私達にあの言葉を投げ掛ける。
「借金を肩代わりしますので、私達の世界に移住して頂きたい。」
で、どうしたかって?
決まってる。じゃなきゃ、物語は始まらない。
私達はザイアスと話し合いを重ねて、同意した。
様々な制約、守秘義務もあるが、私達には余りあるリターンがあった。
詳しくは語れない。守秘義務だから。
その後の展開は早かった。
まず、借金の方だが、ザイアスが自ら私達と回り、色々な条件で完済としたのだ。
まぁ、ぶっちゃけると一部のヤのつく方々は、二度と同じ職にはつけないレベルなこともあった。
というか、あの金額になっていた主な原因は、この人達だった。
次に、日本政府の担当者と面会、交渉を繰り返して、移住手続きをした。
戸籍やら住居等の資産やら諸々の話し合いが、一番長かったかな。
ちなみにその間の生活費等は全てザイアスが持ってくれた。
正確には、魔導師協会が、だが。
最後には、マナリスに引っ越すための準備だ。
これもかなり大変だった。
何せ、マナリスには電気やガスがなく、全て魔力をエネルギーとしていて、家電は全滅だった。
無論、電波やネット回線も無いため、パソコンやスマホ等もダメだった。
幸いだったのは、似たような家電的なものが、マナリスにはあったこと。
郵便はオッケーで手紙は出せることだった。
書籍は移住先にも持っていけるとのことで、書庫を構えるほどの、本好きのカズトは大喜びで段ボールに積めてた。
電池が必要なオモチャも一応は持っていく予定だったミズハは、それよりも
「あっちの世界のオモチャ、探すんだ!」
とポジティブ思考な娘に、私達はかなり救われた。
そして、引っ越し作業を見ていた近所、小学校の担任、同級生達の両親には、
「異世界に引っ越します。」と菓子折りをもって、今までの迷惑を謝罪した。
最初はこちらの頭を疑われたが、一緒に挨拶回りに来てくれたザイアスを含む魔導師協会の人達の顔を見て、納得したようだった。
カズトの親戚にも、挨拶回りをするつもりだったが、カズトが拒否した。
「あいつらはいいよ、どうでもいい。」
吐き捨てるように言った為、私とザイアスは素直にそれを受け入れた。
最後に、私の両親と兄夫婦のところへ。
移住おめでとうパーティーを開き、ザイアスたち魔導師協会と、親戚を集めてお祝いしてくれたのだ。
これは、両親が移住プランに応募してくれなかったら、起きなかった奇跡だから、私達はそれこそ咽び泣いて感謝した。
一生、両親には頭が上がらないだろう。
そして、その数日後。
私達一家は、異世界に移住した。