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第六章 日本へ里帰り 6話

夕飯が始まる頃に、カズトが帰ると同時にザイアスも到着した。玄関で話す声が聞こえて、出迎えにいけば、二人揃っていた。

「おかえり、二人とも。」

「ただいま。」

「ああ、お邪魔します。皆さんお揃いでしたか?」

靴を脱ぎ、薄手のコートを脱ぐザイアス。コートを受け取って、ハンガーにかけて近くのコートスタンドに置く。ザイアスは先に中へ入り、母さん達に挨拶をしていた。特に父さんは酒の強いザイアスが好きなので、今夜はうまいウィスキーがあるんだ、と笑い声までしていた。

茶の間に行くと、ザイアスも土産として酒を渡したようで、父さんが嬉しそうだった。オフェリアもすっかり母さんと話し込んで仲良さそうだった。

ふいに私は頬に何かを感じて、手で拭き取った。それを見られたのか、カズトが近づいて抱きしめてくれた。

「嬉しいんだな。」

私の心の中は基本的にカズトにはバレバレなので、うん、と小さく答えた。

「そりゃそうだよな、つい一年前はこんな幸せ感じることなかったもんな。」

目の前にある幸せな風景が飛び込んで、私は思わず辛かったあの記憶が嘘だったと信じたくなって泣いた。

「アカネさん?」

「アカネ、大丈夫か?」

あの当時、こんな風に声をかけてくることすら思わなかったザイアスとオフェリアが声をかけてくる。

「感極まったんだって。」

カズトが代わりに答える。私達の実情を知っているザイアスは、そうですか、と笑顔で私を見る。

「よほど大変だったんですね、お二人共。」

「(ママ、なかないで。)」

リリィたちと遊んでいたアメリまで近づき、足から肩までスルスルと上ると、肩に来た時には私の頬にキスをして慰めてくれた。ミズハもつられて来て、ぎゅっとしがみついた。

「ありがとう。でも、大丈夫。嬉しくて泣いちゃったんだよ。」

「(嬉しくても、泣くの?)」

アメリが首をかしげて聞く。私は撫でながらうなずく。

「そう、怒って泣くこともある。心は難しいね。」

「(大変だね、ママ。)」

ミズハの頭も撫でながら、私はくすっと笑って見せる。何だが、幸せすぎてまた泣きそうになる。

「あなたもいつかは感情を覚えて、同じ気持ちになるよ。」

「(うん、がんばる。)」

アメリがうなずくと、腕を伝ってミズハの頭に着地する。ミズハは嬉しくて、アメリを乗せたまま遊び始めた。

「アカネ。」

皆離れた頃に母さんが声をかける。手には緑茶があった。一口いただきながら、母さんを見つめる。

「辛かったものね、あの時は。」

「うん、母さん達がいなかったら、ザイアス達に出会えてないからね。すっごく感謝してる。」

いつまで言うのよ、と満更でもない笑顔で答える母さん。

「頑張りなさい。これからでしょう?」

「そう、だね。」

呟くながら、ザイアスを見る。すでに父さんのお酒の付き合いが始まった模様で、こちらを気にもとめてないようだ。




夕飯が賑やかに始まり、炊き込みご飯にご満悦なザイアスや刺身を声をあげて楽しむオフェリアを背後に、私達夫婦はお酒を持って玄関の隣の部屋に移動した。

夫婦二人っきりに、話がしたかったからだ。

「墓参りはどうだった?」

秋風に吹かれ少し肌寒い気温が、お酒の入った私達にはちょうどいいくらいだ。

「叔父さんは元気だった。」

カズトの両親の墓を見てくれている、カズトの親族の中で私達の唯一の理解者、マサツグ叔父さんの話から始まった。

借金の話が出た時に何とかしようと助けてくれていたが、やはり額が額だけに手が出せなかった、と引っ越し挨拶の際に涙ながらに語った叔父さんに、墓を守ってもらうように頼んでいた。

「土産は渡せた?」

「ああ、仏壇もキレイにしてくれてたし、墓もきちんとされてた。」

カズトは叔父さんとは付き合いがなく、あまり話さなかったとは言うが、叔父さんは常に気にしていたそうで、私にメールやマナリスから手紙のやりとりはしていた。

「一応、代わりに墓を守ってくれてるから、一応いくらかお金とか渡したけど、突っ返された。」

「はは、カッコいいな。」

手紙のやりとりの中でお礼をしたいと伝えたが、困ったらでいいの一点張りだった叔父さん。やはり、カズトにもそうだったようだ。

「他の人には会わなかったの?」

「ああ、来たのには気づいてたみたいだけど、出てくる気配はなかったな。」

叔父さんの家やカズトの生家は、周りがほぼ親族の家が密集するのだが、やはり今更顔を出すにも出せないだろうな。

「顔を見なくて助かった。見たら端から魔法かけるだろうし。」

カズトは笑いながらお酒を飲むが、そばでその光景を見たら、多分全力で止めないと大変なことになったろうな。寒気を感じて身震いする私。

「後は。」

私は一旦言葉を切り、チラッと背後を確認する。ザイアス達は盛り上がってるようで、来る気配はなかった。

「見えた?」

私がそう切り出すと、カズトはああ、と呟いた。

「かなり明るくて太い線だったな。」

「そっか。」

このやり取りはジェルドの森での瘴気の一件を詳しくザイアスに話した後、私はカズトともより深く議論したことだった。

「これ、魔脈なんだね。」

窓辺に座り、見下ろした先にあるのは、今朝来たときに見つけたあの"線"だった。

私がマナリスの"扉"で見たあの線、ジェルドの森でも見かけていた。森ではエルフ達の魔法か何かだと思っていた。が、ザイアスの反応を見る限り、もっと重要そうだった。

ただ、ザイアスは何も言わなかった為、不安になってカズトに相談していたのだ。

話し合った結論は、"私達には魔脈が見えて、瘴気を祓うことができる。"ということだった。ただ、確証がないから、私達は黙っていることにした。

先程確認した"見えた?"は、魔脈がカズトの生家側にもあったかを聞いたのだ。

「これ、ずっとあったのかな。」

「わからんが、関わってそうだな。」

リゼルの講義内容を思い出す。マナリスでは魔脈に近い人ほど魔導師の素質が高くなるという。もし、私達が魔導師になれたのがこの日本にある魔脈だったら?と仮定して、私達は話し合ったが、

「勝手に決めつけるのもな。」

カズトは結論を避けた。確証がないなら、言う必要はないだろう。だから、私達は黙っていることにしたのだ。

「いずれ調査すれば、分かることだ。」

カズトは缶に入った残りの酒を飲み干すと、立ち上がった。私もつられて飲み干す。

「さ、戻るか。」

立ち去ったカズトの背を見た後、私は再度、あの線を見る。

キラキラと光るその線が、何かあるのだけしか分からないだけに、私は何かを感じていた。

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