第六章 日本へ里帰り 5話
オフェリアと一緒の神代町観光案内は神社で参拝し、有名なそば店でざるそばを食べ、たまたまやっていた折り紙体験をし、今は喫茶店で抹茶パフェを堪能している。
「マッチャ、というのはいいな!」
しっかりと完食し満足な顔つきのオフェリアに、母さんが嬉しそうな顔で笑っている。
「たくさん食べてるけど、夕飯大丈夫かしら?」
母さんがオフェリアのお腹具合を心配しているが、私は大丈夫だよと伝える。今日の夕飯は炊き込みご飯と確定しているので、たくさん用意するつもりなんだろう。だからこその心配だった。
「問題ないぞ、ユリコ殿。まだまだいけるぞ。」
初めてづくしで興奮してるからか、オフェリアは力こぶを作って見せる。見た目からは想像できないが、剣を持たせたら騎士並に強い腕前のため、見せた力こぶは立派なものだ。
「あら、すごいわね。アカネに稽古つけてあげて、運動不足なのよ。」
「ちょっ!母さん!余計なこと言わないで!」
「それは私も思ったぞ、アカネ。いい機会だから私と朝練しようではないか。」
運動嫌いな私には聞きたくもない単語が飛び交い、アーアーと誤魔化すと笑いが溢れた。
「さて、夕飯の材料を買っていきましょう。オフェリア、お酒は?」
この短時間で二人は仲良くなったのか、もう呼び 捨てしていた。オフェリアはんん、と顔をしかめた。
「付き合い程度で飲むしかないからな。」
「じゃ、アカネ達がよく飲む、缶チューハイでいいわね。」
聞きなれない単語にオフェリアは気になったようで、私からシュワシュワする果実酒だ、と答えた。
「タンサンというやつだな!楽しみだ!」
「ついでにオフェリアに、日本の普段着をかってあげたいな。」
と私が提案したところで、近くにある神代町で一番広いショッピングモールに行くことになった。
ショッピングモールと言うのはホントに便利だった。土産物屋もあるし、おしゃれな洋服から雑貨まで、何から何まであるから。
当然、オフェリアは大興奮な訳で。
「アカネー!この道具は何だ?」
楽しそうに100均コーナーのキッチン道具を触っているオフェリア、手元には簡単にポテチが作れるアレだ。
「これをこうするとジャガイモが、ああ、マナリスだとダートね、が簡単におやつになるのよ。」
「なぬ!うまいのか?」
今度一緒にやろうか?と言いながら、私は買い物かごにそれを入れた。オフェリアがアカネ達の家に行きたいな!と嬉しそうな顔になった。
100均に来たのはミューラからのリクエストで、便利なキッチングッズや生活雑貨を頼まれたからだ。持ち込んだ料理本にも紹介されてたからだろう。
「よし、これでいいかな。」
頼まれたものを含む、計20点が買い物かご一杯に入ってる。お会計を済ませて、大荷物になったのでモール専用カートに乗せる。
「ユリコ殿は終わったかな?」
夕飯の買い出しに行った母さんを探そうと歩き出した時だった。
「万引きだ!」
男性が大声で叫ぶ声に振り返ると、こちらに向かって身なりのあまりよろしくない男性が向かってきていた。私は咄嗟にオフェリアをかばいながら、上着に隠してあった短杖を構えようとしたが、それよりも先にオフェリアが動いた。
「どけっ!」
犯人の威圧をもろともせずに、オフェリアはそれを上回る殺気を放ちながら、対峙する。
「オフェリア!」
声をかけたが遅く、犯人はオフェリアを突き飛ばそうと手を伸ばした。オフェリアはその腕を掴み、滑り込むように体を屈め、見事な一本背負いで、犯人が床に叩きつけられた。
「がっ!」
衝撃もだが、まさか少女にやられたともなれば、犯人もショックがでかいのか、床にうずくまり呻くしかない。私は上着に手をいれたまま短杖に触れ、こっそり死霊魔法を使って犯人の身動きできないように、捕縛する魔法を唱える。効果が出たのか、犯人がもがこうとしているが、傍目から見たらただ先程の衝撃で動けないように見えるだろう。
すぐさま、声をあげた男性が近づき、状況を確認した後、
「ありがとうございます、あ、えっとセンキュー!」
オフェリアの見た目から外国人に見えたようで慌てて英語を使ったようだが、私がなにか言うまでにオフェリアが笑顔で返す。
「悪者を退治するのは当然の役目だ、気にするな。」
「は、はぁ。」
「ああ、すみません。この人いつもこうなので気にしないで下さい。」
聞きようによっては中二病患者だが、オフェリアは至って真面目に言ってるのでフォローしにくい。案の定、お気に召さなかったオフェリアがムッとしている。私はこっそりと耳元で、
「今回はお忍びなんだから、高位貴族とかは抜きでって言ったじゃんか。」
と伝えると、オフェリアは思い出して気まずい顔になった。男性が警備員を呼んだのか、何人かの警備員が駆け寄ってきたところで、私は再びこっそりと魔法を解除しといた。犯人はもうぐったりした状態のため、抵抗することなく警備員に引っ張られていった。
「ご協力感謝いたします!」
警備員が帽子をとり、一礼する。オフェリアはああ、と曖昧な笑顔で返すのをみて、警備員は立ち去っていった。
「オフェリアが手を出さなくても、私が何とかしたのに。」
やっと周りが落ち着いた頃に私がそういうと、オフェリアが照れ臭そうに呟いた。
「すまん、アカネに危害がおよぶかもしれんと思ったら、咄嗟に動いてしまった。お忍びだったのにな。」
怒られるか?と私を見るので、私は笑みを浮かべつつ首を横に振る。
「助かったよ、本当にありがとう。」
「アカネは私の大事な親友だ、当然だ。」
ニヤリと笑うオフェリアに、私は嬉しくて何度も礼を言った。
そのあと、母さん達と合流し、たくさんの荷物を持って帰宅する。
夕飯の支度を始める母さんを手伝いながら、マナリスの生活について話す。カウンターキッチンの為、食卓には父さんやカズト、オフェリアも混ざって、楽しい会話が続く。
「もう魔導師の仕事を始めたんだな。」
私がジェルドの森の話をした後、父さんが感慨深げに呟いた。
「軽くだけどね。森の一件がデカいだけで、後は地味だよ?」
私が皮むきをしながらそう答えると、やはり心配なのか、外へ出歩くのを控えるべきだな、と告げる父さん。
「無理だよ、父さん。私達はそれを承知で移住したんだから。」
「そうだけどなぁ。」
チラッとミズハを見た父さん、やはり一番の心配はそっちですか。
「私達は魔導師として移住したけど、ミズハはまだなるかどうかは解らないならね。あまり街から出ない職に就く可能性もあるし。」
「俺もどちらかといえば、技巧魔法がメインだから、錬金術師という方があってますから。」
夫婦でそう話すと、ムッと呟いてコーヒーを飲んだ父さん。
「安心してくれ、ミツル殿。アカネ達は私がきちんと守るからな!」
オフェリアが胸を張ってそう言うと、父さんは苦笑いしていたが、
「なら安心だ。オフェリア、娘達をよろしく。」
しっかりと目を見てそう言った。言われた本人はうなずきながら、たくあんをボリボリ噛み砕いている。
「んまいっ、日本にはうまいものがたくさんあるんだな。」
緑茶をすすってさらにご満悦のオフェリア。そんな様子を楽しげに父さんは見ていた。
「マナリスでは何が一番美味しいんだ?」
父さんがオフェリアにそう問いかけると、んーっと悩んだ末にオフェリアはアレだな、と言った。
「馬牛だな!あれを炭火で焼くとうまいんだ!」
「よかったね、オフェリア。明日の夕飯はその馬牛を使ったすき焼きだから。」
おお!と嬉しそうな声をあげて、立ち上がってキッチンを覗くも、今日は炊き込みご飯にお刺身、そしてお祝い事に作る実家特有の味噌汁の為、馬牛の気配はない。
「だから、明日だって。」
「その皿に乗ってるのが、さっき言っていた刺身、なんだな。」
マナリスには川魚や魚介を食べる習慣があるが、生魚を食べる習慣はない。王族もそれは例外ではなかったようだ。
「日本の魚は、きちんと衛生管理がされてるから、オフェリアにも大丈夫だとおもう。」
「さっき義父さんが捌いてる横で、滅菌しといたから大丈夫。」
カズトがさりげなく父さんとキッチンにいると思ったら、それだったのか。隣にいる父さんもビックリしている。
「というか、アカネ達、魔法を使って大丈夫なのか?」
普段マナリスで魔法を使っている私達が、日本にいるので父さんは心配したようだ。
「不思議なことに魔力が補充されてるんだよ。きちんと魔法は発動するし。ザイアスも最初来たときに驚いたっていってたね。」
里帰りするに当たって、一応派手な魔法は禁止されているが、緊急時や目立たなければ大丈夫、と許可をもらっている。その際に聞いた話だった。
「じゃ、日本にいても魔法を覚えてたら、出来るの?」
夕飯の支度を終えた母さんが、私に問いかける。私はんー、と唸って見せた。
「かもしれないね。その辺はきっと"扉"に関係するかもね。」
私は今朝通ってきたあの"扉"を思い浮かべる。
「それを調べるのが、俺らの今のところの目標だな。」
カズトがよっと立ち上がると、スーツケースに目をやる。
「ちょっと外に出掛けてくる。」
「ああ、いってらっしゃい。すぐ戻るでしょ?」
何の用事か知ってる私は、手を洗いながら見送りの準備に入る。カズトがスーツケースから、いくつかの物を取り出して、ショルダーバッグに仕舞う。オフェリアが興味ありげに見るが、今は気づかないふりをする。
「ああ、いってくる。」
「気をつけて。」
玄関まで見送りキスをして手を振ると、カズトは玄関から出ていった。オフェリアが顔を出して、玄関を見つめる。
「カズトは何処いったんだ?」
「ん?あー、あっちの両親に会いに、ね。」
そこまで言うと、オフェリアがあっと呟いて黙りこむ。以前のお茶会で話したことを覚えていたようだ。
「なら、ついてはいけないな。」
「私もいくべきとは思うけど、今回はいい、って言われたの。」
カズトは墓参りにいけば、きっと向こうの親族に会うだろうし、またあんな仕打ちを受ける可能性があるから、一人で行ったのだ。
「親族はクソでも、両親は別だから。」
まだ借金を背負った時にカズトが言った台詞だ。こんな状況になるとは思いもよらない時期だったな。
「ん、では戻ってくるまで、ミズハと遊ぶかな。」
オフェリアがリリィと遊ぶミズハの元に行った後、私は再び玄関を見る。
何事もなきゃいいけど、そうならない気がしていたからだ。




