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第六章 日本へ里帰り 3話

出発当日の朝、玄関前は荷物や人で賑やかになっていた。

日本へ帰省すると話していたので、近所やミズハの友達が集まっていたのだ。

荷物は私達が運べる分は自分でするとして、オフェリアの荷物をどうするかだが、ライガが途中まで持っていくと申し出てくれたのだ。

「せっかくだから、"扉"を見学したい。」

と、どちらかといえば見学目的だった。

「ミズハ、気を付けろよ。」

クロトと挨拶した少年はミズハに笑って話している姿に、私とオフェリアはこそこそ話になる。

「あれ、彼氏だな。」

「なかなかの美形だな、将来有望だぞ。」

女子特有の恋バナが咲いたところで、ザイアスの合図で出発することとなった。

「いってきまーす!」

ミズハの元気な声が響き、全員がザイアスの魔法範囲内に入る。ザイアスが杖を振るいながら、詠唱すると、瞬く間に回りの風景が変わる。

転移魔法により、私達全員は"扉"がある王都の近くにあるエレナス高原に到着した。

ライガがオフェリアに荷物を渡したりしている間に、私とカズトはザイアスから転移魔法に必要なポイント登録をする。

転移する位置にザイアスから受け取った魔石から出来た杭を打ち込み、魔力を通して登録をする。実際にやってみると、案外簡単に登録できた。

「なるほど。」

カズトも問題なく済んだようで、ザイアスからもう1本もらった魔石の杭を見つめている。こっちの杭は"扉"を通過した後、実家の前に使う予定のものだ。

「では、検閲にいきましょう。」

高原から"扉"に向かって歩き出す。少し離れた場所でも見えるほど大きい"扉"はさながら高層ビル位だろうか。その名の通り、扉の形をしたそれは異世界につながる唯一の入り口だ。

「相変わらずでかいねぇ。」

私が見上げながらそういうと、隣にいたオフェリアが全くだ、と呟いた。

「王宮からでも小さいが見えるからな。」

意外な情報をもらった所で、検閲を行う石造りの小屋に入る。中には機械類が並び、操作している人は日本人だったり、こちらの人だったりと様々だった。

「ようこそ、渡航ですか?」

「魔導師協会の者です。書類は届いてますか?」

ザイアスが声をかけた受付らしき人に話しかけると、ガサガサと書類を探しだした。他の人は日本人である私達と、元王族のオフェリアが一緒にいるので驚いていたが、仕事中の為か遠巻きに見ている。

「はい、確認しました。それでは荷物をお出しください。」

次は荷物の確認だ。事前に通知していた為に、かなりスムーズに確認は終わった。

「このスーツケースは、ザイアス様が作られたのですか?」

やはりマジックアイテムとはバレていたが、特にダメだったわけではなく、単純に興味があるだけだった。

「それ、うちの夫が作りましたよ。」

「ええっ!?あの、失礼ですが、確か半年前に移住したご家族の方ですよね?」

検査をした男性に見覚えがあると思ったら、半年前に移住した際に検閲した人だった。

「はい。」

「じゃあ、本当に魔導師になられたんですね!」

男性は笑顔でおめでとうございます、と頭を下げてくれた。次に使い魔の確認だ。場合によっては向こうで色々もめる可能性があるのだが、アメリとリリィはおとなしく篭の中で男性を見上げている。

「(見てるね。)」

「(見てるわね。仕方がないわよ、検査ですもの。)」

アメリとリリィはいいコンビだ。お喋りなリリィに言葉を教わるアメリ、見た目は猫とちょっと大きいトカゲだが、まるで姉妹に見える。

「猫とトカゲですね、大丈夫です。」

アメリは普通のトカゲと変わらない肌になっている。鉱石トカゲだと申請すると、手続きに時間かかるとザイアスがいったので、一旦アメリには肌色を変えてもらい、トカゲとして申請することにした。

「日本側の"扉"を抜けるまで、この篭から出さないようにお願いします。」

「わかりました。」

篭を持ち上げて抱えると、片手でミズハの手を取り、"扉"の前にたつ。オフェリアの荷物検査が終わったようで、ライガが荷物をオフェリアの横に置く。

「じゃ、ここで。オフェリア様をよろしく頼みます。」

「んむ、気をつけて帰るんだぞ。」

ライガは頭を下げ高原へ向かって歩き出し、途中で何かのアイテムを使ったのか、姿がすぐ見えなくなった。

見上げた"扉"は固く閉ざされているが、これからこれが開くのを間近で見るのだ。

「ん?」

私はふと足元を見る。地面に何か線があるのを見つけたからだ。その線は"扉"から高原に向かって、まるで蟻の巣のように広がっていた。改めて"扉"を見ると、その線が一点に集まってるように見えた。

「アカネさん、いきますよ。」

声をかけられたので線には気にせずに、日本へ帰るという楽しみな気持ちに切り替えた。

厳かな"扉"はゆっくりと開き、わずかな隙間から漏れた光に包まれ、私達を日本へと誘った。




数秒の間はなにも感じないし、意識もないので、"扉"の中がどうなってるかはわからない。嫌な気持ちにも良い気持ちにもならない不思議な感覚だった。

「到着しましたね。ようこそ、日本へ!」

声をかけられて目を開けると、白い建物の中にいた。周りには機械類が並び、人が様々な仕事をこなしている。向こうと一緒だが、こちらは科学的というか私達には見慣れた風景だった。

「魔導師協会の皆様と、オフェリア様ですね。手続きを行いますのでこちらへ。」

案内をしてくれたのは女性で、見た目から日本人だとわかる。少し懐かしく感じながら、案内された部屋に入る。荷物を預けて、飲み物を受け取ると、女性はオフェリアに向かって話しかける。

「日本には初めての渡航でしたね、良かったらパンフレットがございますので、見ながらお待ち下さい。」

女性はパンフレットを渡すと、深々と頭を下げて部屋から出ていった。オフェリアがワクワクしながらパンフレットを開ける。文字はマナリス共通語だったようで、楽しげに見ていた。ミズハと仲良く見ている姿は微笑ましかった。

「早ければ10分程度で終わるでしょう。」

置かれた緑茶を飲みながらザイアスが時計を見上げる。日本の電光時計が朝の9時頃を指していた。出発した時間から考えてもズレがほとんどなかった。

「なんだ、時差がほぼないんだね。」

「季節が若干ズレがありますが、時間はほぼ同じですね。」

マナリスには冬の期間が短い。日本でいう1~3月がたったの1月しかない。なのでマナリスの人達は雪の経験があまりないそうだ。前にオフェリアにスキーの話をした際に知ったことだ。

「基本的には春秋が長くて、夏冬が短いもんね。」

ある意味良い気候のマナリスである。移住して助かったことのひとつだ。

3分もたたずにノックが鳴り、先程の女性が入ってくると、その手には篭を抱えていた。

「使い魔の検査が終わりました。先に受け取りをお願いします。」

手と声が震えていたので、私はすぐ受け取ると、

「すみません、もしかして苦手でしたか?」

と聞いてみると、女性は苦笑いした。

「申し訳ないです、爬虫類が苦手でして。態度に出てしまい、申し訳ないです。」

女性はしきりに頭を下げてくれたので、こちらも恐縮して謝罪する。そのタイミングで篭から我慢の限界だったのか、アメリとリリィが顔を出した。

「ひゃっ!」

女性がアメリを見るなり声をあげたので、私は慌ててアメリを篭に押し込み、ミズハに篭を渡す。

「申し訳ない。普段はいい子なんですが、慣れないことが続いたので。」

「い、いえ。こちらこそ失礼しました!あと少しで検査が終わりますのでお待ち下さい。」

やはりどうもダメのようで、逃げるように去っていく女性。

「(痛かった。)」

急に篭に押し込まれたか、ブスッとした声でアメリがいった。慌てて篭から出してナデナデの応酬をする。

「ごめんね、アメリはなんにも悪くないからね。」

「(アメリ、嫌われた?)」

「爬虫類が苦手な人もいるよ。私が蜘蛛やムカデが嫌いなのと一緒。」

アメリをひたすら撫でながら、そんな会話をする。ザイアスがおや、と呟いた。

「アカネさん、蜘蛛ダメですか。」

「カサカサする足が苦手で。」

そういえば話してなかったかな、と呟くと、ザイアスがふむ、と考え込んだ。

「帰ったらまた依頼をこなしてもらうつもりでしたが、蜘蛛型魔物が発生するエリアは紹介しないでおきますね。」

「ぜひそうしてください!」

見かけでもしたら、精霊魔法だけでなくあらゆる魔法を駆使して駆逐しかねない。ジェルドの街で蜘蛛やムカデを見かけないのはそういった虫が森を好むので来ないだけ。天国だよ、ホントに。

「お待たせしました、皆様。」

先程の女性が声をかけてきたので、私はアメリに篭に入っててとお願いすると、リリィと仲良く篭に入ってくれた。聞き分けのいい子である。

「全ての検査が終わりました。それでは良い旅を。」

女性が笑顔で見送りするのを見て、建物の出入り口をくぐった。

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