序章 今に至るまでの物語 4話
ザイアスは、ペンの蓋を取り、円グラフの文字に丸を付けながら、説明した。
「アカネ様には、精霊魔法の素質が高めに出ました。他にも聖光魔法にも多少出ました。」
私の名前が書かれた書類に、円グラフがはみ出そうな位になっている部分に丸を付けた。
「えっと、聖光魔法?」
「あ、申し訳ありません。後程まとめて説明しますので、今は先に進めます。」
「あ、はい。」
ザイアスの話の腰を折った質問を、さらっと流されて、私は黙った。
「次に、カズト様です。もっともグラフを見ていただけると解りますが。」
カズトの名前が書かれた書類には、円グラフが体をなさないほど、はみ出ていて、歪な円グラフになっていた。
「私も今までに見たことがないほど、どの素質も平均レベルを振り切っています。」
ザイアスの顔には汗もにじみ出し、緊張した面持ちだった。
「恐らくですが、魔導師協会で最高クラスに認定される"魔王"レベルであると。」
カズトはその言葉を聞いて、私の方を見る。
一見した限りでは、興味なさそうな顔つきだが、
「カズト、当ててみようか?」
9年の付き合いである私には、解りやすい方だ。
「ドヤ顔すんな。」
「今の顔、ドヤ顔だったんですか!?」
思わずザイアスが突っ込んだ。やはり、ザイアスでも表情が読み取りづらいようだった。
コントのような雰囲気に空気が和んだのか、
「失礼しました、話を続けます。」
ハンカチで顔を吹き、近くの水を一口飲んでから、ザイアスは話を進める。
「最後に、ミズハ様ですが。」
と視線をミズハの方へ移すと、ザイアスは笑みをこぼした。
「お疲れのようで、寝てしまってますね。」
アニメを見ながら、枕を抱きながら、布団もかぶらずに寝息をたてるミズハ。
私は席をたって、ミズハに近づき、布団をかけた。
テレビを消して、そっとミズハの頭をなで、可愛さにたまらず、頬にキスをした。
「可愛らしいお子さまですね。」
「ありがとうございます。」
ザイアスはカズトにそう言うと、私は椅子に座り直したタイミングで、向き直った。
「ミズハ様ですが、アカネ様と同様、精霊魔法の素質が高いです。ですが他の素質もかなり高いですね。こちらはカズト様似なんですかね。」
ミズハの名前の円グラフは、平均と思われるラインを全て越えてる上に、精霊魔法だけ円からはみ出ていた。
あらためて三枚の書類を見て、私の素質の円グラフのしょぼさに、ガックリした。
それを見てたのか、ザイアスが慌てて、
「アカネ様は、魔導師と名乗る者で一般的なグラフよりも高いことは事実ですからね。」
フォローしてくれて、少し復活する。
「何よりカズト様が最高クラスなだけで、ミズハ様もアカネ様も、かなりの素質があります。」
ザイアスは少し真面目な顔つきになる。
「ここからは、私達の事情を含む大事なお話になります。」
ザイアスのいる世界---マナリスと呼ばれる世界は現在、魔導師が20人程度しかいないそうだ。
病死、寿命もあるが、死因が問題ではなく、
新たに魔導師が現れない、生まれない状況だという。
「原因は解っておりませんが、恐らく"扉"が関わってると推測できます。」
ザイアスが静かに語りだす。
「何故、異世界に通じる"扉"が開いたのか、それ以前に何故、"扉"が生まれたのかすら解らないのです。」
この話は、9年前に日本政府が発表した内容と同じで、マナリス側でも未だに不明なのだ。
"扉"が生まれる前の約20年間、魔導師が現れなくなった。
魔導師協会がこの状況を把握したのは、"扉"が出現した直後だった。
"扉"の対応を行うために、マナリス中すべての魔導師を集めた際に、一番若い魔導師が齢20を越えていたのに、違和感があったそうだ。
「些細な違和感が拭えなかった私達は、"扉"の調査と平行しながら、新たな魔導師を探しました。」
結果は、魔導師となりうる素質のある者が生まれていなかった。
「"扉"の調査から日本の国交交渉までは、魔導師協会が行ってましたが、その先はマナリス内の国々が、マナリス連合として引き継ぎました。」
引き継ぎ後、魔導師協会はようやく本腰をあげて、魔導師捜索に当たったそうだが。
「やはり生まれていなかったのです。」