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第六章 日本へ里帰り 1話

異世界初の一人旅から数週間。

マナリスにも春夏秋冬があるらしく、秋頃に入った時期だった。

「実は日本に用事が出来まして、よかったら皆さんは里帰りしませんか?」

ザイアスがそう提案してきたのには、私はようやく出来上がった短杖を落とす勢いで驚いた。てっきりもう帰れない気でいた私。その反応にきょとんとしたザイアス。

「あれ?まさか、帰りたくないとか言いませんよね!?」

「いや、帰っちゃ悪いかな、って。」

私は短杖を拾い直しながらそう言うと、ザイアスは遠慮なされてたのですか、と苦笑。

「ご両親からお手紙来てましたよね。気になさらず、帰っていいんですよ。」

森の依頼後すぐに、両親から手紙が届いた。体調等を心配していた。私達から頻繁に手紙は送っていたが、やはり会いたい、と書かれていた。

「先程も言いましたが、日本に用事が出来まして。」

政治的な?と聞いたら、似たようなものです、とザイアスはうなずいた。

「転移魔法のテストもしたいので、ぜひ里帰りしていただきたいのです。」

「じゃあ、ねぇ。」

と隣で聞いていたカズトに、意見を聞こうとしたら、本人はもうその気のようだ。

「どこまで持っていっていい?」

「マジックアイテム全てダメです。」

カズトとザイアスでその辺りを話している間に、ミューラに留守を頼むことにした。

「とりあえず帰るなら、皆に話さないと。」

「あ、お願いします。」

ザイアスはまだカズトとの打ち合わせで長引きそうだ。私は笑いつつ、キッチンへ向かう。ちょうど昼御飯の片付け中のミューラを見つけた。

「ミューラ、ちょっと話があるんだけど。」

「あら、アカネ。ザイアスさんが来たんだって?」

片付けを済ませ、今度はお茶の準備に入ろうとしたミューラ。

「ああ、それ終わったら話があるんだけど。」

「急ぎかい?」

早めに来てくれればいいよ、と伝えて私は次に書庫に向かった。シャナルがいるはず、とドアを開くと案の定そこで読書中だった。

「庭にいない庭師は、シャナルぐらいだね。」

そう声をかけると、本人は涼しげな顔で答える。

「この時期は、落ち葉処理くらいだろ?昨日、ミズハが手伝ってくれたし。」

「あら。」

そういえば、と昨日の庭での出来事を思い出す。シャナルとミズハが仲良く落ち葉を集めて、焼き芋をしているのを、部屋の窓から見たのだ。

庭師として採用したシャナルだが、本来は資料館に勤めていたインドア派。親のお節介で私達の屋敷に雇ってくれ、と魔導師協会から申し入れがあったそうだ。最初はやる気がなさそうだったが、やはり日本の書物はシャナルには宝の山だったようで、今では庭師の仕事を終えた後、書庫に篭る最高の日々を過ごしている。

「で、庭師っぽくない庭師さん、ちょっと話があるんだけど。」

「ん?何かあったか?」

シャナルは本にしおりを挟み、私の方をみる。

「うん、日本に里帰りしようと思ってて。」

「ほぉ?」

二人で書庫を出て歩きながら話す。すぐ部屋の中の喧騒を聞きつけ、シャナルは顔をしかめる。騒がしいのは苦手のようだ。

部屋に入ると、リゼルやミューラまで揃っていた。

「えっと、しばらく日本へ里帰りしようという話になりまして。」

私が3人にそう話すと、留守の間よろしくと頼んだ。すると皆が口々に日本の土産を要求し始める。心配して損するほどの対応に、

「あはは、持ち込めるかはわからないけど、努力するわ。」

嬉しいような悲しいような複雑な心中となった。




日本への里帰りは、2泊3日の日程だ。

ザイアスは初日だけ両親に会うが、夕方には日本政府にも行かなきゃ行けないらしく、3日目に迎えに来てくれる話になった。

「で、もう一人同行します。」

「え?私達だけじゃないの?」

「里帰りを提案した理由の一つが、この方の対応があります。」

頭を押さえながら、ザイアスがチラッと私をみる。

「この同行者に近場で構いませんので、日本らしい名所や観光地の案内を頼みたいのですが、いいですか?」

「それはかまわないけど、誰なの?その同行者は。」

ザイアスは貴方達も知ってますよ、と一言言った後で同行者の名前を口にする。

「オフェリア様です。」

「はぁ!?なんでオフェリアが!?」

凄い大物の名前に、ビックリして思わず大声を出す。

「国王から、次はこちらから出向きたいと言うアクションをしてるが、何もないらしいんです。」

エレナス公国の国王は日本政府の対応に少し不満げの様子だった。こちらからすれば、異世界人を招くとなれば世界中から狙われる可能性があるんだから、安易に呼べないのが本音だとおもう。

「判断材料も少ない状況でもあるので、先にある程度の能力を持つものに、先行してもらうことになったわけです。」

「で、元王族のオフェリアが選ばれた、と。」

私はなるほど、と納得した。ザイアスは申し訳ないですね、と言ったが、私的に事情がわかれば充分だった。

「なら、そういうことを気にせず、オフェリアと楽しく観光するわ。」

お願いします、とザイアスと話を終わらせ、目の前に置かれた書類にサインする。これは"扉"を使用する許可書だったり、日本の入国関連書類だったりとかなりの枚数だ。私達は移住したとはいえ、日本国籍は残ってるのでどちらかといえば、持ち込み物の注意くらいだ。

「ミズハちゃんとカズトさんは終わりました?」

近くで同じようにサインする二人はもう終わったようで、ザイアスが最終確認する。問題なかったようで、さらさらと書類をまとめて鞄にしまった。

「ザイアス、営業マンみたいだね。」

「よく言われますよ。日本の方に、日本人らしいって。」

からかったつもりだったが、苦笑するも嫌ではない様子のザイアス。

「あ、母さん達に手紙送らないとね。一人増えるわけだし。」

「あっちでの軍資金は、どこで両替するんだ?」

「ああ、日本側の"扉"で出来ますよ。」

着々と日本への里帰りの話が弾んでいく。ミズハは久しぶりに会える祖父母に楽しみが止まらないようで、

「あの子連れていきたい!」

と言い出した。その場の全員が誰のことか分からずにいた。私はミズハを見ながら、聞いてみた。

「あの子って誰?」

「えっと、今いるかな。」

ミズハは窓の方に駆け寄ると、大きな声で呼ぶ。

「リリィ!」

夕方の静けさに響くミズハの声。私は思わず止めようとしたが、呼ばれたものはすぐさま窓の近くに来て、縁に座った。

それは灰色の猫だった。汚れているわけでなく、毛並みがキレイで瞳は透き通った青色。かなりの美人な、いや、美猫だ。

「リリィ。いい子!」

ミズハは窓の縁にいたリリィを撫でてから抱き上げると、私達に紹介してくれた。一旦、椅子に下ろすようにしてあげると、リリィは行儀よく座った。

私達はリリィのおとなしさだけでなく、ミズハとリリィの間に何か繋がりみたいな物を見てとれた。それを確認したのか、ザイアスとカズトと3人で顔を見合わせた。

「ミズハ、この子とはどこであったの?」

「学校の帰り道。」

にゃあん、と鳴いたリリィ。肯定してるようだ。

詳しく話を聞くと、ミズハが学校の帰り道に路地裏で怪我をしていたリリィを見つけた。灰色の毛並み、青色の瞳の猫はあまりマナリスでは見られないので、一緒にいた子供達は一瞬魔物かと勘違いしたらしい。

騒ぎだそうとした友達に、ミズハは日本でよく見る猫だと話すと近づいた。友達が親を呼んでくるといなくなったので、ミズハはこっそり聖光魔法を使って、怪我を治してあげたそうだ。

「ごめんなさい。」

魔法を使ったことをじわっと涙をためて告白するミズハに、すぐ隣にいたリリィは机の上に乗り、ミズハの頬をなめた。私はミズハの頭を撫でる。

「怒らないよ。ミズハ、よくやったね。」

ミズハににゃあーん、とリリィがすり寄っている。リリィが命の恩人にすり寄る姿に、互いにかなりの信頼があるのがわかった。

その後は学校の行き帰りに送迎してくれたり、今のように屋敷の庭にいたりしていたようだ。

「ザイアス。」

私は先程感じた繋がりを確認するため、ザイアスを見るとうなずいていた。

「ミズハちゃん、リリィちゃんと使い魔契約したのかな?」

「え?」

確認するためにザイアスが聞いたら、ミズハは全く意識をしてなかったようで、頭にはてなマークを浮かべている。その姿を見ていたのか、リリィが私達の方を向く。

「(したわ。)」

女性の声、優しい声色が響くと、ミズハがバッとリリィを見る。

「(ミズハ、約束したでしょ。ずっと一緒だって。)」

ミズハの頬を顔を擦りあて、大丈夫だと優しく話すリリィ。私達は顔を見合わせたが、答えは決まっていた。

「リリィ。」

私が呼ぶと彼女を抱き上げる。ミズハはあっと声を出したが、構わず言葉を続ける。

「ミズハをよろしくね。あと1日1回でいいからモフらせて!」

と言った後、存分にモフり始めると、ミズハは笑った。

「ついにミズハちゃんも使い魔が出来ましたね。」

ザイアスは笑顔でミズハを撫でると、ようやく許されたのにホッとしたようだ。

リリィも含め、私達家族は日本への里帰りに向けて、支度を始めることとなった。

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