第五章 森の中での出会い 1話
私は今、森へ行く支度の真っ最中。
昨日の軽装に厚手の革マントを羽織っている。
ブーツは昨日カズトが急遽作成した特製で、敏捷向上と疲労しにくい効果を乗せたマジックアイテムである。
ちなみにどうやって作ったのか、と聞いたら、
「精霊王に、夢の中で今度嫁に会わせることを条件に手伝って貰った。」
と人の預かり知らぬ所で勝手に約束していた。
無論、ザイアス達だけでなく、話を聞いていたアリスすら呆れていたのは言うまでもない。
「ママ、今日もお仕事?」
初等学校がお休みのミズハが、朝から支度の様子を見に来ていた。
「うん、森までね。一応、夕飯前には帰るつもりだけど、遅くなるかもしれないから、ミューラやパパの言うことを聞いてね。」
はーい!と元気に返事をするミズハ。一旦、ミズハの両手に抱かれているアメリも返事のつもりか舌を出した。
「採取道具や内容は貰ったのか?」
隣で私のためにもう1つ、マジックアイテムの最終調整をしているカズトが話す。
「協会で合流するナリアさんから受けとる予定だから。」
私は杖をつかむと立ち上がって、鏡を見て確認する。
今日はウエストバッグだけでなく、小さめだがリュックを背負っている。昼御飯やらレジャーシートやらの雑貨を詰めてある。ウエストバッグには魔力ポーションがあり、こちらはザイアスとリゼルからの餞別らしい。
「終わった、着けてみ。」
カズトが私の左腕に腕輪を着ける。これは腕力向上と魔力消費を抑える効果があるらしい。
「なんかこんなに良いもの、大丈夫?」
材料費やカズトの魔力の心配してみるものの、
「昨日の修復した美術品、結局オークションに出したらしいんだが、その売上の一部は修復した魔導師に入るらしいんだ。」
だから金には困らんだろ?と本人は問題無さそうに話した。
「だから、まぁ、俺からの餞別で。」
カズトなりに心配していたようで、愛されている実感に照れてしまう。
「じゃ、行ってきます。」
玄関のドアは自動的に開くので、両手を振って皆に挨拶をする。
私、異世界初の一人旅に行ってきます!
ナリアと協会前で待ち合わせし、依頼の手続きを済ませる。シェナは慣れた作業のようで、あっという間に処理を完了させてくれた。
「昨日に引き続き依頼をこなすなんて、真面目なんですね。」
「ほら、協会にはかなりおんぶにだっこだから。」
シェナは言葉の意味が分からないようで、首をかしげた。私は異世界にはないことわざらしいと判断し、
「えっと、協会には生活する上で費用負担してもらってるし、移住する費用もさ?」
と言い直す。
「ああ、そんなの気にしないでくださいよ。」
シェナは理解したのか、手をぶんぶん振って答える。しっぽも振ってて可愛いです。
「これから"扉"の調査や、新しく移住したい異世界人さんのテストケースとして、広告塔でもあるんですから。」
異世界風に言うと、win-winってやつですよ!とシェナがいった。
「よく知ってるね、その言葉。」
「こないだ届いた雑誌に書いてありましたから!」
日本から雑貨が輸入されてるとは思わず、へぇって思わず口にする。
「まだ一般的には普及するほどではないですから、検査の時に見るだけですね。」
シェナはそれでもファッションが気になるらしく、今から楽しみです!と話した。
「あ、依頼内容を確認しますね。ジェルドの森にて薬草採取でよろしいですか?」
ジェルドの森は、町に隣接して広がる広大な森だ。貴重な草花や癒し効果のある泉、さらには温泉があり、観光目的でも利用されるらしい。
森までの距離はほぼ隣接してるので、長旅になるわけでないので、町の利用者も多い。
「今回の依頼は、たくさん持ち帰れなくても大丈夫です。依頼書に書かれてた薬草を指定の数採れれば問題ありませんから、無理せず気楽にお願いします。」
ナリアがそういうと、シェナも笑顔で答える。依頼内容の確認が終わり、相互に問題なく、依頼は受理となった。
確認してる間、ずっとそわそわと肩をはうアメリに、ナリアが気になっていたので、撫でさせてあげると、アメリも落ち着いたようだ。
「アメリちゃんも初陣だからって無理はダメだよ。アカネさんの為にならないならね。」
「(はーい。)」
ナリアにはアメリの声は聞こえているので、返事をしたのを聞いて、ナリアは笑顔だった。
「では、気をつけて!」
シェナとナリアに見送られ、町の外へ向かった。
魔導師協会から出て、東門の方へ向かう。門番兵の人に挨拶して依頼内容を説明、森へ向かう道を教えてくれた。
「アカネさんの魔導師デビューに立ち会えて嬉しいです!」
異世界人ということで何かしら有名人扱いされているので、満更でもない笑顔で対応する。
森への道は外壁を沿うように歩いて、30分も経たない内に、森の入り口にたどり着いた。
街道が続けており、道もある程度舗装されてるようだった。そして、私を待ちわびたかのように、ヒラヒラと蝶の羽が見えた。
「(待ってたよ!)」
私に近づいてきたのは、あの雑貨屋の鳥かごにいたフェアリーだった。
「ハーブティご馳走さま、美味しかったよ。」
「(えへへ、気にしないで!)」
私の周りを飛んでたフェアリーが、肩にいるアメリに気づいて、ひらりと私の肩に座る。
幸い、アメリもフェアリーも体重を感じさせないほど軽いので助かる。
「(うわぁ、宝石みたいな肌!この子がアカネの使い魔?)」
「そう、鉱石トカゲのアメリよ。」
舌を出して挨拶をするアメリに、フェアリーは嬉しそうに撫でる。
「(くすぐったい。)」
「(可愛いっ!)」
ますます気に入ったフェアリーはしばらくアメリから離れずにいた。道案内を頼みながら、森の中で進む。
「ナリアさんから聞いてきた薬草なんだけど。」
歩きながらフェアリーに依頼書とわざわざ絵で特徴を書いた数枚の紙を見せる。肩にいたフェアリーがすべて確認していく。
「(うん、2箇所程回るけど、全部あるわね。)」
「良かった!じゃ、早速。」
森の中は爽やかな空気に満ちていて、道を歩くだけで癒し効果があるように感じる。日本にもこんな自然が溢れた地域はありそうだけど、妖精族がたまに飛行したり、木の実を集めたりする風景は拝めないだろう。
「(アカネ、こっち。)」
道から外れ、獣道に入る。ブーツのおかげでさくさく進めて、薬草繁殖地に到着した。
「よし、後は絵を見ながら。」
「(手伝う?)」
「あ、これは仕事だからいいよ。アメリと遊んでてよ。」
肩からアメリを地面に降ろすと、アメリは緑溢れる場所が嬉しくて出歩き始めた。
「遠くにいかないでね?」
「(わかった。)」
「(私が見てるから大丈夫よ!アメリ、あっちに美味しい木の実があるの。食べない?)」
早速、二人は仲良く森探索へ出掛けていった。
さて薬草採取を始めますかね。
繁殖地を見回り、必要な数の薬草採取が終わり、一段落ついた頃に。
「ん?」
何かの気配を感じて、杖を構え直す。大木の影になる位置に下がり、気配のする方を確認する。
相手も警戒してはいるが、敵意があまり感じられない。
「もしかして。」
姿を見せるか悩んだ頃に、相手から動きを見せた。森の茂みから姿を見せてきたのだ。
金髪は美しくまとめられ、青い瞳は澄んだ水色、その種族の特徴を隠すことなく出し、弓を構えて周囲の警戒をする。
女性では初めて見たその姿に、私は見惚れていた。
「エルフ族の人だ。」
ゲームでよく見るようなエルフ族だか、やはり実物は格段にキレイだった。ザイアスも美形だが、彼女は上回る美女だった。
「そこにいるのは誰?」
やはり居場所がバレバレのようで、弓をひいてこちらに向けてる。私は片手をヒラヒラしながら、敵意がないことを示した。
「すみません。びっくりして隠れちゃいました。」
私は大木から姿を見せると、エルフはかなりびっくりした顔に変わった。
「あ、貴方。もしかして。」
「異世界人の魔導師、アカネと申します。」
杖を持ち替え、丁寧にお辞儀をして名乗った。エルフは弓を慌てて仕舞い、丁寧にお辞儀を返す。
「すまなかった!今まで感じたことのない魔力の気配に、新種の魔物と勘違いした。」
「ああ、そう感じるのね。あはは、そりゃそうか。」
エルフの言葉に、私は頬を指でかく。そりゃそうだろう、異世界人の魔力はマナリス中探しても、ジェルドの街中だけだったから。
「私の自己紹介がまだだった。ジェルドの森の守人の一人、サーシャだ。」
「サーシャさん、よろしくお願いします。」
握手を交わし、落ち着きを取り戻す。ちょうど良いタイミングにフェアリーとアメリが戻ってきた。その後ろから、アリスも一緒にきたのでびっくりして話しかける。
「アリス、どうしたの?」
「(どっかの誰かさんが一人きりで寂しい思いをしてそうだったから、来ちゃった。)」
「それ、私のこと?」
笑顔で頷かれ、私はやはりアリスは私を子供扱いしてるのだ、と確信を持ち、大きくため息をついた。それを心配したのか、アメリはすぐ足から体を登り、肩に乗ると私の顔をチロチロ舐めた。
「こ、これは精霊王夫人のアリス様!」
我に返ったかのようにサーシャがアリスに膝をついて挨拶をする。私はあまりの反応でぽかんとしてると、
「あ、アカネ。アリス様と知り合いだったのか!?」
サーシャの反応に私はアリスをちらっと見て、どう答えるかなやんでいると、アリスは満面の笑みで、
「(私のお気に入りなの、娘同然だから覚えてあげて?)」
と言うものだから、サーシャも慌てて礼儀を尽くす。
「アカネ様、先程の言動、失礼しました!」
「あ、いや、いきなり敬語になられても困る。普通でお願いします、本当にマジで。」
私もあまりの対応の違いにあたふたしながら、サーシャに向き合う。サーシャはアリスの顔色を伺いつつ、立ち上がってくれた。
「つか、アリス。貴方、精霊王の奥さんだったの。」
「(だから精霊になれたんだよ?あれ、話してなかったっけ?)」
首をかしげたアリスに、私はないですねーと棒読みで答える。サーシャは肩にいるアメリやフェアリーを見て、再び愕然とした顔になる。
「しかも、すでに妖精族と縁を結んだ上で、鉱山に住まう魔獣の鉱石トカゲを従えてるとは。」
「魔獣っていう柄じゃないよ、アメリは。可愛い使い魔だよ。」
肩にいたアメリの顔を撫でると、嬉しくてまた頬を舐めた。サーシャははぁ、と重いため息をはく。
「異世界人は私達とは格が違いすぎる、と伺っていたが、まさにその通りだったな。」
「ちなみに、私の夫も娘も私より凄いので注意してね?」
「このさらに上を行くのかっ!」
アリスが互いの旦那同士が友好契約してるからね、と付け足すとサーシャは天を仰いだ。どうやら話の次元が飛び過ぎてついていけなかった模様。
「あれ、そういや、アリス。私達は契約してなかったね。」
「(え、してるよ?)」
さも当然のように契約が結ばれていた事実に、私自身がびっくりする。
「え、いつ?」
「(魔石作業の後。この杖は本来私にしか使えないの。)」
「はぁ!?ザイアスがそんなこと一言も言わなかったよ?」
あの人、そういうとこ言わないからね、と呟くアリスに今度は私が天を仰いだ。
「(魔石に魔力を込めて、私が認めたから、契約成立になったのよ?あれ、本当に知らなかった?)」
はめられた感が否めない、後でザイアスに確認するとしよう。
賑やかな自己紹介や思いもかけない事実を知ったところで、私達は仲良くなっていった。




