第四章 魔導師のお仕事 2話
使い魔の儀式による契約は、魔導師なら中級者レベルで行うものらしい。
だが、今回は魔石を身に宿しているという使い魔に適した生物であり、親子同然の確固たる絆があるので、師匠でもあるリゼルとザイアスがフォローする形で行うことになった。
ちなみに、普通のトカゲは一般的で例があったが、鉱石トカゲを使い魔にした例がないそうだ。
「ないの!?大丈夫!?」
思わず聞き返したが、本人達は余裕の表情だった。
「大丈夫、今回はアメリが君を親と認識してるから楽な方だよ。」
「私達が手順を教えますし、難しく考えなくて大丈夫!」
励ましを受けながら、屋敷の地下にある通称「魔法実験専用部屋」に向かう。屋敷の奥にあるシャナルとリゼルの部屋の前の廊下を通り、普段は家人以外は入れないように壁があるのだが、今はリゼルが開けてくれた。
階段を降りながら、軽く儀式の打ち合わせをする。内容は思ったよりは簡単な気がした。
「要は血を与え、名を授け、魔力を混ぜあわせるんですが、ほとんどクリアしてますから。」
「名前はさっき付けたけど、血を与えって。」
刃物で指を切って血を出すのかと想像して、刃物や紙で切った怪我が嫌いな私はしかめっ面になった。
ザイアスが首をかしげて私を見る。
「どうしました?」
「刃物で指切ったりしないとダメ?」
それをいってようやく、あぁっと察したザイアス。
「アカネはそれが嫌いでしたね。」
「覚えてくれてたんだ。」
魔導師になるために言語や常識を覚えた際にもこの話はしたのだが、あの一回だけだったのに。
「基本的には刃物で切ってやりますが、アカネがどうしても、というなら他に違う手を考えますか。」
「あー、これいけるのかな?」
私はちょっと待ってて、と書庫へ向かう。人間のからだ、という子供向けの絵本を見つけ、再び戻る。
ページを開いて、顔の項目を出して、ザイアスたちに見せる。
「人間の血の成分は、涙や汗と同じ成分なんだって。」
「ああ、カガク的にそうみたいですね。」
「なので、涙か汗でどうにかなりませんかね。」
どうしても避けたい私に、リゼルとザイアスは顔を見合わせた後に大爆笑した。
「アカネがよっぽど嫌いなのが分かりましたよ。」
「ぶー。」
リゼルに至っては腹を抱えて笑うもんだから、頬を膨らませて拗ねていると、リゼルを涙を拭きながら悪かった、と謝る。
「さっき、基本的、って、言ったばっか、ぶっ!」
「リゼルゥゥゥゥ!」
笑いが収まらないのか、また吹き出したからリゼルの首を絞めながら猛抗議する。
「リゼル、貴方にだってタマネギで大騒ぎしたんでしょ、そろそろその辺で。」
「何故貴方がそれを知ってるんです!?」
ごめん、ザイアスに日々の報告義務があるんで。
「とにかく、アカネは涙か汗ですね。この小瓶に詰めてきて下さい。」
小瓶を渡され、肩にいるアメリが気になるのか、ちろちろ舌で舐めたりしている。
「アメリと冒険したり、実験したりする為の儀式に使うんだよ。」
「(ママと一緒?)」
うんうん、と頷くとアメリは嬉しかったのか、ちろっと舌を出して頬を舐めた。
爬虫類は苦手ではなかったが、アメリが可愛すぎてやばい。
紫色のガラス細工ようなの体に、琥珀色のキレイな瞳を持つ、芸術的な鉱石トカゲ。
「あああ、かわいいんじゃああああ~」
「異世界に来てまでネットスラング使うな。」
ふと廊下にはカズトが杖を持って立っていた。
「あ、ごめん。つい。」
「こいつが鉱石トカゲか?」
カズトは杖の作業していた為、産まれたことは伝えたが実際に見てないから、初めて見るのだ。
「へぇ、キレイだな。」
「(ママ、だあれ?)」
アメリを撫でようとカズトが手を伸ばしてくるのを、警戒しながら私に聞いてくる。
「大丈夫、私の一番愛してる人。」
「(ママの?じゃ、悪い人じゃない?)」
アメリは理解したのか、撫でられるのを受け入れた。カズトはその肌の感触に、おおっと呟いた。
「俺も使い魔、考えないといけないかな。」
「カズトならドラゴンもいけそうだよね?」
爬虫類系はかぶるな、とカズトはアメリを一通り撫でた。
「ザイアスたちは地下か?」
「うん、アメリの使い魔契約儀式の途中だから。」
話をするだけなら、と伝えると、カズトはわかった、と地下へ向かった。
「(ママ、どうするの?)」
小瓶の中身を気にしているらしいが、私は手元にある杖を見て、考えがある、とだけ告げた。
寝室に入って、まず取り出したのはアルバムだった。
「(本?)」
「アルバムっていってね、写真という絵を保存するものよ。」
アメリを肩に乗せながら、私はアルバムを開く。
そこには、ミズハの赤ちゃんの頃からの写真を挟んでいた。
「ミズハが産まれた頃の写真よ、人間の赤ちゃんはどう?」
「(ミズハ、まんまる。)」
アメリの素直な感想に、私はちょっと笑った。
「確かに。丸くないと生まれにくいからね。」
写真をアメリと見ながら、私はミズハが産まれた日を思い起こす。
そのときの気持ちが、徐々に体の中から溢れ出そうになる。
妊娠中はよく梅干しの駄菓子を食べまくって、カズトに怒られた。
あまりにも眠くて動けなかった日々で、一回救急車を呼ばれたこともあった。お義母さんも、すごく心配してたなぁ。
出産が近くなった数ヶ月は実家に帰った。母さんがよくしてくれて、幸せだった日々。
そして、出産日前に陣痛が来て、慌ててカズトに電話したんだった。仕事中なのに電話に出てくれて、実家から2時間もかかるのに関わらず、
「じゃ、飛んでくわ。」
なんて、今なら簡単にやってしまいそうだけど、あの当時は本当にビックリしたなぁ。間に合わないことや出産の不安を和らげる為のジョークだと思っていた。
「でも、結局ギリギリだったんだよね。」
急いでくれたのだが、部屋の前で産声を聞いたって。幸いだったのが、母親がそばにいたことだった。
出産の痛みはかすかにしか思い出せないが、名前を呼ぶ声すら出なかった程疲弊したのだ。
「(アメリ、知ってる。)」
思い出した感動や苦労や諸々を涙として流し、小瓶に詰めながらアメリの言葉を聞く。
「(ママ、頑張ってるよ。)」
その言葉すら嬉しくて、涙はあっという間に小瓶に半分ほどになった。




