第一章 マナリスでの異世界生活 5話
「こいつは珍しい蝶でしてなぁ。この辺ではなかなか見かけない種類でして。」
話を聞く限り、この店主にはフェアリーには見えていないようだった。
ただ解ってて蝶だと言い切られたら、どうにもならない。
「おじさん!ちょうちょじゃないよ!」
が、先にミズハが指摘してしまった。
「こら、ミズハ。」
「これ、フェアリーさんだよ!泣いてるんだよ!」
正直で心優しいミズハが指摘した為、さっきまで泣いていたフェアリーが気づいた。
精霊魔法の素質のある魔導師達の言葉は、精霊にも通じる。フェアリーも同様だ。
「フェアリーじゃと!?」
店主は再度かごを見つめるも、蝶の羽ばたきのみが見えるようで困惑している。
「すみません、いきなり言っても困りますよね。」
「いやぁ、アンタ達は異世界人だ。しかも魔導師として呼ばれとることは知ってる。」
店主の言葉に、今度は私が困惑する。速報の記事の中に確かにそう書かれていたが、あれは誰が情報を流したのか、ザイアスは首をかしげていた。
「お嬢ちゃん、おじさんは精霊が見えないんじゃ。フェアリーは何と言ってる?」
店主が優しくミズハに質問する。するとミズハは鳥かごのフェアリーと話始めた。
「フェアリーさん、なんで泣いてるの?」
フェアリーは少し驚いていたが、すぐに鳥かごからミズハに近づき、
「(小さな子らの、虫網に引っ掛かってしまったの。人間の親が私を珍しい蝶だと勘違いして、かごにいれられたのよ。)」
早口に喋り出したが、ミズハには早すぎて聞き取れない様子だった。
困った顔をするミズハに、私が代わりに答える。
「何故貴方は森から出たの?」
会話が出来ると解ったフェアリーは、今度は私に向かって話す。
「(友達が薬草を欲しがってて、生えてる場所を探していたら、網に気づかずに捕まってしまったの。)」
顔を両手で覆い、フェアリーは再び泣き始める。
あちゃー、ドジっ子さんだなぉ。
「フェアリーは何と?」
店主は私が話せたことを気づいたのか、私に聞いてきた。
「どうやら薬草探していたところ、子供の虫網に引っ掛かったようです。」
「なるほど、ということはやつが見つけたのではなかったか。」
何か考えこむように顎に手を当てて、店主は呟いた。どうやら心当たりがあるようだった。
「精霊の友であるフェアリー等の"森の民"を捕獲した上に販売してると知れたら、わしゃ逮捕になってしまうなぁ。」
その言葉にあっ、と私は声を出した。エレナス公国の法律の中に確かにそんな法律があったことを思い出した。
「なら、今からでも離してあげてほしいですが。」
「ただ、それではわしが販売していた事実は残る。」
「返してくればいいでしょ!」
ミューラは店主に食い気味にいい放った。その迫力に店主は面食らったまま黙りこむ。
「アンタね、珍しいからって何でもかんでも仕入れるから、こんなのに引っ掛かるのよ。」
その口振りに私は少し驚いた。
「ミューラ、もしかして知り合い?」
「知り合いもなにも、私の幼なじみよ。」
「えーーーっ!?」
久々に大声出して驚いた。まさかの幼なじみ!?
「さっさと返してやればいいじゃない?アンタ、前科増やしたいの?」
「しかも、まさかの前科持ち!?」
畳み掛けるように続く流れに、思わず突っ込んでしまった。
店主はミューラには弱いのが、渋々とかごを持って出ていった。
「って、店は!?」
「大丈夫よ。おーーーい、ナリアさーーーん!」
ミューラが大声で店の奥に声をかけると、その奥から若い女性が現れた。
「あら、ミューラさん。こんにちは。」
「アンタの旦那、また変なもの仕入れてるわよ。」
「奥さん!?若いっ!」
もう流れに任せて突っ込みするしかない。
ナリア、と呼ばれた若い女性はクスクス笑っている。
「よく言われます、何で結婚したのかって。」
「私も会うたびに思うわよ。」
ミューラが大きなため息をついて、ナリアさんをみる。
それが見慣れた光景なのか、ナリアさんは笑顔を崩さない。
「まぁ、惚れちゃいましたから。」
その笑顔に少し理解できる部分を感じ、私も笑う。
ミズハは満面の笑みを私に向かって見せているので、とりあえず、これで一件落着かな?
なお、店主はあのあと、きちんとフェアリーが森に帰るところまで見守ったそうだ。




