序章 今に至るまでの物語 1話
私、アカネの生きてきた道は、多分、幸福な方だったとおもう。
裕福な家庭に生まれ、それなりに勉学に励み、たまに悪ふざけもし、仲の良い親友がいて、不満はあるが仕事にも就けた。
そして、ありのままの私を愛してくれる伴侶、カズトと結婚し、その間には、愛娘であるミズハも出来た。
家族仲は良好で、カズトの家族である舅達と同居だった。
だが、どんな人生にも、影はある。
舅達がバス事故に巻き込まれ、急死したことが始まりだった。
あまりにも突然で、葬儀の手続きもままならないほどで、近所の人達からは、反感を買ってしまったのかもしれない。
何とか葬儀をするも、さらに不運は続いた。
ある日、訪ねてきた男の人から、告げられた悲劇の第二幕。
舅達の借金が、発覚したのだ。額は1億だった。
生きてきた人生で、その言葉を聞くのは、宝くじを当てた時だけで十分と思う。
慌てて弁護士や役所等を回って、何とかしようと試みたが、時はすでに遅く、背負う羽目になっていた。
真面目で慎重なカズトですら、滅多に動かない表情が、絶望に染まっていたのをみて、私は悟った。
何をしたとしても、逃げられない、と。
その後は返済のため、夫婦で近所や親戚に援助を求めたが、
近所は、葬儀の際に反感を買った為、門前払いだった。
カズトの親戚に至っては、舅達との仲が悪かったらしく、むしろ、無様な姿を見れて笑いが止まらない、とばかりに話だけ聞いて、悪口の捌け口にされた。
幸いだったのが、私の親戚は全面的に味方だったことだ。
特に、私の両親や兄夫婦はかなり助けてもらった。
それでも、あの「1億」は、地獄から這い出るには壁が高すぎた。
さらに追い討ちをかけたのは、ミズハのことだった。
仕事や親戚回りに目が回る状態だった私達は、
ミズハが、小学校で苛められてることに気づいてなかった。
ようやく気づいたのは、ミズハがランドセルを泣きながら、冬の川から引き上げようとしていたのを見たからだ。
その姿に、完全に心が折れた。
私達のしてきたことは、何だろうか?
何が、したかったのだろうか?
それからは、まるで機械のように生きていた。
ミズハは登校を拒否し、担任が来ようが校長が来ようが、頑として部屋から出なかった。
私達は仕事を言い訳に、学校や同級生達の両親の言葉は聞いてないふりをした。
無論、結果はお察しである。
こうして、地獄から這い出るどころか、転げ落ちていく人生。
私達は、限界を迎えたのだ。