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5話



 友達じゃなくていい。


 恋人じゃなくていい。


 ただ、ルイ王子の大切な人を救いたい。


 悠理はそう強く思った。

 自分でも可笑しいと思う。

 出会って間もないルイ王子のために、ここまでする必要があるのだろうか、と。

 それでも悠理は、ルイ王子の悲しむ顔を見たくなかった。ルイ王子には、いつも笑っていて欲しい。ただそれだけの理由だ……。


「わ、私に見せてください」


 悠理が意を決してそう告げると、ルイ王子は首をゆっくりと横に振った。


「ユウリの気持ちはよく分かった。でも、これは無理だよ……ここまで傷が深いとなると、どんなに治療魔法をかけても完治することはできない」


 ルイ王子はそう言うと、悔しそうに顔を歪めた。そして、自分の拳を床に勢いよく叩き始める。


「何が王族だ……友一人の命を救えずして、民の命を救えるのかッ!? くそッ!!」


「で、殿下!! おやめください!!」


 周囲の制止を振り切って、ひたすら拳を床に振り落とし続けるルイ王子。

 悠理の耳には確かに聞こえた。ルイ王子の心の叫びが……。

 その声に悠理の心臓がズキリと痛んだ。悠理は目の前の男性を知らない。でも、ルイ王子にとっては大切な人。だから、助けてあげたかった。ルイ王子のために……。それが原因で自分の本当の職業がバレてしまっても……。

 無力な自分を責めるルイ王子の手を、悠理はそっと握った。そして、ボロボロになったルイ王子の手に治癒魔法をかける。


「ッ……ぁ、ありがとう、ユウリ」


 ルイ王子は少し落ち着きを取り戻し、大人しく悠理の治癒を受けている。

 治療が完了した悠理は、ルイ王子の柔らかく、フワフワとした髪の毛をそっと撫でる。


「大丈夫、私があなたの苦しみをすべて取り除いてあげるから……」


 悠理は、ルイ王子に優しく微笑んだ。それを見たルイ王子の目が微かに見開かれる。


「ゆ、悠理……君は一体何をしようと……」


 不思議そうに首を傾げるルイ王子に、悠理は思わず笑みをこぼしてしまった。


「ふふ、見てて」


 悠理は自信に満ち溢れた声でそう言うと、床に寝せられている男性の隣に座った。途端、血の鉄臭い匂いが鼻をついてくる。思わず鼻をつまみたくなる衝動に駆られながらも、男性の患部に手を当てる。生暖かい血が手に付着するのが分かった。


「我は“女神の加護”を受けし者。慈悲深い女神よ、我に力を貸したまえ」


 脳内に浮かぶ言葉をそのまま口に出して唱えた途端、男性の患部を眩い光が包み込む。光は変形し、腕のような形を取り始め、光がおさまるとそこには先ほどまで無かった男性の腕があった。


「な、なんてことだ……」


「……私は夢でも見ているのだろうか?」


「あ、有り得ない」


 傍観していた医者たちから驚きの声が上がる。それもそのはず、この世界で欠損した腕を再生させるような、常識外れの魔法は存在していないからだ。

 腕まで再生してしまったことに悠理自身も驚きを隠せない。

 ただ止血できればいいかな? と思って施したつもりだったのだが……どうやら、それ以上の効力を発揮してしまったようだ。

 これが聖女としての資質なのか、それとも女神の加護の影響なのか、当事者である悠理自身にも分からない。ただ言えること、それは自分の力が異常だということだ。

 普通だったら「チート来たぁぁぁああ!!」と喜ぶところなのだが、全く喜べる状況ではない。

 その場にいた誰もが悠理に怪訝の目を向けてきた。


「ユウリ……一体君は何を?」


 ルイ王子が悠理に問いかけてくる。


「た、ただ、この人を助けたかった、だけで……」


 このとき悠理は、ルイ王子の顔を見るのが怖かった。もしルイ王子が彼らみたいな目で自分を見ていたら……。そう思うと、怖くて自然と視線が下に落ちてしまう。


「……ユウリ……どうして顔を上げてくれないの?」


 いきなり悠理の顎にルイ王子の手を触れたかと思いきや、強引に顔を上げさせられる。すると、悠理の視界いっぱいにルイ王子の顔が飛び込んでくる。


「あ……」


 ルイ王子は……笑っていた。とても嬉しそうに……。


「ユウリ、ありがとう。私の大切な人を救ってくれて」


 ルイ王子にそう言われたとき、悠理はどこかホッとする。

 同時に悠理の中の緊張の糸がプツンと切れた。そして、身体中から力が抜け、悠理はその場に崩れ落ちた。それをルイ王子が慌てて抱き止める。


「…本当に……ありがとう。流石私の選んだ人……」


 気を失った悠理を腕におさめ、ルイ王子はそうポツリと呟いた。



 

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