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3話



 悠理はルイ王子に引っ張られるようにして、三年六組の生徒たちの前に出た。ドナドナされる子羊の気分だ。

 前に出ると凄まじいほどの殺人光線が悠理に放たれた。鉄の壁すらも射通しそうな鋭い視線に、胃がキリキリする。

 それ以上に居た堪れないのが、ルイ王子と仲良く手と手を繋いでいるというこの状況である。

 それもただの繋ぎ方ではない。

 世にいう“恋人繋ぎ”というものだ。

 ちなみに恋人繋ぎとは、お互いの五本の指を交互に絡め合って、普通の繋ぎ方よりさらに密着度がアップする恋人ならではの繋ぎ方である。

 それをどうして恋人ではないルイ王子としているのだろうか? 

 悠理の視線が、ルイ王子の顔と繋がれた手を行ったり来たりする。


「あ、あの、ルイ王子、この手は?」


 悠理がそう問いかけると、ルイ王子は花が綻ぶかのようにして笑う。


「この手を離したら、悠理、逃げるでしょう?」


「なっ!?」


 満面の笑みを浮かべるルイ王子に、動機が早まり、血が上って頬が染まっていくのが自分で分かった。

 試しにルイ王子の手を振りほどこうとするが、先ほどよりも強く握られてしまう。


「……ダメだよ」


「ッ……」


 手を振りほどこうとする悠理に、ルイ王子が耳元でそっと囁いてくる。

 そのとき、ルイ王子の柔らかい髪が悠理の頬を掠め、甘い息が耳に吹きかけられる。その瞬間、背筋に震えが走った。

 一方で周囲は、イケメンに地味でブスな女というかなりシュールな光景に固まっている。


「ルイ殿下、まだ説明することが残っていますので、静かにしていてください。ユウリ殿も」


 レオンがピシャリと言い放つ。ルイ王子のせいで、悠理もそのとばっちりを受ける羽目となった……が、おかげでルイ王子の手を離すことに成功したのである。


「──以上で訓練についての説明は終わります。これから、訓練に移りますので、担当の訓練官の指示に従って行動してください」


 説明が終わり、三年六組の生徒たちは訓練官の指示に従い、それぞれの訓練へと移っていく。


 すみません。全く話に集中することができませんでした。話を真面目に聞こうとはしたのですが、隣の人がちょくちょく邪魔してくるんです。

 髪や手など悠理の体のどこかしらを触ってこようとするルイ王子に、気が散ってしまい、話どころではなかった。


 それから悠理も訓練に移るため、ルイ王子の後を追いかける。

 そのとき、三年六組の女子生徒達が呟いていることを偶然にも耳にしてしまい、悠理は思わず足を止めた。


「マジで有り得ない~~、ルイ王子がブス専だったなんて。凄くショック~~」


「それ、わかる~~。麻里さんならまだわかるけど、あの地味子でしょう?」


「ないわ~」


「きっと物珍しかったのよ。そのうち飽きるんじゃない?」


「絶対にそうよね!!」


 彼女たちの会話に、悠理は心臓を鷲掴みされたかのような感覚に陥った。

 自分のせいでルイ王子が悪く言われているのだ。悠理だってルイ王子のイメージを悪くしてまで一緒にいたいとは思っていない。友達は欲しい、けど……


「ユウリ、どうしたの?」


 突然立ち止まった悠理にルイ王子は、足を止めて振り返った。


「……あの、ルイ王子」


 悠理は意を決してルイ王子に言うことにした。「私はあなたといたくありません」と。


「わ、私」


「あんなの気にしないで。私は何を言われても平気だから」


「……え?」


 安心させようと笑みを浮かべるルイ王子に、ドクンと心が鳴る。


「……どうして私がユウリを選んだと思う?」


 真っ直ぐに悠理の目を見つめ、ルイ王子はそう問いかけてきた。


「そ、それは……私がいじめられていたから?」


「それは違うよ。誰かが私に囁いたんだ。ユウリを選べ、と」


「え?」


 ルイ王子の言っていることが分からず、悠理は怪訝そうに首を傾げた。


「どうしてユウリや残りの二人にお世話係とは別の担当者をつけたと思う?」


「うーん……分からない」


「それはね、この国から逃さないためだよ。悠理の職業は魔法使いだったけど、残りの二人の職業は勇者と聖職者。勇者は国の光となり、聖職者は汚れた地を浄化することができる。彼らの職業は、この国にいる多くの人々を救うだろう。だから、私たち王族は、彼らを逃さないためにお世話係とは別の担当者をつけるんだ」


 ルイ王子の話を聞きながら、納得する一方で悠理の脳内に?マークが浮かんだ。


 どうしてルイ王子が魔法使いの自分を選んだのだろう。仮にもルイ王子は一国の王子様だ。次期国王になるかもしれない彼が、聖職者の姫川麻里ではなく、魔法使いの悠理を選ぶことができるのだろうか?


「どうして私を? 私、魔法使いなんだよ……」


「まあ、それなりには反対されたよ。それに悠理って何か隠しているよね? それもかなり重要なことを。私の勘はとても当たるんだ」


 ルイ王子は悠理と目を合わせながら言った。


「へ? な、なんのこと?」


 ルイ王子からの突然の不意打ちに、悠理は戸惑いを隠せない。


「まあ、今はいいよ。そのうち話してもらうから。取り敢えず、今は訓練をしようか?」


 そのまま悠理は、ルイ王子につれられて訓練所に向かった。しかも悠理が迷子にならないように、とルイ王子と手を繋ぎながら……。

 そして辿りついた訓練所には、悠理とルイ王子以外、誰一人としていなかった。つまり、悠理とルイ王子だけの貸し切り訓練所だったのである。


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