29話
空高く見た魔物の大群は、想像を絶するものだった。
魔物の大群が空を覆い尽くしている。
「……嘘よ。あんなの無理……」
「思っていたよりも多いですね! 倒し甲斐があります!!」
『すご~~い!!』
空を真っ黒に覆い尽くす魔物の大群に、姫川麻里は絶望している。これが普通の反応である。一方の悠理とルージャは、明らかにワクワクしている、といった反応だ。
「どうやって倒そうかな? そうだ!! 合成魔法でバチバチと丸焦げにするのがいいかも!!」
『ユウリの意見に賛成!!』
「なんだこの会話は……全くついていけないんですけど……」
呆れたような目を向けてくる姫川麻里を無視して、悠理は天に向かって手を掲げる。そんな悠理の耳元に、女性の声が囁く。
『我らもそなたに力を貸そう』
「女神様……ありがとうございます!」
悠理はそう言って、自分の掌に魔力を籠める。
『稲妻よ!!』
悠理がそう言い放ったその瞬間、魔物の大群に一筋の稲妻が走った。
それは天翔ける竜のごとく、空を埋め尽くす魔物達を一掃していく。
「綺麗……」
姫川麻里がその光景に思わず呟く。
「ふふ、ありがとう。そうだ!! もう一匹増やそうかな?」
悠理はそう言って、空にもう一匹の竜を放つ。
『わあ~~!! ユウリ、凄~~い!! もっと何かして~~!!』
尻尾をブンブンと振るルージャのために、悠理はもう一踏ん張りする。
「そうね……タイフーンでも起こしてみようかしら?」
「え? タ、タイフーン?」
「うん!! タイフーンならあの真っ黒な空をお掃除することができるでしょう?」
「……あなたって稲妻だけじゃなくて……タイフーンまで起こせるっていうの?」
かなりドン引きした目で悠理を見てくる姫川麻里。
「分からない。でもやってみる!!」
悠理はそう言って、再び手に魔力を籠めていく。
『タイフーン!!』
その瞬間、魔物の大群中央に風の渦が出現する。
「…嘘、でしょう……」
『ユウリ、凄~~い!! 魔物がどんどん吸い込まれていくよ~~!!』
目を爛々としてその光景をみるルージャ。どうやら気に入ってくれたようだ。
「ふふ、ありがとう」
悠理がそう言った時だった。目の前に黒い渦が出現する。
「よくも私の可愛い子達を……」
おっと……相当お怒りのようだ。
「嘘……あれって王妃様じゃないの?」
姫川麻里が悠理の耳元で耳打ちしてくる。
「うん、そうよ。あれの元の姿が王妃様。今は……私の敵よ」
最後の辺りで悠理の声が低くなる。
「お前だけは許さない。私の大切な子達を奪ったお前だけは!!」
「へぇ? 自分のやろうとしていたことは棚に上げるんだ? いいよ、私もあなただけは許すつもりなんて毛頭ないから」
「人間のくせに生意気なッ!!」
王妃が悠理に向けて火の玉を投げつける。それを悠理は簡単に避ける。
「消すまででもないよね……避けるだけで十分」
悠理の口元が歪む。
「私をバカにしおって! これならどうかしら!!」
王妃はそう言って、自分の手にドス黒い魔力を籠める。まるでこの世の闇だけを集めた魔力球に悠理の整った眉が歪む。
「ふふ、これをあなたが避けたら……王都に飛んでいくかもしれないわね? そしたら、そこにいる全ての命が病に蝕まれるわ!!」
愉快そうに話す王妃に悠理の顔から、表情が消えた。
「私がルイの大切なものを守る。それが、ルイへの恩返しだから……」
「何をゴチャゴチャ言っているのかしら!! 命乞いしたってもう遅いわ!!」
王妃が悠理に向けて闇の魔力球を放つ。それは物凄いスピードで悠理に向かって飛んでいく。
「いいことを教えて上げる……」
悠理はそう言って、王妃の放った魔力球を掴んだ。
「私に敵うものなど、神を除いてこの異世界にはいないの」
悠理は魔力球を手で握り潰した。
「う、嘘……」
王妃の瞳に恐怖が宿る。
「ルイのお母さんを殺したのは王妃様でしょう?」
「ッ……あの女が悪いのよ! 私の大切な人を奪うから!!」
「奪う? あなたが彼らの間に割り込んできたんでしょう。奪われた、じゃなくて邪魔したの間違いだわ」
悠理の口元に笑みが浮かぶ。
「ち、違うわ!! 私とディオス様は結ばれる運命だったの! それをあの女が割り込んできたんだわ!」
「うるさいな……最後に言い残すことはある? あなたがこの世界にいたら、ルイが安心して眠れない」
「し、死んでたまるか!! 私は、私は!!」
「みっともないよ。大人しくあの世でルイのお母さんに謝って頂戴」
悠理はそう言って、光の鉄槌を天空から召喚した。
「バ、バカな……どうして魔法使い風情のあなたが『神の鉄槌』を……」
「ふふ、そうだね。最後にいいことを教えてあげる。私は魔法使いではない、聖女よ」
悠理のその言葉を最後にして、王妃に鉄槌が落とされた。
その鉄槌は、王妃だけではなく、王妃の召喚した魔物達さえも飲み込んでいく。
そうして、悠理は無事に魔物の駆除を終えたのである。




