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25話



「今すぐルイ様から離れなさい、この泥棒猫!! ルイ様があなたみたいな庶民のことを好きになるわけがないじゃない!! 己の身の程くらい弁えたらどうなのよ!!」


 女性はそう言って、悠理の右頬に平手打ちをする。


 その途端、乾いた音が辺りに鳴り響いた。


 ……え? 何これ?



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 



 事の発端が起きる二週間前、王城をルージャと散策している悠理の目の前に王妃が突然現れた。


「あら? どうしてこんなところにドブネズミが紛れ込んでいるのかしら?」


「……」


 悠理を“ドブネズミ”呼ばわりする王妃。


 ……正直言ってどうでもいい。


 無反応の悠理を見て、不機嫌になる王妃。


「ふん、見ていなさい。あなたなんてすぐにこのお城から追い出してやるんだから!」


 捨て台詞を吐いて、悠理の目の前から去っていく王妃。


 それを悠理は、感情の灯っていない目で見つめていた。


 王妃は悠理が聖女であることを知らない。もし聖女だと知っていたら、こんなことを言えるはずがない。なぜなら聖女は神話級の存在なのだから……。


 もし悠理がディオスやルイに王妃に“ドブネズミ”呼ばわりされたことをチクっていたら、逆に王妃がこのお城から追い出されていたことだろう。国家の反逆罪という重い罪で……。


 今回、王妃は運が良かった。なぜなら、悠理が王妃に対して無関心だったからだ。


 だからディオスやルイにチクろうという考えなど思いつきもしなかった。


 そんなある日、事件が起きた。なんと王妃がルイの婚約者候補として国王の了承なく自分の兄の娘を、王城に呼びつけたのだ。


 もちろん、ルイは大激怒。今にも王妃を斬り殺しそうなオーラを放っていた。


 そして、悠理は王妃の勝手な命令で部屋を移されることとなった。


 引越しを命じられた部屋は、先代の王の愛妾達が使っていた部屋だった。


 王宮の実権は、王妃の手の中にある。いくらルイといえど、王妃の命令に逆らうことができなかったのだ。


 それから悠理とルイは、離れ離れになった。


 流石の王妃も神獣の願いを無下に断ることができず、ノーラとルージャのみが悠理の部屋に入室することが決まった。


 そんな悠理には一つだけ楽しみがある。ルイとの手紙の交換である。

 ルージャが王妃にバレないように、悠理とルイの手紙の仲介を申し出てくれたのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ユウリへ


 本当にすまない。私が不甲斐ないばかりに。

 必ずユウリをそこから助け出してみせる。だから、もう少しだけ待っていてほしい。


 早くユウリに会いたい。ユウリの笑顔が見たい。ユウリをきつく抱きしめたい。

 こんなことを言ったら、あなたはまた照れてしまうのだろうけど……。


 必ず迎えにいく。byルイ


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ルイの手紙を持つ自分の手が震える。会いたくてたまらない。

 一度だけノーラに自分の正体をバラせばまるくおさまるのでないか? と尋ねてみたことがある。しかしノーラは全力で反対をしてきた。そんなことをしたら、悠理はハルス王子と無理矢理婚約させられてしまうかとしれない、と。下手したら、殺されるだろう、と。


 悠理は胸が張り裂けそうになった。死んだらルイに会えなくなる。それが悠理にとってとても辛いことだった。

 だから悠理は決心する。絶対にルイが助けにくるまで耐えてやると。


 一方のルイは、王妃が呼びつけたご令嬢の相手で、精神が少しずつすり減っていた。


 悠理に会いたくても王妃やその令嬢が邪魔をしてくる。


 悠理の正体を知らはずがない侍女達は、王妃に嫌われたくないからという理由で悠理をこぞっていじめる。


 その報告がルイの下に届くたびに自分の視界が真っ黒になっていく。


 そんなルイにとって唯一の助けだったのが、悠理からの手紙だった。


 そして今日もルイは悠理からの手紙を読む。


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ルイへ


 私のことは気にしないでください。といってもルイのことだから、とても心配してくれるのでしょうね。


 ルイに会いたいという気持ちが日に日に強くなっていきます。こんなことを言ってもルイを困らせてしまうだけですよね。弱音を吐いてしまって、ごめんなさい。


 ルイが頑張ってくれているのだから、私も頑張りたいと思います。by悠理


~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ルイの頬から一筋の涙が伝った。こんなにも悠理から離れることが苦しいとは思いにもよらなかった。


 報告によると、悠理は気丈に振る舞っているものの、日に日に顔色が悪くなってきているらしい。


 どうして王妃は自分から大切なものを奪っていくのだろう。そこまで私のことが憎いのだろうか? それをどうして私だけではなく、悠理まで傷つけるのだろうか?


 そして、ルイはポツリと呟く。


「どうして自分はこんなにも無力なんだ」と。


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