24話(視点:ルイ・アルフォード)
[視点:ルイ・アルフォード]
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう……。
私は猛烈に反省していると共に、酷い後悔に苛まれていた。
悠理に「暴力を振るう人は嫌い」と言われてしまった……。
あのときは私の視界は真っ黒に染まった。
今まで悠理に近づく男共に酷く嫉妬する自分がいた。
抑えろ抑えろと思っていても、つい感情が表に出てしまう。
こんなことをしていたら、いつか悠理に嫌われてしまうかもしれない。呆れられてしまうかもしれない。そんなことばかりを考えていた。
そして今日、悠理に『嫌いになるよ』発言をされてしまった。
一体私はどうすればいいんだ!!
「ルイ殿下、一先ずユウリ殿に謝れてはいかがでしょうか?」
レオンが私にそう提案する。
「謝るか……一体どんな顔をしてユウリに謝ればいいんだ……」
ユウリに逃げられたら……この世の絶望だ。ユウリがいない世界なんて破滅すればいい。そんな馬鹿げた考えさえも頭によぎる。
今私は、相当弱っていると思う……。
いつもなら負けないはずのルージャにも負けてしまうかもしれないレベルに……。
そんなことを考えていたら、いつの間にか日が暮れていた。
今日悠理に謝ることはできないだろう。
若干涙目になりながらも執務室から廊下に出たとき、私は予想外の光景を目にした。
どうして……。
なんと執務室の扉近くの壁に悠理とルージャが寄り添うようにして眠っていたのだ。
私は夢でも見ているのだろうか?
思わず自分の目を疑いたくなった。
気持ち良さそうに眠る悠理の頬に自分の手をそわせる。すると、悠理は無意識に私の手に自分の頬を擦り寄せてきた。
ああ、抱きしめたい。
そんな自分の邪な気持ちと戦う。
悠理は自分の容姿にかなり自信がないのか、いつも自分のことを貶す。
それを否定しなければならないと思いながらも、何も言うことができない自分。
もし悠理が自分の容姿が他人よりも遥かに優れていることに気付き、男共に色目を使うようになったらどうしようかと考えてしまうからだ。
愛しているこそ、自分の腕の中に閉じ込めておきたい。そんな自分勝手な思いに囚われそうになり、つい悠理を自分に縛り付けておきたくなる。
ふと悠理の手に触れる。
そして、悠理の爪先が僅かに冷たくなっていることに気づく。
「……ルージャ、起きろ」
私が静かにルージャ呼びかけると、ルージャは眠そうにしながらも目を開ける。
『ん? ルイ、お仕事終わったの?』
「ああ……それでどうして悠理とお前がこんな寒いところにいるんだ?」
『ユウリがルイに謝りたいと言ったんだ。でも、ルイの仕事を邪魔したくないからって終わるまで待っていたんだよ』
ルージャの話を聞いたとき、私の内側から何かが込み上げてくる。
こんな寒い廊下で私の仕事が終わるまで待っていてくれたなんて……。
申し訳ない気持ちと一緒に発狂しそうなぐらいの歓喜が、私の心の中でグチャグチャに混ざり合う。
「ルージャ、ユウリを見ていてくれてありがとう。あとは部屋で休んでいい。ユウリは私が寝室に運ぶ」
『うん、分かった。僕は眠いから寝る……』
ルージャは若干寝ぼけながら、フラフラとおぼつかない足取りで自分の部屋へと帰っていった。
残された私は、眠っている悠理の身体を横抱きにしてそっと立ち上がる。
いつも悠理を抱き上げていて思うことなのだが……とても軽い。ちゃんとご飯を食べているのか心配になる。
それ以上に今自分の腕の中で寝ている悠理に何もできないことがこんなにも辛いなんて!?
神様は、私の理性を試しているのだろうか? なんて残酷なんだ。
好きな子が自分の腕で寝ているのに手を出すことができないこのもどかしさ……自分はこれに耐えられるのだろうか?
……これが世にいう生殺しか……世の男共はよく耐えているな。そこだけは尊敬に値する。
私は、心の底から溜息をついたのである。




