23話
ルイの見事な右フックが決まったことで、レクラールはその場に崩れ落ちた。
「お前が触れたことで、ユウリが妊娠したらどうするんだよ! ユウリ、この男に何もされていないよね?」
ルイが悠理の顔を心配そうに見つめてくる。
触られたぐらいで、人は妊娠しません! ある工程(新しい命を授かるために必要なこと)を踏まなければ、人が妊娠することは決して有り得ませんからね!! と悠理は心の中で叫んでおく。
「右手首を掴まれただけだよ」
「あいつ、馬鹿力だからユウリの右手首、折れてないよね?」
ルイはそう言って、ユウリの右手首を手に取る。
「あーー! 赤くなってる!! この変態従兄弟め!」
ルイはズカズカとレクラールに近づき、地面にのびるレクラールを踏みつける。
悠理はそれをただ呆然として見つめていた。
止める? 嫌です。流石の私も燃え盛る炎の中に飛び込むほど、馬鹿ではありませんから。
「ル、ルイ殿下!!」
おっとここで一人のバカ……失礼勇者が登場しました!!
魔王に向かって突き進んでいきます!!
「レオンか? この変態従兄弟がユウリの手首に痣を作ったんだ!!」
ルイ(魔王)がレオン(勇者)に言い訳をします!!
「それは誠ですか!? 許しません!」
ん? おっとここでレオン(勇者)がルイ(魔王)側に翻りました! どうやらルイ(魔王)とレオン(勇者)は手を結んだようです。
レオンがレクラールに決め技を発動させました。
レクラールは「ギブギブ」と喚いています。
あ、白目を剥いている……。
流石にこれ以上傍観しているのはよくないと思った。
「ルイにレオン君、私暴力を振るう人は嫌いです!!」
悠理がそう言うと、ルイの顔色が真っ白になる。レオン君はというといじけて、地面を木の棒でグリグリと掘っていた。
予想を遥かに超えた効果があったようだ。
「ユウリ、私のことが嫌いになるなんて嘘だよね? 以前あんなことをしてくれたのに……」
ちょっと待てぃ!! そこの美少年、その麗しき顔で誤解を生むようなことを言うのではない! ほら見ろ、皆の顔が赤くなっているではないか!!
「ルイ殿下、それは大変めでたいことですね……え、えーと、その…おめでとうございます」
そこの爽やかイケメン、勝手に話を進めないで!!
「ちぇ、ルイの女かよ。そんな女に手出せるわけないだろう。流石の俺でも命が何個あっても足りねぇわ」
そこのワイルドイケメンも変な妄想しないで!!
「ユウリが嫌いって言っても絶対に離れないから!」
ルイはそう言って、王城の庭から去っていった。
「……一体これは何?」
悠理の呟きがやけに響いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
悠理は、今ルイの執務室前の廊下でひたすら考え込んでいた。
一体自分はどうすればいいのだろう、と。
取り敢えず勢いでルイの執務室前まで来たのはいいものの、次のことが思いつかない。
もしルイが中でお仕事をしていたら、どうしよう。そう思うと中々一歩が踏み出せない。
悠理は仕方なく、その場に腰掛ける。そして、ひたすら待つことにした。
それから1時間が経過する。
『ユウリ、いつまで待つの?』
ルージャが悠理に問いかけてくる。
「ルイが出てくるまで待つつもり。ルージャ、付き合わせてごめんね。先に部屋に戻っていてもいいよ?」
『ユウリを一人にするわけにいかないから、待つことにする』
「ありがとう」
悠理はそう言って、ルージャの身体に身を寄せる。
ルイが部屋から出てくる雰囲気は、一切感じられない。
それでも悠理とルージャは待ち続けた。
ルイの仕事の邪魔をしたくなかったからだ。
多分加賀美浩介の取り巻き達が王城から消えたのは、ルイが何かをしたからだろう。それも悠理のために……。
だから、悠理もなるべくルイに迷惑をかけたくない。
ルイからは実に多くのものを貰った。返し切れないほどのものを……。
その恩を少しずつでもいいから返していきたい。
「……ルイ、まだかな……」
日が暮れてきた成果、先ほどよりも廊下の気温が下がった気がする。ルージャの体温が高いおかげで、そこまで寒いとは感じない。
「ん……」
悠理を睡魔が襲ってきた。
「少しぐらい寝ても…大丈夫、だよね?」
悠理はそのまま深い眠りについていた。




