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20話



「調子に乗ってんじゃないわよ!」


 ノーラさんと王城を散策していると、目の前に加賀美浩介の取り巻き達が立ちはばかる。

 ルイ王子はディオス国王の執務の補佐をしなければならないらしく、今日の訓練はお休みになった。


 え? 調子に乗ってる?


 悠理の反応が気に食わなかったのか、取り巻き達が悠理を取り囲む。

 人数がやけに多いなと思ったら、どうやら取り巻き達の他にも数名いるようだ。取り巻きお世話係だろうか?


「あの、道を開けてくれませんか?」


 ノーラさんが道を塞ぐ取り巻きの一人に言う。


「なによ、あんた。私たちの邪魔をするつもり?」


 取り巻き達の攻撃対象が悠理からノーラに移る。


「私はユウリ様のお世話係です!」


「お世話係風情が私達の邪魔をしないでくれる? この女のせいで姫川さんが悲しい思いをしているのよ! さっさとルイ様の前から消えなさいよ!! あんた邪魔なのよ!」


 姫川さんが泣いた? どうしてそれが私のせいになるの? 


 どうしてルイの前から消えないとダメなの? 私が邪魔者だから?


「どうして、ですか? 私はルイから離れたくないです」


 悠理は、自分の気持ちを素直に述べた。


「ちょっとぐらい可愛くなったからって調子に乗ってるんじゃないの? そうだ!!」


 取り巻きCが自分の手に風魔法を発動させる。


「ふふ、あんたの髪うざいからこれで切ってあげるわ。大丈夫、コントロールには自信あるの」


 その取り巻きCの風魔法が悠理に放たれる。


「あ、ヤバイ!」


 それは軌道を外し、ノーラさんに真っ直ぐと向かう。


「あ、危ない!」


 悠理は咄嗟にノーラさんを庇った。その瞬間、悠理の背中に強い痛みが走る。


「ッ……」


 取り巻きCが放った風魔法が、悠理の背中を抉ったのだ。

 悠理の背中の傷から血が流れ出る。目眩を覚えた悠理は、その場に倒れ込む。


「ユウリ様! ユウリ様!! 誰か! 誰か治療師を呼んでください!!」


 ノーラさんの悲鳴が朦朧とする悠理の耳に届く。


「あ、あなたが悪いのよ! 私達の言うことを聞かないから!!」


 取り巻き達が蜘蛛の子のように散っていく。


 そんなの、知るか……。私は誰になんと言われようが、ルイと一緒にいたい。自分が身の程知らずなのは分かっている。それでも……ルイが許してくれる限り一緒にいたいと願ってしまった。


「ユウリ様ユウリ様! 目を瞑ってはいけません!!」


 ノーラさんが悠理の頬をペチペチと叩いてくる。ノーラさんの顔は涙でグチャグチャになっていた。


「泣かないで、ください。私は大丈夫、ですから……」


「どうして、どうして私のことを庇ったんですか!!」


「どうして、って……理由、いりますか?」


 ノーラさんは悠理のお世話係で、こんな自分に優しく接してくれた一人だ。ただそれだけ……それでも悠理にとっては十分な理由だった。


「ユウリ様は、馬鹿です!!」


「……馬鹿?」


「そうです! 本当だったら私が身を呈してユウリ様を守るところだったんです! なのに、なのに!!」


「ふふ……じゃあ次は…ノーラさんに、守って、もらいます…ね……」


 悠理はそう言って気を失った。



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



「──殿下! ルイ殿下はいらっしゃいますか!?」


 ルイ王子専用の執務室に一人の騎士が駆け込んでくる。


「ん? 何かあったのか?」


 ルイ王子は筆を走らせるのを止め、騎士に目を向ける。


「ユウリ様が、傷を負いました!!」


「な、何!?」


 騎士の報告にルイ王子の視界が真っ黒になる。


 一体ユウリに何が起きた!?


「どうやらユウリ様がお庭を散策してるときに……」


 騎士は目を彷徨わせた。


「言え」


「は、はい! 聞いた話によると、ご学友の放った風魔法がユウリ様の背中に直撃したらしく……」


「分かった。今からユウリの下に行く。それと……そのご学友とやらを私の執務室に連れてこい。この件に関わった者、全てだ!! 暴れる者は……牢屋にぶち込め」


 ルイ王子は声を荒げだ。

 いつも笑みを絶えさないルイ王子の目に宿るのは怒り。

 ルイ王子のただならぬ雰囲気を感じ取った騎士は、大きく返事をし、執務室から飛び出すかのように退室する。


「ルイ殿下……ユウリ殿は無事でしょうか?」


 ルイ王子のそばに控えていたレオンがそう言う。


「分からない。だが、ユウリを傷つけた者をただで許すつもりはない。それとルージャを呼んでこい」


「神獣様をですか? そう言えば、どこにいるんですか?」


「……私の部屋でのびている……」


 レオンは今自分の耳を疑った。神獣様がのびている? 一体ルイ王子は、神獣様に何をしているのだ。


「わ、分かりました」


 世の中には知らなくてもいいことがたくさんある。これもその一つだろう。


「ユウリ、待ってて……」


 ルイ王子はそう呟き、自分の執務室を後にした。


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