閑話6:秘密会議
満月が照らす静かな夜、ファンゼル国の重臣達がディオスの執務室に集っていた。
メンバーは、ディオス国王とゼノン騎士団長、そしてファンゼル国の宰相である。
「今日は、ルイ殿下の婚約者決めについての会議です。陛下は、どのようにお考えになられていますか?」
ファンゼル国の宰相がディオス国王に問いかける。
「私は…ルイの気持ちを尊重するつもりだ」
「しかし、それでは……」
「分かっておる。現に王妃は、ハルスの婚約者を決めたようだ」
「……一体どこの令嬢をハルス殿の婚約者に?」
ゼノンがディオス国王に問いかける。
「多分だが……ヒメカワマリという異世界人だ」
「た、確かヒメカワマリは、聖職者の異世界人であっていますか?」
ディオス国王に問い詰める宰相の顔が真っ青になる。
「ああ、そしてオーリアの婿に勇者の異世界人を迎え入れるつもりらしい」
「な、なんですと!? そ、それでは王妃の権力が強まってしまうではないですか!! 聖職者では飽き足らず、勇者までを取り込むというのか!!」
「まあ、そういうことになるな」
ディオス国王は、切羽詰まる宰相とは違い、穏やかな顔で宰相の考えに同意する。
「宰相殿、取り敢えず落ち着け」
ゼノンが宰相を落ち着かせようと紅茶を進めた。
「そうですね……ってどうしてそんなに落ち着いていられるですか!? これではルイ殿下の王位継承権が奪われてしまうかもしれないんですよ!!」
宰相が目の前の二人に熱弁をふるう。
「何を言っている。ルイには神獣様がついているではないか」
そんな真剣な表情で訴える宰相を無視して、ディオス国王は優雅に紅茶を飲む。
「そうですよ。それにルイ殿下には実に頼もしいお方がついています」
ゼノンもディオス国王に習い、優雅に紅茶を飲み干す。
「頼もしい方? それは誰です?」
「ふふ、聞きたいか?」
ディオス国王が宰相を焦らす。
「ええ、是非ともその方の名を聞きたいです」
「ゼノン、どうしようか?」
「そうですね……」
ディオス国王に問いかけられたゼノンは、顎に手をあて「ふむ」と考え始める。
「……宰相殿になら、話していいかと。そうじゃない迷った挙句、他国の王女をルイ殿下の婚約者に勧めてきそうですし…」
「……こやつならやりかねないな……」
ファンゼル国の宰相は頑固者だが、外交術にとても優れている。そのため、他国の王女をルイ王子の婚約者として確保してくることなど、この宰相にとっては造作もないことだった。
「ルイの最強の味方は、ユウリちゃんだよ」
「ユウリ、ちゃん? 確か、異世界人の魔法使いですよね?」
「ああ、ユウリちゃんなら我ら王族にさえも匹敵する……逆に我々がユウリちゃんに劣るかもな」
ディオス国王は苦笑いをする。
「たかが魔法使いに王族が劣るですと? 何を馬鹿げたことを言っているんですか……」
宰相は、呆れ顔でディオス国王とゼノン騎士団長にそう言った。
「宰相殿、これは本当のことですよ。もしユウリ殿が魔法使いではなかったとしたら、どうしますか?」
ディオス国王の言っていることを全く信じようとしない宰相に、ゼノンはニヤリと笑った。
「……ゼノン騎士団長、あなたの言っている意味が分かりません」
「それもそうですね。私も最初は自分の耳を疑いましたから」
ゼノンは悠理の本当の正体を知ったとき、夢を見ているのではないかと思った。
「耳を疑うほど、ですか?」
「宰相よ、ユウリちゃんは聖女なのだ」
「聖女なのですか……え? 今なんと?」
宰相は自分の耳を疑った。
「だから、ユウリちゃんは聖女なんだよ。魔の森の瘴気が消えた理由は、ユウリちゃんが魔の森全土に結界魔法を張ったからだ」
「せ、聖女……あ、有り得ない。聖女は物語にしか登場しない存在ですよ!」
興奮気味の宰相は、鼻息を荒くしながらディオス国王に詰め寄った。
「私もそう思っていた。しかし、ルイが言ったんだ。ユウリちゃんは聖女なのだと。ルイは神の慈悲を持っている。だから、これは本当のことなんだろう」
「し、しかし、一応ルイ殿下の婚約候補は探しておいた方が……」
「そんなことしたら宰相はルイに殺されるかもしれないぞ。ルイのユウリちゃんへの執着は、そう簡単に止められるものではないぞ……ユウリちゃんが関わると私でさえも牙を向けてくるからな」
ディオス国王の顔が真っ青になる。
「そ、そんなにですか?」
「……私もディオス陛下の意見に同意します。ルイ殿下を刺激するのは得策ではありません」
「……分かりました。私もルイ殿下に嫌われたくはありませんので……」
宰相は渋々といったように頷いた。




