19話
お披露目会を無事に(と言えるのか?)終えることができた。
そして翌日、悠理はディオス様の執務室に呼ばれていた。
「ユウリ殿、私に合体魔法を見せてくれないかな?」
少年のようにキラキラした目でお願いしてくるディオス国王。
え? なんか怖いんですけど……。
「父上、ユウリが怖がっています」
すかさずルイ王子が、悠理とディオス国王の間に割って入る。
「あ…すまない。思わず探究心が刺激されてしまってな……」
どこか申し訳なさそうに謝ってくるディオス国王。
悠理は、ディオス国王になんか申し訳ないと思ってしまった。
「ディオス様、『クリーン』ならいつでも見せることができます、よ?」
悠理がそう提案すると、ディオス国王がズシズシと近付いてきて、悠理の手をガシッと握る。
「本当か、ユウリ殿!!」
嬉しそうに笑うディオス国王を振り払うこともできず、至近距離からのイケメン攻撃に固まっていると、ルイ王子が悠理とディオス国王を引き剥がす。
「父上! 悠理に触りすぎです!」
ルイ王子(不機嫌度MAX)は、そう言った。
そんなルイ王子を見たディオス国王は、ニヤニヤとする。
「ルイよ、心が狭い男は嫌われるぞ」
「なッ!?」
ディオス国王(人生の先輩)からのアドバイスに、ルイ王子は動揺する。
「ユ、ユウリなら、こんな私でもきっと受け入れてくれる……」
ちょ、ちょっとそこの人、流石の私も心が狭い人は……ハッ!? ルイ王子に向けてそんなこと言えるのか、私?
悠理の脳内に昨日の記憶が蘇る。
……何も言えない。ルイ王子よりも私の方が、心が狭いかも……ふ、複雑。
「ユウリ、さっきから黙ってどうしたの? もしかして……私のことを考えてる?」
悠理の耳元でそっと呟いてくるルイ王子。突然のことに思わず身震いしてしまった。
さ、さてはこの男、これを狙っていたな!? 油断も隙もない!!
悠理は、ルイ王子から逃れるためディオス国王の背後に身を隠した。
「……ユウリ殿?」
ディオス国王は、若干戸惑いながら悠理に問いかけてくる。
「ルイが意地悪するので、匿って下さい」
悠理は頬を膨らませながら、ディオス国王にそう告げた。
するとディオス国王は、とても嬉しそうな笑みを浮かべた。
「もし私に娘がいたら、こんな感じなのかな?」
「……え?」
よしよしと悠理の撫でてくるディオス国王。
あれ? 私、今この方に娘扱いされてる?
悠理は若干戸惑いながらもディオス国王に頭を撫でられる。
自然と悠理の口元に笑みが浮かんだ。
「ふふ、気持ち良いです」
悠理の頬が緩む。その途端、ディオス国王がこれでもかッ!? っていうぐらい目を見開いた。
「……ユウリ殿、試しに私のことを“お父さん”って呼んでくれないか?」
「へ?」
突然のディオス国王の要求に、悠理は呆けた声が出る。
「父上、ユウリが困っています。ん? 待てよ、どのみちユウリが私のお嫁さんになったら、そう呼ぶことになるのか?」
ルイ王子はブツブツと呟く。
そして結論に至ったのか、ルイ王子はうんと頷いた。
「ユウリ、私からもお願いするよ」
「ほらほら、ルイもこう言ってくれているんだから」
ルイの許可も得られ、ディオス国王が悠理に迫ってくる。
……これは呼んでいいのか? ディオス国王を『お父さん』と呼んでしまったら、なにか引き返すことができなくなりそうなんだけど……。
「ユウリ、はやく」
ルイ王子が悠理を急かす。
「え……えーと、お父さん?」
「か……」
か?
「可愛い!! ユウリちゃん、私の養子にならないかい?」
え? よ、養子? 王族の養子って、そう簡単になれるものなの?
それと呼び方がちゃん付けになってる……。
「父上!! 悠理が父上の養子になってしまったら、私のお嫁さんになれないでしょう!!」
ルイ王子、突っ込むところそこ!? もっと他にあるよね!?
「まあ、ユウリちゃんがルイのお嫁さんになれば全て解決するんだよね……」
ディオス国王は、どこか意味あり気な視線を悠理に送ってくる。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私、ルイは好きです。しかし、異世界人といえ、平民の私が王族であるルイと結婚するのは、身分的に問題があるんじゃないか?」
「ユウリ……」
真剣な話をしているというのに、蕩けるような笑みを向けてくるルイ王子。
「な、なんですか? 私、真剣な話をしているんですけど」
「今、初めて私のことを好きって言ってくれたよね?」
「……あ」
ルイ王子の指摘に、悠理は自分が盛大にやらかしたことに気がつく。
言うつもりなかったのに……ポロッと口から漏れてしまっただと!?
「あれあれ? ルイとユウリちゃんは両思いであってる?」
近所のおばさんのような顔をするディオス国王。
「今、悠理から言質を得ました。これで私とユウリは両思いです!」
待て待て~~!! ルイは好きだよ。でも異性となると……よく分からない。
誰かを好きになったことが一度もない悠理は、自分がルイに抱いている気持ちに戸惑いを覚える。
ルイが自分以外の女の子と喋っているのを見ると、胸の辺りがモヤモヤはする。
この感情は一体何?
「……私とルイでは、身分が釣り合いません」
こんなことを言いたいわけではないのに……自分の口が勝手動いてしまう。
「身分? ユウリちゃんなら大丈夫だよ」
「そうなんですか……へ?」
「ユウリは聖女なんだよ? それなら大丈夫」
王族と張り合うレベルって……聖女ってどのくらい尊い存在なのよ!!
「だから私はユウリの心の整理がつくまで気長に待つことにするよ。父上、それでいいかな?」
「うん、それならいいよ」
勝手に話を進めないで!! てか、なんでそんなに結婚話にノリノリなのよ!!
誰も悠理の心の叫びを聞くことはなかった。




