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18話



「ユウリ……それは、どうしたの?」


 ……恐れていた自体が起きました。魔王様が降臨しています。


 に、逃げたい……。


「ルイ様……私、悠理さんのドレスを汚してしまって……私、一体どうすればいいの……」


 女の武器である涙を惜しみなく流す姫川麻里。

 女の身である悠理でさえも守ってあげたいと思ってしまった。男であるルイ王子なら……。


「……」


 ……無反応?


「……ルイ様?」


 流石の姫川麻里も心配になったのか、呆然と立ち尽くすルイ王子の腕に自分の腕を巻きつける。


「ルイ、様?」


 あ、あれは上目遣い!?


 女の武器を最大限に活用する姫川麻里に感心しつつも、悠理の胸がチクリと痛んだ。


 そして「ルイに触らないで!」と言いそうになる自分の口を両手で必死に塞ぐ。


 ルイは悠理のものではないのだ。ルイが誰と一緒にいようが、それはルイの自由で、悠理の我儘でルイを縛り付けるわけにはいかない。


 唇を噛みしめ、どこか怯えた様子の悠理の姿を見た姫川麻里がクスリと笑う。そして、悠理に向かって口パクでこう告げた。


『この人は、私が貰ってあげる』と。


 途端、悠理の視界が真っ黒に染まる。


 一体私が彼女に何をしたというのだ? 彼女は私と違ってあらゆるものを手にしているのに、悠理の唯一の拠り所であるルイさえも奪うというのか……。


「──していただけませんか?」


「え……?」


「だから、その気色の悪い腕を離してくれないかと言ったんです!!」


 ルイ王子が姫川麻里の腕を払いのける。腕を払いのけられた姫川麻里は、床に無様に尻餅をついた。


「ど、どうして……」


 突然のことで状況が飲み込めていないのか、姫川麻里は呆然とルイ王子に問いかける。

 

「どうしてですか! その女よりも私の方が──」


「魅力的だと?」


「ッ……」


 ルイ王子は、嘲笑しながらそい言い放った。姫川麻里は図星だったのだろう、何も言い返すことができない。


「正直言わせていただきます。私から見たら、あなたは悠理に何一つ優っていない」


「う、嘘よ! 私の方が綺麗だわ!」


 なんとなく分かっていましたけど、実際に言われると胸にズシッてきますね。それにしても、自分の容姿を自画自賛できる人って凄いです。それぐらい自分の容姿に自信があるんでしょうね~~。


「……以前は、でしょう? 今のユウリは、あなたよりも遥かに美しい。私の心を掴んで離さないぐらいに……」


 悠理は、不意打ちのごとく言葉のパンチを食らった。

 どこぞのロマンチストが言うような台詞を、ルイ王子は恥ずかし気なく言い切ったのである。


「な……で、でも彼女の職業は魔法使いよ! 私の聖職者の方がこの国のためになるわ!」


「それが?」


「え……私の浄化の力はこの国のためになるじゃない! 現にも私のおかげで魔の森が瘴気が消えたんだから!」


 魔の森の瘴気が消えた真の事実を知る由もない姫川麻里は、堂々とそう言い切ってみせる。


「……だから? 私はどんなにあなたが浄化の力に優れていようが、ユウリを選ぶ」


「……私は、認めないわ! ルイ様にこんな女が相応しいはずなんてないんだから!!」


 姫川麻里はそう言って、会場から出て行った。その後ろをハルス王子が追う。


 こんなことになる前に姫川麻里の手綱をしっかりと握っておけよこの馬鹿王子、と思ったのは悠理だけではないだろう。


「ユウリ、すまない。一瞬目を離した隙にこんなことになるなんて思ってなくて……せっかくのドレスが台無しになってしまった」


「あ、それは多分大丈夫です」


 悠理はそう言って、自分の体に光を纏わせた。そして、静かに唱える。


『クリーン』と。


 これは悠理が勝手に編み出した水と風魔法の合体魔法である。この魔法一つでどんなしつこい汚れも落とすことができる。


 会場にいる全ての人の視線が、悠理に集まる。


「ユ、ユウリ、その魔法は何?」


「『クリーン』という水と風の合体魔法よ。ノーラさんが私の服を洗ってくれていたんだけど、大変そうだったから作ってみたの! 凄い?」


 悠理はこのとき、合体魔法などというものがこの世界に存在しないことを知らなかった。

 そんな未知な魔法を「楽したいから作ってみたの!!」といった雰囲気で、悠理は平然と言い切ったのである。


「す、凄い。私は今奇跡を()の当たりにしている!」


「が、合体魔法だと! 私は夢でも見ているのだろうか?」


「是非我が国に来て欲しいものだ」


 様々な声があちらこちらから上がる。


「え? 何これ?」


「ユウリ、大事なことを教えてあげる。この世界に合体魔法なんてものは、存在していないんだよ」


「……え?」


 悠理はその場に凍りついた。


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