10話
悠理の咄嗟の風魔法で、なんとか落ちるスピードを遅くしたものの、谷底の川の中へとドボン。
ルイ王子の背中から着水したため、悠理に着水の衝撃がほぼ無かった……が、一方、ルイ王子は着水の衝撃で気を失ってしまった。
それから悠理は、着水の衝撃で気を失っているルイ王子を抱え、なんとか川岸に移動。
そして現在に至る。
川岸にルイ王子を運んだ悠理は、風魔法で濡れた自分の衣服とルイ王子の衣服を乾かした。
そして、ルイ王子を仰向けにし、恐る恐るルイ王子の服をめくっていく。
気絶しているルイ王子を、悠理が襲っているようにしか見えない図だが、もちろん目的は違う。ルイ王子の背中を治療しようとしているのだ。襲うつもりなど、これぽっちもない。
「ぅ……」
ルイ王子の口から苦しそうな呻き声が漏れる。
「今、治療するから待ってて」
悠理はそう言って、ルイ王子の背中を触診する。
大事なのでもう一度言っておきます! 襲うつもりなどこれぽっちもありませんからね! これは診察です!
悠理は回復魔法を唱え、ルイ王子の背中の傷を癒していく。
傷が癒えていくのが分かったのか、ルイ王子の顔が微かに緩まった。
「……ユ、ウリ……」
ルイ王子が無意識に悠理の名を呼ぶ。
「ルイ、私はここにいるよ」
悠理はそう言って、ルイ王子の頭を優しく撫でた。
「ユウ、リ……」
ルイ王子は自分の頭を撫でる悠理の手を取り、自分の頬に当てる。
堪えるんだ、私。今ルイ王子は病人だ。無下に手を振り払ってしまっては……。
悠理はそう自分に言いきかせ、グッと歯をくいしばる。
「……ユウ、リ……どこにも、行かないで……」
ルイ王子はそう呟き、静かに意識を手放した。
「大丈夫、どこにも行かないよ」
悠理はそう言って、ルイ王子の頭をそっと自分の膝の上に乗せた。
これで少しはマシになるだろう。
それから悠理は、ずっとルイ王子乗せた頭を撫でていた。
少しでもルイ王子に安心して欲しかったからだ。自分はここにいるから、と。
そして、いつの間にか悠理は深い眠りについていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モフモフ。
悠理は、夢の中でモフモフに囲まれていた。
なんて気持ち良いのだろう。
『……おい……お主、起きぬか?』
モフモフが喋る。
「ぃゃ……もっと、寝る」
悠理は、惰眠を貪ろうと首を横に降る。
「……ユウ…リ……起きないと襲うよ?」
次はルイ王子の声が悠理の耳元で呟かれた。
甘く魅力的な声に聞き惚れそうになりながらも、すぐに我に返り悠理はガバッと身を起こした。
そこには美少年と犬(狼)二匹がいた。
「あれ? 私、夢でも見てるのかな?」
目の前の光景に頭が追いつかず、悠理は目を擦った。
『やっと起きたか……』
銀色の毛を持った狼がやれやれといったようにため息を吐く。
「ユウリ、大丈夫?」
「え……う、うん。大丈夫なんだけど……」
悠理は、さも当たり前かのようにいる犬二匹に戸惑いの視線を送る。
その視線に気がついたルイ王子は、苦笑いを浮かべた。
「どうやら、彼らは悠理に頼みがあるようなんだ」
「……私に頼み?」
不思議そうに首を傾げていると、白い狼が尻尾を激しく降りながら近づいてくる。
悠理は咄嗟に身構えてしまう。
『さっきはごめんなさい~~』
「え……あぁッ!? あの諦めの悪い狼!!」
『すまぬのう。そやつは私の息子ルージャ。そなたを私の下に連れてくるように命令したのだが……どうやら怖がらせてしまったようじゃ』
な、なんですとー!! てか、それは連れくるんじゃなくて一種の誘拐です!!
「そうだったのですか……」
悠理は爆発寸前の気持ちを必死に押し殺した。
こいつのせいで走らされるは、谷底に落ちるは……。
「……あれ? ここはどこ? さっきまで谷底にいたのに……」
『私がこいつに命じて、お主達を川岸から寝床まで運んでやったのじゃ』
ドヤ顔でそう言う銀狼の顔を、殴りつけたくなる衝動に駆られる悠理であった。
結局、殴りませんでした……。
モフモフを殴るとか……私には無理です! モフモフは殴るのではなく、愛でるべき、世界中の癒し存在なのですから。
こちらの投稿が遅れてしまい、すみません!!




