プロローグ
東雲悠理は、とにかく地味な女子高校生である。
教室では空気のような存在で、いてもいなくてもどうでもいい、そんなキャラだ。
「地味子~、ここの宿題教えて~」
「地味子って、本当に目立たないよね~」
クラスの女子からは「地味子」と呼ばれている。見た目が地味だからだろう。
「おい、ブス子。お前の近くにいると、なんかキノコが生えてきそうだわ」
「うわ!? ブス子じゃん!」
クラスの男子には「ブス子」と呼ばれ、病原菌扱いされている。
地味でブス……。
普通の女子高校生と比べて、自分が地味でブスなのは理解している。
顔の半分を覆い尽くす前髪に、地味なおさげ、そしてネットで買った牛乳瓶メガネ。
できる女を目指したつもりが……『地味&ブス』認定をされてしまった。
両親は美男美女なのに、その血を受け継いでいるはずの悠理は地味でブス。
もしかしたら自分は拾われた子なのでは? そう思い、何度も両親に確認した……が、正真正銘の実子らしい。
悠理は自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
なぜなら、両親だけではなく、悠理以外の兄弟も揃いも揃って美形だったからだ。
こんなのあまりではないか。
学校を行くたびに、美形の兄弟達と比べられるのだ。
「お前の兄弟ってお前以外は美形だよなー」
「え? マジで兄妹? うわ、期待していたのになあ」
幾度なく、この言葉に傷つけられてきた。
だから、親元を離れ、地味でブスな自分でも友達ができるような都会の高校に行くことにした。
結果……現実はそう甘くなかった。
無事に入学式を終えた悠理は、教室で誰かに話しかけられるのをひたすら待った……が、誰も話しかけてはくれなかった。
だから試しに自分からクラスの人に話しかけにみることにした。すると明らかに避けられる。
無視され続けて十人目。クラスで一番のイケメン男子に話しかけてみた。
しかし、その男子生徒は有利の顔を見るや否や顔を歪めてこう言った。
「はあ? 俺と友達になりたい? 自分の容姿を見てから言えよ」
衝撃的だった。
てっきりイケメンって性格もイケメンだと思っていたのに……二次元だけの存在だったなんて。
それから二年間、友達という友達は一人もできず、時間ばかりが過ぎっていった。
友達もいなかったので、ひたすら勉強に明け暮れた。
するといつの間にか、成績が学年一位になっていた。だからテスト前一週間だけは、期間限定の友達ができた。
でも……テスト期間が終わって仕舞えば、栗ぼっちに逆戻りだ。
それにあのイケメン男子生徒(性格ブス)──加賀美浩介の取り巻きだと思われるギャル系の女子生徒達に目をつけられてしまった。
その日も悠理は、陰湿ないじめを受けていた。
自分の机には「ブス」「調子に乗ってんじゃねーよ」などなど、人を愚弄する言葉ばかりが彫られている。
小学生なら分かるものの、高校生が何をしているんだよって思う。それもご丁寧に机に掘ってくれて……随分とまあ、手の込んだいじめですね。掘る時間が勿体無いと思ってしまったのは悠理だけだろうか。
唖然と自分の机の前に立ち尽くす悠理の耳に、クラスメイトのせせ笑いが聞こえてくる。
いつもだったら、加賀美浩介の取り巻き達が悠理の机までわざわざやって来て罵声を浴びせていくのだが、その日は違った。
なんと悠理を含めた三年六組の生徒全員が、異世界召喚されてしまったのである。
突然教室の床に謎の召喚紋が現れ、悠理はあまりの眩しさに目を閉じた。
そしてふと気づくと、そこは見慣れた教室ではなく、大聖堂みたいな建物の中だった。
周りを見渡してみると、男子生徒達はただ唖然としており、女子生徒達も似たような感じだ。
「ようこそファンゼル王国においでくださいました、異世界の勇者様方。私はこの国の第一王子ルイ・アルフォードと申します」
悠理は思わずまじまじとその美少年を見た。
年の頃は十代後半だろうか?
質素な服装に身を包んでいるが、お伽話の王子様として登場してもおかしくないほどに美しく、背筋が震えるほどの色気を放っている。
身長一六〇センチの悠理でさえも見上げてしまうほどに身長が高く、体の線は細いのに、服の上からでもわかるぐらい引き締まった体。
そして、何と言ってもその容姿。
一体どうしたらこんな完璧な顔を持つ男が生まれるのだろう。
白金の髪が、ステンドガラスから差し込む光に反射してキラキラと輝き、天使の光輪ができている。
悠理の心臓が速打つ。
まるで一目惚れでもしてしまったような心臓の速まりようだが、決して一目惚れなんかではない。
それに女の自分よりも美しい男が彼氏なんて、女として惨めだ。
騒めく三年六組の生徒達を宥めながらルイ王子は話を続ける。
「皆様、お静かに。今この国は魔王率いる魔族によって危機に晒されております。どうか皆様のお力をお貸しください」
「分かりました。先ずこの世界について簡単に説明してもらってもいいですか?」
三年六組の生徒を代表して加賀美浩介が前に進み出る。
御伽の国の王子様とイケメン男子生徒(性格ブスだけど)が並ぶと、そこだけ世界が違く見えるのは気のせいだろうか?
「はい。説明する前に先ずステータスと念じてください。そうすれば、ご自身のステータスを確認をすることができます」
「分かりました。みんな、自分のステータスを確認してみてくれ」
悠理もその指示に従う。
『ステータス』
【名前】ユウリ シノノメ
【職業】聖女
【スキル】
・全属性魔法
【加護】
・女神の加護
半透明のウィンドウが悠理のステータスを表示してくれた……。
これは何かの間違いだと思って目を擦ってみる……が、何も変わらない。
え? こんな地味でブスな女が聖女とか……何かの間違いじゃ……。
悠理はとにかく自分が聖女だということを隠さなければならないと思った。
「よっしゃ! 俺が勇者だ!!」
加賀美浩介の声が大聖堂中に大きく響き渡る。
あまりの声の大きさにルイ王子が少し目を見開いている。
「浩介スゴイ! 私は魔法使いだったわ!」
取り巻き達が浩介を褒めちぎる。ガヤガヤしてかなり騒がしい。
この大聖堂は石のレンガで作られているため、少しの音も拾ってしまうようだ。
「ステータスも確認できたようなので、これからこの世界について詳しく説明させていただきます」
それからルイ王子の簡単な説明が始まった。
ルイ王子曰く、どうやらこの国は魔王率いる魔族によって危機に晒されているらしく異世界の勇者達の力を借りて魔族を退けたいのだとか。
ちなみに元の世界に帰れるか云々はまだ分からないらしい。ただこの世界で不便なく生活できるよう計らうつもりだと言っていたので、少しホッとした。
しかし次にルイ王子から発せられた言葉により悠理は凍りついた。
「それではこれから皆様にはご自身の職業について教えてもらいます。それぞれの職業に合った訓練の内容を決めていくので、くれぐれも誤りのないようにお願いします。また聖属性の魔法を持っている方がいましたら、私のところに来てください。といっても聖属性の魔法は、職業が聖職者の方限定の特別な属性です。勇者の職業もかなり珍しいのですが、聖職者の中でも聖女の職業はそれ以上に珍しい。なぜなら、聖女はこの世界に愛されているといっても過言ではない職業なので……」
聖女がいかに素晴らしい職業なのかを熱烈に語っていくルイ王子。
絶対にルイ王子のところにだけは行きたくない。先ず目立つ。それに下手したら……今以上にいじめられるかもしれない。
悠理は取り敢えず自分の職業を偽ることにした。一応全属性の魔法は使えるので、魔法使いと言っても多分バレはしないだろう。
『美人でデブスな私が聖女として召喚された件』をモチーフとして書き直させていただきました。
かなり設定が変更されています。
聖属性の魔法持ち職業を聖女限定ではなく、聖職者にしました。