サンタさんの歩く音
12月24日。今日はクリスマスイブだから、おうちでパーティをした。パパとママとぼく、あとハムスターのごろう丸と。みんなでごちそうを食べて、ケーキを食べて、とっても楽しかった。
とっこ、とっこ。パパが片手でじょうずにお皿をもって、台所にむかう。
ぼくのパパは、足が不自由だ。松葉づえが2本ないと歩けない。子どものころにジコにあって、それからつえを使って歩いてるんだって。それまではぼくと同じで、元気でかけっこがとくいな、ふつうの男の子だったらしい。
とっこ、とっこ。パパはつえを使うから、歩く時に音がする。
とっこ、とっこ。これはパパの歩く音だ。
だけどそれだけ。あとはふつうの人と何にもかわらない。ビールがだいすきで、サッカーがだいすきで、元気で明るい、どこにでもいるふつうのパパだ。(ケンタッキーのチキンとコーラもすきみたい)
いやまてよ、ふつうのパパよりすごいかも! だってぼくのパパは、車いすのレースに出るために、いつもトレーニングしている。レースで走るパパはとってもかっこいい。とっても速くて、ママと応えんしても、いっしゅんで通りすぎちゃう。ほら、すごいでしょう? うではムッキムキで、だれよりたくましいんだ。みんなでうでずもうしたら、ぜったい勝っちゃうよ。それにそうじだって、料理だってできるんだよ。(もしかしたらママより上手かも)
この前なんて、ムカデを松葉づえでバンバンたたいて、たおしちゃったんだから!
いっしょにかけっこしたり、手をつないだりは無理だけど、別にそんなの気にしない。他の子は、「こっそり」松葉づえで遊べないし、「とくべつに」車いすにのせてもらえないもんね。ふふふ。
パパは早く歩けないし、両手がふさがっているから雨の日にカサをさせない。だけど、みんなでゆっくり歩けるし、雨の日パパとママはなかよく1つのカサを使ってる。ぼくがパパの荷もつを持ってあげたり、ドアを開けてあげたりすると、「ありがとう」と言ってパパは頭をなでてくれる。大きくてごつごつした、手。トレーニングで、かたいマメやタコがいっぱいできてる、がんばり屋さんの手。そんな時、ぼくはとってもほこらしい気持ちになるんだ。
クリスマスの夜、プレゼントがたのしみで早めにベッドに入った。いつのまにか、ぐっすりねてたみたい。ふわふわとゆめを見ていた。パパの車イスにのって、ぼくがかけっこで1番になるゆめだ。
とちゅう、カサカサと紙がこすれるような音が聞こえて、ぼんやりと目がさめた。
サンタさんだ、サンタさんがプレゼントを持ってきてくれたんだ。だけどとってもとっても眠いから、目はあかない。うとうとするなかで、音だけがひっそりときこえてくる。
とっこ、とっこ。
松葉づえをつく音。そうか、サンタさんもおじいちゃんだから、つえを使っているんだね。世界中のこどもにプレゼントをくばるんだから、足がくたびれちゃうもんね。
とっこ、とっこ。
パパの大きくてごつごつした、やさしい手を思い出した。
とっこ、とっこ。
ぼくはこの音が、だいすきだ。
作中のパパ殿は、作者の父をモデルにしております。
2016年の投稿はこれでおしまいです。また来年もよろしくお付き合い頂ければと思います。ありがとうございました。




